[詩の墓場へ]
長期米国滞在を終えるにあたり試験的に書かれた詩
カルデラ湖 I
カルデラ湖 II
詩
(美術館の自転車)
部屋ヌード
名簿
医者の洗面所
人魚の
見えていたパンティー/見えなかったパンティー
お正月
繰り、返す
長期米国滞在を終えるにあたり試験的に書かれた詩
三原麗珠
春なんだろう
私の心のなかにもの言わぬ季節の花が咲く
悲しくないのかと私はたずねる
ワタシハ悲シクナイノデス
もの言わぬ花はこたえる
彼女もイマジネーション豊富でロンリーな言葉は刺激的です
さいきん思考あるいは記憶があいまいになった
混乱してきた と考え
意味のない夢を思い出して歩きながら考え
ていたらむかしあったレストランへはいる
いつものヴェトナムの彼女が
科目のこと好きだといったのはあの建て物だった
だれだろうああ彼女だったんだ
と彼の終わった橋まで来て気づいたり
そういえば戦争もあったがとりあえずは
関係ないな と考え
彼は水死体だったとか
そういうことまで考えてしまって
私の世代にも戦争はあったと歩いていると
美術館もあのころはなかったのだ
夢で水のそばを歩いていたらとても爽やかなので
きょうは早春の果物でも食べよう
思春期の私にはそれがいいのは
自分で言いきかせて通った道があった
電車は成城学園前を過ぎ
季節が過ぎ
素麺のように美し過ぎる女子高生と
町田を過ぎ いつも
私を過ぎることが多かった
いいかえればコカコーラは黒かったということは
自分ではそれでもよかったが
水辺をゆっくりと流れていく白い
長靴はいつもそこにあって
じつはぜんぜん流れてはいなかった
そういう時代だったのだ
しかし彼女はどこへ行ってしまったのだろう
私は注文がカレービーフが多かったことは
別の店での出来事だったか
既婚のあとくれた雑誌に
母に似た裸体が微笑んでいて
キモチ悪かった外国へ
住んでしまった
その友人とよく行かなかったレストランだが
そのころ私は都会生活者としての完成をみたのかもしれない
彼女はしかしどこへ存るのだろう
時計と 地図を調べた
とりあえず国際化時代だから私はあちらへ来た
つまり中国女性を愛したということだ
そういう民族的肌白さと統計もあるが
ここは夢の物語の壁の肌の白さのことだというのは
時刻が長く皺よる現象をしめしたといえなくもない
そっと想像で触れて破ってみると
赤い血がこころの中でだけ溢れる
あの 古い光景がいまある地図に消えている
だが花は萎れない 彼女は存在しないからだ
彼女の存在しない身体を抱いてみた
空気がふっと
腕の周りを流れていった
(という映像に触れた気がした)
情熱とは何か 青春とは?
について書かれた老人向けの詩を読む古惚けた
手紙を書いている
古惚けた若い女性が私の苦笑いを誘う
美術館でこういうTシャツを購入する私だから情熱は知らない
狂いかけた猫が目で見つめるような
水辺にはかもめもいて
墓も寡婦もいて
遠くから愛が流れているのだろうか
それはポトポトと垂れる血のように
あたたかいことだろうか
などと考えながら人込みのなかを立ち止まると
犯罪者がテレビ画面のなかで
包丁を魚のなかに切り刻んでいる
赤い 血
私は叫び
空から小鳥が落とす糞を意図せず受けとる
なまあたたかさが残る
広告の貼りついた烏が優しく微笑む
これで僕の詩はおしまいだ
しかし詩はどこへ行ってしまったのだろう
僕ハ
孤独な烏が想像力に乏しい言葉の夢をいっこうに語らないので
悲シクハナイノデスケレド
(April 23, 1995)
カルデラ湖 I
三原麗珠
ドアーのそば プラスチックの袋がある
(火山は好き)
海の底はいつも大雨 ではない
ゼリーが固まったみたいな湖ができている
ゼリーが緑に固まったみたいな………
(恐竜がいるのかしら)
(化石があるのかしら)
プラスチックの袋 指で触れると
なつかしいやわらかさを感じる
(溶けてしまったチョコレートみたい)
Valentineユs Day の次の日に
自殺したあなた その
内臓が内部で流動している
緑の湖はいつも緑ではなく 時とともに移ろう緑だから
そのように日は沈み
カルデラ湖は暗黒を迎える
袋の中身はゼリー状に固まり
私はドアーを閉める
(March 19, 1995)
カルデラ湖 II
三原麗珠
朝 ドアーを開ける
いたのは恐竜ではなかった
あったのは化石ではなかった
あったのは 巨大な軍事基地だった
湖面にくじらのような潜水艦が現れていた
《カルデラ湖は水死体の泳ぐ水族館です》
熱い火山が爆発する 熱い
冷たい雨が降る 冷たい
(水死体は嫌い くじらは好き)
大雨が降って 基地は湖底
(基地はきっと冷たい雨の降るまえにつくられたのだわ)
基地は 生きている
あなたのためにひとびとが集まってきた
冷たい死体を燃やす……
熱い灰を集める……
溶岩はゼリー状では熱すぎるので
冷やして固まらせて砕いた
(恐竜の化石の顆粒みたい)
(あたしの嫌いなおみやげを送るわ)
大雨が降って 墓地は………
(March 19, 1995)
詩
三原麗珠
雪のなか おだやかな狂人がわたしに笑えみ過ぎて行く
左腕にかかえられた黒猫が見つめる木の枝には
こわれた凧がかかっている
黒猫の目は緑で 彼女の陰毛は黒で
ふたつの裸足が雪の上に白い跡を残して過ぎて行く
空から知らない叫びが落ちてきて
彼女の樹氷に突きささる
「鳥だろうか」
長い黒髪がやさしく震えるので
きっと幽霊ではないと確信する
池には氷が張っていて
彼女は全裸のまま池に飛び込む
黒猫は氷の上に跳ねかえり
雪空にまっ白になりながら舞いあがり
おおきな風に凧が吹きあがり
びしょ濡れの狂人はわたしに駆けより
あたたかな微笑を浮かべる 雪の上に崩れる
猫はかろうじて凧につかまったまま空の彼方へ消えさり
もうなにも美しいものはない
救急車のサイレンが遠くの夜を赤く彩る
騒がしい音が静けさを一瞬やぶる
やわらかだった髪は凍結し
わたしはその樹氷のような枝をいっぽん
大切のもののように折って
知らないはずのあなたにさようならを祈って
わたしの行くべき方向をふたたびめざす
倒れたあなたの透明な裸体は
白い雪が覆い隠し
一面の白のなかのわずかな隆起部として
わたしの心のなかに残された
「あなたの名前、知っている気がするわ」
たしか彼女はそう呟いたが
(March 6, 1995)
(美術館の自転車)
三原麗珠
美術館の自転車
おそらく記憶の底の 私的な廊下
通りすがりの私が繰り返し
ページを埋めていった壁時計の
文字によりねじられた噴水そして 具体性のある広場
の縁に重なる緑の草原に沿う滑走路を掠めて
走りさる猫たちの苗の描かれた抽象的なタンク
に浮かぶある種の動物の思い出を満たして
すべって行くたぶん私の自転車
のある美術館
廊下を歩けば廊下に繋がり
廊下を歩けば廊下に戻る
つまりいつか広場に ではなく
名づけの不安のある
二匹の愛情をいきいきと破壊する
ことによりなりたつ白い価値について
考察を開始するための右の部屋の右奥で
笑う植物の歴史により作品を成立させるこころみをもつ
レストランの脚のある昼食の階上で繰り返される
擬態としてのきっと私の自転車
それらはそれらに似たものでありつつもそれらとはちが
っていることによりそれらとしてなりたつ空間にあり
ときに私の腕にからまる機械の擬態を期待するみたいに
あらゆる方向に私有制の道具を氾濫させつつ
私的な笑いが過去を史的に滑走する
ことにより鑑賞されることを望む真昼のある部屋
にある作品
(March 4, 1995)
部屋ヌード
三原麗珠
おまえには部屋があった。部屋があったということはわ
れわれはそれを見ることができたはずだということだ。
だがおまえの部屋は禁じられていた。われわれに理解で
きない諸般の歴史的事情によりおまえの部屋は禁じられ
ていたのだ。いやそれは単に過去の遺物であるというよ
りわれわれとおまえにたいするある種の配慮によって禁
じられていたのかもしれない。現に「部屋ヌード反対」
などというポスターが地下にある大学もあるのだ。数多
くの批判と問いかけのなかにあって部屋は四つの壁と一
つの床そして一つの天井によって支持されていた、はず
であった。もちろん部屋にはドアというものがあり、い
くらかのひとびとはそこを通り抜けることはできた。地
下の食堂を抜けだし病院前を通り抜けキャンパスを裏に
出たものたちは産業の地理的事情というものを感じない
わけではなかった。だがむしろ理由は産業ではなく政府
にあったのかもしれない。彼らは単に官僚制の収縮によ
り雇用機会の失われることを嘆いていたのかもしれない。
思えばその建造物は歴史というものを持っていた。つま
りホースによる過剰な放水などということが繰り返され
た時代もあったということだ。ぐっしょりと濡れた過去
を羨むようにおまえの部屋は燃えていった。支えを失っ
たおまえの裸の部屋は濡れることもなく終わってしまっ
た。部屋ヌード反対。会議と手続きによる浪費によって
彼らの特権は保証されているのだ。部屋ヌード反対。揺
らぐことのない建造物の倫理は部屋に関するおまえとわ
れわれの契約をいつでも無効にできるのだ。部屋ヌード
反対。部屋ヌード反対。部屋ヌード反対。《我々》こそ
が自然の摂理を決めるのだから。
(January 29, 1995)
名簿
三原麗珠
私の名前も出るといいな
そうだね
僕らは地球レストランで食事をした
地球料理のメニューは苦手だから……
私の名前 出なかったわ
うん、そうだね
私たちお別れかしら
ちがうよね………
知ってる?
地球人て廃墟の上に文明を築いていたって
そしてその文明も廃墟になって また
その廃墟の上に文明を築いていたのよ
ほら、このメニューに書いてるでしょ
何度も、何度もね
「だからいつかあの廃墟にも文明が……」なんてね
「そのとき僕らは地球で逢いましょう」とか
……僕らは笑い 僕らは
ほとんどランダムなオーダーをした
***
彼女の星からリストが届いた
彼女の名前にすこし戸惑い
彼女を地球に キスをした
仮想現実を出てもずっと
ひとつの名前を考えている
(January 22, 1995)
医者の洗面所
三原麗珠
許可を得て入ると
布のようなものが掛かっている
そっと唇を近づけると
空気が動き
静かに揺れる
「気にしないならいいですよ」
遠吠えが聞える
シンリンオオカミが家族のもとへ帰って行く
(January 12, 1995)
人魚の
三原麗珠
ベッドが立ちあがる
「人生とは」
暗黒の電灯が灯る
「キーボードに打ちこまれていく」
透明のブラインドが騒ぐ
「硬い音のようなものだ」
僕の夜をささえる真昼の太陽たち
ちいさな流れであることを意味に
閉ざされた方向ではないことのためにいつでも
出口のないコップのように震えている
きみはいつでも過剰だった
すべてのひとびとはきみを解釈し それでも
きみはいつでも過剰だった
色彩が条件とされるとき きみは
形態により答えた
ふりをしつつ
素材の属性を多く
音のように笑った
それらはいつでもそれら自体ではなく
それらをふくむ空間の問題だから
批評はずれたベクトルであることをさけられず
本質はつねに失われていた
人魚を捕まえたときいつも 下半身だった
音の硬い孤独の夜 僕は
人魚たちの標本を整理しつづける
ひとびとによる定理の
囚人たちの永遠に繰り返されるゲームのように
均衡を知ることもなくただ
記号としての下半身を
人生のように打ちこんでいく
(January 8, 1995)
見えていたパンティー/見えなかったパンティー
三原麗珠
a.
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(January 8, 1995)
お正月
三原麗珠
ニュースによれば
2日前 1995年になったそうである
2日前のニュースだけどね
ところで、神は住んでいるのだろうか
私がまだ文字を知らない子供だったころ……
と書きはじめようとしたが後が続かない
階段というものがあった
普段はなかった
一旦場所を変えることで現れた
電話によれば祖父は
生きていた
私は帰るのではない
行く
のだ
黒い外車にのって鳥居を抜ける
彼女は美しい 彼女は
などということがあっただろうか
指を詰めた男たちに
壁と壁の間から私は降りて
一万円札を渡され
学歴もだいじだと
(自分のようになるなと は言わない)
遠くへいってしまった
神は住んでいるのだろう
となりにいる女はよく
いま思えば美しく
だからどうだとは
言わない
(January 3, 1995)
繰り、返す
三原麗珠
ほら また
蝶蝶が空中で凍りついている
パフューム・リバーに
いちまいのカードで落ちていくの
香リ 強ク 叫ビ
あなたの名前を きょう
一万回思い出そうとした
満開の桜の そう
喜劇的な それ
たとえば
公園でベンチに座わる
老婆
ベンチはプラスチックで………
(池なんかあるのに………)
恋人たちの眠りのシャワーの炸裂する鏡の入口から
ピンクのシーツが告発するひとつの群衆として
夜の水道管へと通り抜けていく
名づけられないねずみたちの
星空から届いた手紙の残骸を
私はトースターにいれて
トテモ ツヨイ 香リ
一枚の紙は白い一枚の紙であることを望み
パンのように/カードのように
交差点の洗面器でひとりの人間が
ねずみを産んでいた
穴
から 穴
へ 宝石のような泡たちが流れ込んでいった
老婆ノ 香リ 強イ
私はひとりの人間を轢いて過ぎて行った
老婆を
私はひとりの人間を抱いて過ぎて行った
繰り
返す
いつもの ない風景が
繰り、返す
ほら、
また
(January 3, 1995)
fj.rec.fine-arts and fj.rec.misc
1/3/95
お正月
繰り、返す
1/8/95
見えていたパンティー/見えなかったパンティー
人魚の
1/12/95
医者の洗面所
1/22/95
名簿
1/30/95
部屋ヌード
3/4/95
(美術館の自転車) <D4xGqu.FG4@news.cis.umn.edu>
3/6/95
詩 <miha0008-060395114743@dialup-4-53.gw.umn.edu>
3/19/95
カルデラ湖 I <miha0008-190395040015@dialup-4-22.gw.umn.edu>
カルデラ湖 II <miha0008-190395040421@dialup-4-22.gw.umn.edu>
4/23/95
長期米国滞在を終えるにあたり試験的に書かれた詩
<miha0008-230495085057@dialup-2-146.gw.umn.edu>
[目次へ]