お蔵入り.2005年6月をもってこのページの更新は打ち切りました.
H. Reiju Mihara (三原麗珠)
合理選択政治理論 (rational choice political theory) ,特に社会選択とゲーム理論による政治経済分析の代表的テキストと拠点校をこのページで紹介します.また,関連学会とジャーナル・書籍検索・個人サイトへのリンクも提供します.
合理的選択理論はミクロ経済学に見られるような分析的モデルによって政治現象を説明しようとするもので,特に個人の合理性によって現象を説明しようとすることから,この名前でよく知られています.他にも実証政治理論 (positive political theory)(主義主張を理論化する規範的な「政治理論」と区別した呼び方)とか新制度論(手続きやルールが重要である点を強調した呼び方)とか政治経済学と呼ばれることもあります.ここで主に対象とする(価格理論とは異なる,社会選択・ゲーム理論による手法を開発してきた)ローチェスター学派の実証政治理論は,げんざいでは(価格理論でいう部分均衡分析を主としてきた)バージニア学派の公共選択論とも区別しがたいものになっています.なお,日本政治の分析に応用されて90年代に政治学界で有名になったプリンシプル=エージェント・モデル(契約理論) は,社会選択とゲーム理論にもとづく「メカニズム・デザイン」の重要な応用分野と見ることもできます.
最終改訂2005年6月.初版は2001年8月公開.
目次
古典ではなく,現時点で標準といえそうな基礎理論テキストにはたとえば以下のものがある.政治理論の授業で私が使ってみたいテキストと考えてもらえばいい.ではどういう授業を考えているのか.政治理論の基礎になる授業では,理論の骨組みの理解を重視する予定.そのためには今日の水準から見て満足できない議論を大胆にカットすると同時に,ある程度の厳密さを保つのが効果的.そうするほうが「厳密さを犠牲にして分かりやすさをめざす」よりも明晰な論理を展開することができ,かえって分かりやすい講義ができるはず.学部レベルのミクロ経済学を学んで気に入っている学生を失望させない程度の厳密さは保ちたい.どなたかこれらのテキストのレクチャーノートもってらしたら,ぜひわけてくださいませ.
非協力ゲーム理論,特に展開形ゲームの政治への応用に重点.ロバート・ギボンズ『経済学のためのゲーム理論入門』(創文社, 1995)よりは数学は軽い.必要な高校レベル数学を簡単にまとめた付録まである.やさしい演習問題が本文中に配置されている.基本的文献の案内も充実している.2002年度の授業でほぼすべてカバーした.
ゲーム理論に重点.簡単ながら協力ゲームもあつかう.数式を抑え,政治への応用例を中心に書いている.ロバート・ギボンズ『経済学のためのゲーム理論入門』(創文社, 1995)よりは数学は軽い.政治モデルの具体例をいろいろ知っておくのにいい.演習問題あり.Caltech で学部2年生を主対象とする2001年開講の政治学入門で Ordeshook が使っていた.以下,大学カタログから:
PS 12. Introduction to Political Science. 9 units (3-0-6); second term. Introduction to the tools and concepts of analytical political science. Subject matter is primarily American political processes and institutions. Topics: spatial models of voting, redistributive voting, games, presidential campaign strategy, Congress, congressional-bureaucratic relations, and coverage of political issues by the mass media. Instructor: Ordeshook.
学部レベルのポピュラーなテキスト,ゲーム理論よりも社会選択理論に重点.ほとんど数式が出てこない.しかし数理的フレームワークを提示しながら授業で使うのはむずかしくないだろう.古典的社会選択にかんする Arrow, May, Black, Gibbard and Satterthwaite などによる定理のほか, 空間モデル (spatial model) にかんする Plott, McKelvey などによる定理を分かりやすく説明.ただし証明は与えていない.演習問題なし. Havard ではコアカリキュラムに属する社会分析のコースで使われている. Caltech の2000年開講の学部政治理論の授業で Jackson が社会選択の部分である7章まで (Part I Introduction; Part II Group choice) を後述の Moulin の本とともに使っていた.以下,大学カタログから:
PS 132. Formal Theories in Political Science. 9 units (3-0-6). Prerequisite: PS 12 or equivalent. Axiomatic structure and behavioral interpretations of game theoretic and social choice models and models of political processes based on them. Instructor: Jackson.
なお,Shepsle が編集するThe New Institutionalism in American Politics Series の多くの本は合理選択理論にもとづく.
大学院レベルの社会選択理論のテキスト.理論に特化し,厳密さと一般性とを重視.空間モデルをふくむ.演習問題あり.社会選好の最大要素の存在を探るという,一貫した視点による構成がすばらしい. 三原の2003年度の授業で採用.Caltech の2000年開講の大学院政治理論の授業 (3学期ものの最初の学期分) で Banks が使っていた.大学カタログの記述はちょっとずれている:
SS 202 abc. Political Theory. 9 units (3-0-6). Course will introduce the student to the central problems of political theory and analysis, beginning with the essential components of the democratic state and proceeding through a variety of empirical topics. These topics will include the analysis of electoral and legislative institutions, legislative agenda processes, voting behavior, comparative political economy, and cooperation and conflict in international politics. The student will be sensitized to the primary empirical problems of the discipline and trained in the most general applications of game theoretic reasoning to political science. Instructors: Banks, Ordeshook, Alvarez.
刊行時点ではもっとも本格的な大学院レベルの実証政治理論のテキスト.2章の戦略的操作不能性と3章の遂行理論は,有名な経済理論のテキスト MWG (Andreu Mas-Colell, Michael D. Whinston, and Jerry R. Green. Microeconomic Theory. Oxford University Press, New York, 1995) にも出て来る話題.政治理論の例が入っていること,不完備情報のメカニズムデザインをカバーしていないのが特徴.4章以降は経済学大学院ではまず扱わない内容であり,政治理論の専門家を目指す方にすすめる.
経済学あるいは政治学の大学院コース用の教科書. モデリングの手法に100頁,再分配政治に85頁,比較政治に73頁を割く.動学や金融政策もあつかう. 従来のマクロ経済政策の理論よりも政治過程を詳しくモデル化し, 公共選択論よりもゲーム理論的アプローチを徹底し, 合理選択政治理論よりも経済政策の分析を重視しているとのこと. 演習問題の正解が別冊で入手できる.
政治理論の授業で使えそうな理論テキストで,かならずしも政治学のオーディアンスをターゲットにしていないものを以下にいくつかあげておく.
協力ゲームや社会選択理論をあつかった研究書.規範的関心が強い.社会選択については古典的環境が中心で,空間理論はあつかっていない.演習問題あり.香川大学の1997 年度 「規範経済学の基礎:公理的アプローチ (あるいは規範経済理論をモチーフとした数理的言語能力トレーニング) 」という外書講読ですべてカバーしたことがある.Caltech の2000年開講の学部政治理論 (PS 132, Formal Theories in Political Science) の授業で Jackson が 厚生主義にかんする 1, 2章,そして投票と社会選択にかんする9-11 章を前述の Shepsle and Bonchek の本とともに使っていた.
合理選択理論をきちんとやりたければ,ゲーム理論は欠かせない.ここでは値段も手ごろで副読本として採用しやすい文庫をあげておく.戦略形と展開形はもちろん,情報不完備ゲーム・交渉ゲーム・協力ゲーム・進化と学習のゲームなど,幅広い話題をカバー.具体的数値例にもとづいて解説.日本語文献ガイドも充実している.ただし政治学の例はほとんどない.2002年度の授業で非協力ゲームの部分をカバー.
学部生向けに空間モデルを解説.
契約理論アプローチ.
上記 Laffont (2000) よりも簡単.
フォーマルな政治理論における社会選択理論を解説した本文152頁の短い本.数多くの定理が簡単に紹介されている.McKelvey's Chaos Theorem や uncovered set, yolk のほか,戦略的投票や議事操作などの最近の結果も.
日本語では類書があまりない,合理選択論の幅広い案内.論理展開の数学的緻密さよりも,ダウンズやオルソンといった古典的著作の (特異でアドホックなものもふくめた) 議論を重視.経済理論の厳密さに慣れた読者は議論のギャップに悩むかもしれない.
合理的選択理論にページを割く.「合理的選択理論の枠組み内部においても, その部分性を自覚しながら,全体的構図への接近はさまざまな形で試みられている. その側面を積極的に評価することがぜひとも必要であろう.」p. 187.
私は実証のことは分からないが,合理選択モデルを使って実証をやっている人によれば,いい本らしい.
合理的選択理論の前提にかんする論争.政治学一般と日本政治研究それぞれへの合理選択理論の貢献を検討.理論の前提についての教義論争もおもしろいが,私自身は理論を先に進めることが大切だと思っている.副読本としてアサインするならいいかもしれない.
公共経済学者による分析.有権者の投票行動・政党と選挙・選挙制度・連合政権などの章をふくむ.
日本政治を以下のプリンシパル・エージェントの関係としてとらえ,記述: 有権者と議員,自民党一般議員と自民党幹部,自民党幹部と官僚,自民党幹部と裁判官.
伝統的な解釈(Conventional Interpretations)とたえず対比させながら,合理選択理論にもとづいた議論を展開. ただしこの本で伝統的な解釈と呼んでいるのは,日本政治について英語で書かれた書籍を指している. 日本の政治学者の書いたものを指しているわけではないようだ.堤英敬さんの外書講読で何章か読んだ.
日本政治をトータルにみるために,事実と「理論」(どういうプレーヤーが強い影響力を持ったか, プレーヤーたちは互いに敵対的であったか協力的であったか,にかんする異なる視点) を セットで提供した便利な教科書. エリート主義モデル・階級モデル・多元主義モデル・協調主義モデルを応用. 第2版ではまだ合理選択理論による分析はやっていない.
最近は普通の政治学者が合理選択理論を自然にとりこんだ本を書くようになった.特に久米他 (2003) の出版におよんで,もう私のような部外者が政治過程論のテキストを紹介する時代は終わったと思った.これでこの項目の更新は打ち切る.
政党と選挙にかんする新しい研究動向を説明.現段階の研究の水準をしめす.6章「選挙制度と政党システム」や11章「政党と政権」に端的に現れているように,新制度論的アプローチを重視.
本人-代理人論 (プリンシプル・エージェント理論) にもとづいた, 包括的で本格的な政治学教科書.テクニカルな議論を抑えつつも,合理選択論の視点を重視.
上記の久米 他 (2003) に似た政治経済学視点から,いくつかのトピックを取り上げている.
標準的テキスト.カバーする範囲が広い.
社会学や心理学アプローチもふくむ最近の研究成果をひろく紹介.合理選択理論が今後もっとも有望なアプローチであるという気になる.しかし合理選択理論による分析はあまり詳しくない.文献案内が便利.
選挙制度の分類,各国の制度の記述,提言など.簡単な資料として使えそう.
ここで挙げた以外の書籍の検索については,「書籍の検索」のセクションを参照.
Caltech (カリフォルニア工科大学) の社会科学博士過程ではミクロ経済理論と政治理論の両方を必修にしており,特に実証政治理論やメカニズムデザインそして社会科学実験に強い学者を輩出している.社会科学科の授業については,大学カタログの以下の叙述を参章: 政治学 (PS)・経済学 (Ec)・社会科学 (SS; 大学院の政治学と経済学は社会科学の 200番以上の科目になる).
Caltech の政治理論の授業でどんなことをやっているか,別ページに体験談を書いてみた.
「ローチェスター学派」として知られる合理選択論の拠点.
アメリカ政治学会のジャーナルのほか,教育関係のリソースもけっこうある.合理選択理論のセクションというのは存在しないようだが,計量分析を主にあつかう政治学方法論セクション (The Society for Political Methodology and the Political Methodology Section of the APSA) (べつサイトに移ったかも)に理論家もちらほら見当たる.このセクションのページからワーキングペーパーも入手できる.
アメリカ経済学会の学術誌,政治学も一部ふくむ経済学文献データベース EconLit の案内,経済学リソースへのリンクなど.
日本国内での主要な学会としては,日本政治学会,日本政治研究学会,日本経済学会がある.
私がチェックしておきたいと思っているジャーナルを以下にリストする.政治学・経済学・経済理論・ゲーム理論・社会選択・公共経済学など,合理選択政治理論に密接に関連した主要ジャーナルをアルファベット順にリストする.ちなみに鍵になるジャーナルは以下のようなもの.政治理論の先端的論文がよく載るジャーナルとしては,American Political Science Review, American Journal of Political Science, Econometrica, Journal of Economic Theory がある. 経済理論の先端的論文がよく載るジャーナルとしては, Econometrica, Journal of Economic Theory, Review of Economic Studies, Quarterly Journal of Economics がある. 政治理論を主にあつかった学際的ジャーナルとしては Social Choice and Welfare や Public Choice がある.
その他のジャーナルは以下をチェック:
なお,EconLit で用いられている Journal of Economic Literature (JEL) Classification でいえば,政治理論や社会選択は主に D7 (Analysis of Collective Decision-Making) にあたる.H (Public Economics) も関係ある.規範経済学については D6 (Welfare Economics) も関係ある.
合理選択政治理論に論文掲載の場を提供している日本語ジャーナルには以下のものがある:
国立情報学研究所の学術コンテンツ・ポータルでは,論文や雑誌を検索できる.
このページに挙げるのも妙だが,利用の便を考えて書籍の検索サイトをいくつか挙げておく:
本を売るためのサイトであるためか,関連する本を勝手に挙げたりしてくれる.単なる検索サイトよりは楽しい.
「これから出る本」を出版している協会によるページ.現在日本で入手可能な書籍を検索できる.出版社による本の解説ページへリンクがある場合もある.
1980年1月以降に出版された日本の新刊書籍を検索できる.週刊や日刊の新刊リストは,冊数が多すぎて私の手に負えない.
全国の大学図書館が所蔵する図書・雑誌を検索できる.絶版などで買えない本はここで探すことになる.
個人によるページを厳選してリストした後 (ラストネームのアルファベット順),その他のリンク集を付け加える.
和文・英文ジャーナルのリストほか,政治経済学関係のリソースへのリンクが充実.
ゲーム理論アプローチの政治理論シラバスをいくつか紹介.
研究者や学会,研究会,リソース集などのサイトへアクセス.特に個人ページへのリンクが充実している.
「社会選択と政治」「ゲーム理論と政治」「現代の正義論」など5科目(2001年12月現在)の講義ノートが有用.
刊行された社会選択理論の論文をリスト.
ゲーム理論関係のリソースが充実.個人ゲーム理論家へのリンクも充実.
公共経済学の講義スライドやミクロ経済学の演習問題を掲載.
ゲーム理論やその応用コースのための講義ノートなど,教育のためのリソースが特に充実.
だいぶ充実してきた.
日本の政治学者個人ページなどへのリンク.合理選択論は日本ではまだまだ少数派.
経済学関係の膨大なリソースへのリンク.