香川大学 1996 年度 教養教育科目

授業科目:教養ゼミナール
講義テーマ: はじめてのL:そのこころとテクニック
教官名:三原麗珠(経済学部)
単位数:2単位
開講学期:前期
曜日・校時:金・3(1240-1440)

「人は死ぬ/草は死ぬ/ゆえに人は草である」
——守中高明

ヨハネによる福音書は言う「はじめに言葉があった……言葉は神であった」と.伊藤比呂美は言う「わたしは意味を剥がしとりたい……わたしはいっそコトバをただの素材におとしめたい」と.チョムスキーは言う「言語は文の集合である」と.田村隆一は言う「ウイスキーを水でわるように/言葉を意味でわるわけにはいかない」と.ソシュールは言う「言語は記号の体系である」と.吉本隆明は言う「ぼくは ぼくの冷酷なこころに/論理をあたえた 論理は/ひとりでにうちからそとへ/とびたつものだ」と.三原麗珠は言う「不意に光る模造されたオレンジのきれいな言葉をカットして/そのふるえる夥しい痛みをつないだ過剰な冷たい美しさの幻覚が//あなたの欠点です」と.

1.授業の概要

このコースでは論理学の立場から,言葉の使われ方を検討していく.論理学を学ぶことは,(公理化される傾向が強い)現代学術や(論理からの逸脱や自己参照を戦略的にとりいれる)現代芸術への理解を深めることにもなるだろう.

論理学はもっとも美しく興味深い学問分野のひとつだ.しかし提示のされかたによっては,もっとも冷たく退屈なものにもなりがちである.(私見だが,これには本質的な理由がある:それはその対象がしばしば「意味を剥がされて」記号空間によって置きかえられるためだ.)そこでこのコースでは,記号の操作(テクニック)だけでなく,その背景の哲学(こころ)を明らかにすることも重視する.

2.授業の方法

教科書にしたがう.自習が主で,授業は補助的なものと考えてもらいたい.カバーする範囲が広いので,スピードを重視する.

3.受講上の注意

教科書をかならず読むこと.数学の知識は要求しないが,数学的思考法の極端に苦手な学生には薦めない.

4.単位の認定方法

期末試験を中心とする.問題の8割以上は事前に公開したものの中から出す.

5.その他

言語学・哲学・芸術批評・数学・情報科学・そして「理論」と名のつくあらゆる学問,に関心のある学生に薦める.

6.授業計画

序論 論理と言語
1章 命題論理(意味論,構文論)
2章 述語論理(前史,基本概念,意味論,構文論)
3章 パラドクス・形式主義・メタ論理(前史,ラッセルのパラドクス,形式主義,メタ論理)
4章 直観主義論理(排中律の拒否,公理系 LIP,意味論,妥当式)
5章 不完全性定理(定理とその証明の輪郭,形式的に決定不可能な命題について,証明,公理系の内と外)

7.教科書

  • 野矢茂樹『論理学』東京大学出版会,1994.¥2600.素朴な疑問をたいせつにした,楽しめるテキスト.「直観主義論理」の章もある.(中央館開架 116N97)
  • 8.参考書

    以下はすべて入門書だが,前提となる数学的成熟度が異なる.なお最後の2つはコンピュータ・サイエンスを専攻する学生を対象にしている.請求記号の示されたものはすべて図書館中央館の開架図書となっている.

  • 沢田充茂『現代論理学入門』岩波新書 452,1962.論理学を広い視野からながめた,哲学者による入門書.(116.3SA93)
  • ジェフリー・R『記号論理学:その展望と限界をさぐる』(原書第3版)マグロウヒル,1992.「真理の木」の方法を駆使した初級テキスト.「計算不可能性」「決定不可能性」「不完全性」などの章をふくむ.(116.3J34)
  • 清水義夫『記号論理学』東京大学出版会,1984.中級レベルへのつながりを意識した,かなり高度な初級テキスト.「ブール代数と論理」の章をふくむ.不完全性定理は付録であつかわれている.(116.3Sh49)
  • 前原昭二『数学基礎論入門』朝倉書店,1977.不完全性定理にとくに詳しい.
  • 福山克『数理論理学』培風館,1980.(410.8G34B.6)
  • Shoenfield, J.R. Mathematical Logic, Addison-Wesley, 1967. 数理論理学専攻者のための,上級の標準的テキスト.
  • 林晋『数理論理学』(コンピュータ数学シリーズ3)コロナ社,1989.(410.96H48)
  • 小野寛晰『情報科学における論理』日本評論社,1994.

  • 試験結果

    登録者7名,期末試験受験者6名,合格者6名.優5,良0,可1,不可0.

    以下に期末試験の点数と評定とをしめします.20点満点です.

    点数 19 18 17 17 17 11
    評定


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    三原麗珠

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