香川大学 経済学部 経済学科 1997 年度 専門教育科目(経済学科・情報管理学科学生対象)

授業科目:ミクロ経済学 I
単位数:4単位
開講学期:後期
講義日時と場所:水曜 1030-1200 E11教室;金曜 1420-1550 E11教室
教官:三原麗珠 / H. Reiju Mihara
Office phone: 0878-36-1878

1.概要

現代経済学のひとつの顕著な傾向は (マクロ経済学・公共経済学・産業組織論・法と経済学・貨幣経済学・組織と制度の経済学など) あらゆる応用分野が,一般均衡理論やゲーム理論などの,通常〈(ミクロ)経済理論〉と総称される理論群を基礎として再構築(あるいは新たに構築)されつつあることだ.経済理論はミクロレベルでの仮定である〈個人の合理的選択〉(個人は目的を持ちその目的を達成するのに最適な方法を選ぶ,という仮定)から出発する.社会はそれじたい意思を持つわけではないので,社会のなかで実際に選択(行動)を行う単位は〈社会〉ではなく〈個人〉である.だが従来の経済学は個人軽視のイデオロギー(とくにケインズ主義)に影響され,社会全体を分析するさい個人をしばしば無視してきた.経済理論にもとづく経済学再構築の傾向は,個人軽視のイデオロギーに侵されてきた経済学を,本来の姿である「選択の科学」として再生・復興しようとする動きだ.

このコースでは,実証的または仮想的な具体例をあげながら,簡単な数学をもちいて経済理論の論理構造と意味を明らかにしていく.〈公共経済学〉とよばれる応用分野の基礎,とくに政府(合法化された強制力を持つ機関;ただし法はその機関が独占)の介入なしでは困難とされてきた「公共財(各個人に別々には供給できない財;司法・治安・国防をふくむとされる)の供給」にかかわる分析にやや重点を置く.

2.講義要目

ミクロ経済学とは(1回) 消費者行動の理論(2回) 企業行動の理論(3回) 市場均衡と競争均衡(2回) 不完全競争の理論(2回) 厚生経済学の基本命題(2回) 戦略的行動と市場の失敗(3回) 価格機構と国際貿易(比較優位の原理のみ)(1回); 最良の政府とは?(アスキュー論文をもちいる予定); 以上のほかに演習のセッションを数回もうけ,計算問題を中心に解説する

3.講義方法

ほぼテキストしたがう.学生の理解しにくい部分をクローズアップしながらすすめ,「読めばわかる」部分についてはごく簡単に済ませる.したがって,テキストをきちんと読むこと.講義にはプロジェクターをもちいる.あらかじめ去年のノートを入手しておけば,予習に使えるだけでなく,講義中に(画面をノートする手間を減らして)理解することに集中できるだろう.このコースは集中的かつ効率的に経済理論を学べるようにプログラムしているつもりだ.しかし講義へ出席するほか,(標準とされる)一週間 8 時間以上の予習復習をしなければ,いちおうの理解に達すること(評価 B 以上)はむずかしいだろう.(学則によれば,4単位のコースでは 45×4=180 時間の学修を必要とすることになっている.約 15 週間あるので,これは週あたり 12 時間だ.そのうち講義を4時間とかぞえても,週8時間は予習復習することが標準である.)

4.テキスト

  • 石井,西條,塩澤 『入門・ミクロ経済学』有斐閣,1995.¥3200.図表を駆使して,かなり高度なトピックスの説明に成功.西條の章はところどころ楽しく愉快に書かれている.[書評へリンク]
  • 5.参考文献

  • 細江守紀 編著『公務員試験 選択枝で覚える経済学』改訂版,実務教育出版,1990.¥1068.これを使うからといって,べつに役人になることをすすめているのではない.
  • アスキュー・デイヴィッド「リバタリアニズム研究序説:最小国家論と無政府資本主義の論争をめぐって」『法学論叢[京都]』135(6), 1994;137(2),1995.「政府の最良のあり方」という規範分析を行うさい,「政府の存在しない社会」について無視することは片手落ちだ.(最良の政府は無政府かもしれないから.)だが従来の社会科学は,無政府社会を無視してきた.アスキュー論文は,この重大な知的空白を埋めるための第一歩となるだろう.
  • 以上のほかに,有料あるいは無料のハンドアウトを配布する.これらはできるだけ三原の Web page [省略] からも入手できるようにする予定.[ほらね.オプションとして,以下の本もすすめる.

    - 奥野正寛『ミクロ経済学入門』日本経済新聞社,1990.¥728.応用・理論両面につうじた一流の経済学者によるすぐれた入門書.文庫でありながら,説明はひじょうにていねい.市場への強い不信感を随所に表明していている.
    - Friedman, D. The Machinery of Freedom: Guide to a Radical Capitalism, 2nd ed., Open Court, 1989. 〈無政府資本主義〉への最良のガイド.独断的な議論を排し,経済分析を駆使.

    6.関連授業科目

    微分積分学(「応用数学」または「経済数学 B」)を既習であるか,並行履修することが望ましい.「経済学概論 A, B」は不要.経済理論をさらに学びたい学生には,「集合論」(教育学部)の履修を強くすすめる(経済学部の卒業用件としては認められないが,成績証明書には記録される).きわめて関連の強い科目としては,「ゲーム理論 I 」「公共経済学」「数理経済学」がある.いうまでもなく,その他ほとんどの現代経済学の科目が経済理論を前提としている.

    7.単位認定方法

    期末試験による.問題はすべて客観式(選択問題・正誤問題・数値で答える問題など)で,コース全体から(講義回数を目安にして)まんべんなく出す.(去年はこれをかんちがいしていたのか,最後の数章を無視して失敗したと思われる受講者が多かった.)試験準備に役立つように,「復習問題」を重要度におうじて「絶対」「重要」などと分類して,事前にアサインしておく.試験問題のほとんどは「絶対」または「重要」とした問題の類題である.また,「絶対」とした問題(選択式を主とする 50-60 題ていど)の類題をすべて正解すれば(ほかの問題にはランダムに答えたとしたときの)得点の期待値が合格点に達するように配慮する.


    参考:96 年度に開講された同科目のシラバス補足や試験結果などを知りたいひとはここクリしてね. 試験問題もあります.


    復習問題・訂正など(ハンドアウト)

    このハンドアウトは
    micro97handout.pdf
    から入手できます.ファイルは Acrobat Reader 3.0J (http://www.adobe.co.jp/international/jpacrodown.html からダウンロードできる)があれば読めます.

    目次は以下のようになっています.

    注意.ちなみに Windows 上でこの pdf ファイルを印刷したところ,プライム符号(' )が抜けるというバグをハンドアウトの pp. 4-5 に6 箇所発見しました.(私が使ったフォントがまずいのかもしれないが.)正しくは以下のようになります.これら以外のバグは発見していません.


    上記ハンドアウト「復習問題・訂正など」から

    1.ごあいさつ

    今年は T. Saijo らによるテキストを使っての2度目の講義です.去年私は一週間16時間程度をかけて準備するするはめになり,徹夜が多くて本業(研究=論文書き)の方がおろそかになりました.ですから今年は(このコースについては)すこし楽をさせてもらいたいと考えているところです.もちろん学生のみなさんには苦しんでもらいますので,ご心配にはおよびません.

    授業はできるだけプログラム化して,勉強しやすくするつもりです.授業では雰囲気とかアイディアをつかむことに集中し,きちんとした理解はテキストでするのがいいでしょう.今年は親切にも講義ノート(OHP フィルムのコピー)を販売するという前代未聞の大サービスを行っています.(高校時代に県の書道コンクールで「特選」を獲得したという芸術的達筆のため,ところどころ読みづらい文字があることをお詫びいたします.)講義よりも自習の方が理解できるというタイプの人(私がそう)でも,そのノートから得るところは大きいでしょう.ただし前年度「講義に出席せずに,テキストだけを読んで理解するのはほとんど無理(時間がかかりすぎる)」という意見がけっこうあったので(講義出席者の意見だけどね),自習タイプのひとは気をつけてください.

    できればときどきは雑談とか冗談も交えながら楽しく講義をしたいのです.でも学生の反応が鈍いのでひじょうにやりづらいのが実情です.さんまの夜のテレビ番組に出てくる女子大生のような反応があればこちらも乗ってくるだろうけどね.香川大学は軽くて明るくて幼稚園のようなのに,なにか学生の元気はないなあという感じ.会話のスピードに合わせて冗談を思いつくほど頭の回転が速くない私も悪いのですけど.私も少しは努力するつもりではあります.書かれたものでいいという人は,私のWeb [省略] でも参照してください.大学の不当な言論規制によって葬られそうになっているページなので,そうなる前に早めに見ておくといいでしょう.

    成績評価はそれほど厳しいとは思っていません.去年は登録者が700名受験者が552名で,合格者は233名でした.合格者の割合は登録者にたいして33パーセント,受験者にたいして42パーセントでした.A は12名で,B は44名,Cは177名,不合格の X が 319名という内訳です.これでも他の教員の科目に比較すれば,厳しい方みたいです.じっさいは他の教員(特に若い教員)も本当はもっと落とすべきだと考えているようですけれど.(日本人相手の商売なのだから,気にせず落とせばいいのにね.)

    このクラスをまともに理解することを目指す学生は,標準的な週の学習時間を13 時間くらいはみておくべきでしょう.いちおうの理解(評価B 程度)でいいなら一週間8時間程度の予習復習でもなんとかなるかもしれません.運がよければ,さらに短い勉強時間でも単位が取れることもあります.去年は三日漬けで B をもらってしまった強運のひともいました.去年「今年,就職活動をしました.そこで体験したのは香川大学がいかにぬくぬくとした場所であったかということでした」とコメントした学生がいました.その通りだと思います.その人は他の多く(46名)の学生同様,残念ながらあと1点足りなくて「不可」になってしまいました.その意味ではこの科目に関するかぎりは,ぬくぬくしていない判定を受けたわけです.試験問題は多肢選択式が大部分であるため,準備をちゃんとしていない学生にとってはギャンブル性が強いものであるといえるでしょう.だから「たった1,2点のちがいなのだから,どうか通してください」などと泣き付いたところで,私は「それは運が良くなかったね」と答えるくらいです.ギャンブルとはそういうものですから.

    経済学科の学生には,このコースに合格できないことが最大の原因となって香川大学を卒業できなくなる方もきっと現れることでしょう.そうなったとき「自分はもうだめだ」などと勘違いして自殺したりするのは個人の勝手であり,それもひとつの選択でしょう.しかし「まあ一度くらいは大学をやめるのもいい体験だ」と楽観的に考えるのがいいのではないかと私は思います.いったん就職するなり放浪するなりして時間をおいた後,大学を出ることに価値があると実感したり,純粋な意味で勉強がしたくなったりした時に大学にもどってくるという手もあるのです.若年人口の減少という理由もあって,すでに多くの大学が「社会人入学」などといって学習能力の疑わしい学生さえなりふり構わず入学させていますから,今後大学に戻るチャンスが減ることはないでしょう.(もちろん学習能力の欠如は制度的な条件[補習など]さえ整えばなんとかカバーできるので,学習意欲がないよりはましです.)少なくともいま言えるのは,ミクロ経済学もマクロ経済学も統計も分かっていない学生を卒業させて香川大学経済学科の価値を下げるつもりは,私にはないということです.

    なお,シラバスで参考文献としてあげられているアスキュー論文(アスキュー・デイヴィッド「リバタリアニズム研究序説:最小国家論と無政府資本主義の論争をめぐって」『法学論叢[京都]』135(6), 1994;137(2),1995)は他の論文に入れ換える予定です.


    梶井厚志さん(http://www.sk.tsukuba.ac.jp/~akajii/)の講演を1997 年 12月12日に開催しました.その講演のスライドは1998年1月現在,彼のページから入手できます.ただし講演の内容はミクロ経済学 I の試験範囲からは除外することにしました.

    以下は掲示した「講演会へのお誘い」 からの抜粋です.


    テキストの著者のひとりである西條辰義さん(http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~saijo/)が,第6章「厚生経済学の基本命題」と第7章「戦略的行動と市場の失敗」の内容を発展させた(しかしかなりテキストに近い)コースを大阪大学で開講しています.彼のホームページからはそのコースのレクチャーノートが入手できます:http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~saijo/micro/97/micro-ii.html


    ミクロ経済学 I 試験情報(掲示)

    1998年1月19日
    H. Reiju Mihara
    〒760-8523 高松市幸町2-1 香川大学経済学部
    三原麗珠

    ミクロ経済学 I (経済学科・情報管理学科対象)の試験を受験しようとする方のための情報です.以下の点に注意して,できるだけ効率的に試験準備をしてください.

  • 梶井厚志氏の講演(「現代経済理論の風景:金融派生商品の価格付け理論について」1997 年 12月12日)は試験範囲から除外する.
  • シラバスにあるアスキュー論文(アスキュー・デイヴィッド「リバタリアニズム研究序説:最小国家論と無政府資本主義の論争をめぐって」『法学論叢[京都]』135(6), 1994;137(2),1995)は試験範囲から除外する.
  • 佐伯胖『「決め方」の論理:社会的決定理論への招待』(東京大学出版会,1980)の IV 章「個人の自由と社会の決定:自由主義のパラドックスをめぐって」(pp. 111-161)を試験範囲にふくめる.
  • 試験問題は講義の全範囲からまんべんなく出る.細江問題集だけをやっていても合格はむずかしいだろう.ちなみに前年度の問題の出所は以下のようであった(1問1点;30点満点):
  • トピックス 講義回数 問題数
    消費者 ch2 2回 4問
    生産者 ch3 2回 4問
    不完全競争 ch5 2回 4問
    完全競争と厚生経済学 chs4, 6 4回 8問
    戦略的行動と市場の失敗 ch7 3回 6問
    貿易 ch8 1回 1問
    アスキュー論文 2回 3問
  • 試験で重視される問題などは「復習問題・訂正など」(通称「ミクロ経済学 I ハンドアウト」)にリストされている.このハンドアウトはすでにだいぶ前から生協で販売している.

  • ミクロ経済学 I 期末試験

    香川大学 経済学部;1997 年度 後期
    教官:H. Reiju Mihara
    日時:1998 年 2 月18日 10:30-12:00

    期末試験とその正解を pdf ファイルで置いてます.実際の試験では図は本文に入れてます.最後のページにあるわけじゃあない.権利論(自由とパレート原理にかんするセンのパラドックス)にかんするオリジナルな問題(最初の3題)あたりがユニーク.すべて選択式の問題です.試験監督するひとは,けっこう暇つぶしができていたみたい.受験者の方はさっさと帰る人も多かったけど…… 

    学生へのおわび:試験の後半(2, 3, 5 章の内容)で,去年の問題の再利用(もちろん微妙に手を加えています)が予定より多くなってしまいました.意図的にやったのではなく,試験作成の時間切れが原因です.また,それぞれの問題の正解が2番目の選択肢にやや偏っていました.これも意図的ではありませんでした.(なぜそうなったか?心理学的な分析できる方,教えて.)


    ミクロ経済学 I の試験結果と成績判定基準


    香川大学 経済学部;1997 年度 後期
    教官:H. Reiju Mihara
    (この掲示の完全版は [ホームページアドレス] で見ることができます.)

    ミクロ経済学Ⅰの学期末試験の結果が出ました.

    予告どおり,問題は全範囲をまんべんなくカバーしていました.

    トピックス 講義回数 問題数
    消費者 ch2 2回 4問
    生産者 ch3 2回 4問
    不完全競争 ch5 2回 4問
    完全競争と厚生経済学 chs4, 6 4回 7問
    戦略的行動と市場の失敗 ch7 3回 6問
    貿易 ch8 1回 2問
    数理的権利論 2回 3問

    数理的権利論の3問以外は,すべて復習問題の「絶対」または「重要」としたものの類題でした.もとになった問題の重要度べつに出題数を見ると次のようになります.

    97年度 96年度
    絶対 18 15
    絶対の応用 1 4
    重要 8 8

    シラバスにあった基準(「絶対」とした問題(選択式を主とする 50-60 題ていど)の類題をすべて正解すれば,得点の期待値が合格点に達するようにすること)にしたがえば,合格ラインは 21点(=18+12/4)でよかったことになります.しかしこれでは標準(60パーセント)である18点を越えるので,じっさいには18点をラインにすればいいと考えていました.いくら悪くても合格ラインが去年より低くなることはないと思っていたのです.(去年のラインは15点.)

    試験結果から分かったのは,たしかに去年より高得点者の割合がふえた一方,10点以下の低得点者もかなりいたということです.グラフ(カラーは今年のもの,黒白は去年のもの)から分かるように(グラフはかなりおもしろい形をしています),去年より得点の散らばりが大きくなっています.平均点は去年とほぼ同じでした.今年の合格者の割合が去年のそれを越えることなどを配慮した結果,不本意にも合格ラインを去年よりも1点下げて,14点とすることになりました.

    試験結果のグラフ表示

    登録者数 337
    受験者数 240
    合格者数 106
    合格者/登録者 31%
    合格者/受験者 44%
    平均点 13.72
    A(24 点以上) 17
    B(20 〜 23 点) 18
    C(14 〜 19 点) 71
    X(13 点以下) 134
    試験欠席/棄権 97

    この結果と正解は三原オフィスのドアに4月中頃まで掲示しておきます.受け取った成績が自己採点によるものと一致しなかった場合は,1998 年4月16日までに教務係へ申し出てください.


    おまけです

    以下はコメント欄への記入の一部とそれへの三原の返答(→)です.ホームページにはもっと載せてあります.[←印刷版にそう書いた.]「12 男」などとなっているのは引用された受験者の点数が 12 点で男性名を持つことを表わします.全体的に見て,去年よりコメントのできが悪いと思いました.なお,文字のスタイル(色とか太字など)はたいていの場合,三原によるものです.

  • コースの感想と期待
  • 教材
  • 祈り
  • 選択肢
  • がんばったと主張する人々,できたと主張する人々
  • 反省する人々
  • 運だめし
  • 試験問題の内容関連
  • 三原へ
  • その他
  • おしまい.


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    三原麗珠

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