[詩の墓場へ]
約束
三原麗珠
一匹の猫があなたを見つめている
移ろいやすい眼が固定されていたその瞬間
季節は春から秋へと移動した
(季節が存在していたなんておどろきだ)
「高松の空が高い」
ここにも幸福はなかったと 深夜
あなたの高校の校舎を全裸で歩く
たぶん
ひとりで
造られた言葉なしでは終わらせたくない私はずるずると延長を繰り返してきた
いや「ずるずる」というのは正しい表現ではない
虚構の風は真実の涙を呼び起こす作用を持つ
「いつもどこまでも行きたかった」
こんなに熱心なのは私がとんまだからです
それは君が向いていないということ
もうとんまではありません
それは誤りというもの
未来の地図に僕らの記録はないから
僕らは忘れない
たったひとつのページにつながった
あらゆる文明を導入し
現代はそういう時代であることを用いよう
あの日 えりぬきの
良い一年を始めた
一か月の長さを持ったハッピーな 一年
いま プラスチックと
金属の位牌を抱きしめて眠る
猫のぬいぐるみのように
いや うさぎのように
混雑したバスが
カーブを描いて流れていくので
私の手は痴漢のようにあなたの暖かさを確かめた
あじさいの季節は不安定だ
ひまわりは枯れてしまった
すすきは好きでしょうか
病院の一室にある硫黄の香りのする 吊された
箱のなかで私たちは刻まれる音を共有した
時の心音のような 呼吸のような
いつも廃墟には森があってそよ風が吹いている
息がひとつになってあなたの手が僕を撫でても
何一つじゃまになるものはなかったので
私たちは湖の生まれた白い日に
暖かなあなたの裸体を配置した冷たい部屋の記憶だった
だがなぜだ なぜ僕らが記憶なのだろう
それが すべてが
たったひとつのページに繋がっているというのは
緑陰の清風の下の涙 つまり
どこにも存在しなかった
撫でられていた脚の幻想であったのか
君の校舎を君と歩きたい……
感情を失ったまま僕は新しい時代のセックスをする
あなたと異なる(間違った)体で
投げやりなそれを 深夜
だから小鳥も泣くのだろう
不可解なのは 不動であった私
季節はそうではなかった
もちろん自分にとってこんなに明らかなことなのに
証明を完成することができずに私は途方に暮れている
いいかえれば私にはひとりが見えている
つまり世界のすべてを知っている
ただし 私はあるひとりから見えていない
そのひとりを除いた世界しか理解できない
いずれ私たちの距離は異常に近い
なぜなら距離が問題ではなかったのに
理由にしてしまったからだ
いや 僕らに時代背景はないのだから
僕らは過ぎ去ることができない
一匹の猫がきょうも
異常に近い距離から私を見つめている
(October 30, 1996)
苦痛
三原麗珠
明日も生きて目覚めるために
私は夜(だけ)人になる
いくぶん
エッチな気持ちで眠りに入り
ひとときの安らぎを自分に捧げる
深夜
滑走路の土手を全裸でさまよっていたのは私です
さすがに
警備員のおじさんも
怪しい者ではないかと身構えてしまいましたが
彼に見つかってしまったのは私の
計算ちがいでした
すいません 酔った友人と悪ふざけをしていたんですけれど
気づいたら
ひとりでした
このように私は 潜在的には
天才として生まれたが だれにも
気づかれずに
もちろん 自分も気づいていないが
ここまで生きてきた
顕在的には 恋人を
ひきとどめることもできず
単なる
無能だと思う
じつは 上記の詩は虚構であり
警備員はバイクでやってきたのだが
大きな文字の脇の
コンクリートのまあるい溝に隠れていたので
私は見つからず
その点では天才かもしれないが
それは どうでもいい
白や青や その他の色をした光が
やさしくだれも来ない
私の行けるあなたに
もっとも近い場所で
金属のかたまりを視界に入れつつ
草の上にころがり 虫を感じる
その知らせを そして少し
湿った 寒気も
だから私は連続した湖に移動して身投げする
ここの水はこんなに冷たい
でも私は
燃える恋の温度を持つ存在だ
だが焼けた金属の塊さえもここではやがて冷え切ってしまうだろうから
力尽きるつもりで中心をめざして泳ぎ
ほんとうに 中心に来てしまったが
中心なのに力尽きず
夜は明けたというのに
途方に暮れて
とりあえず
裸で戻ってくる
べつに花火が 上がるわけではないが
目覚めもなかったが
今朝も まだ生きている
(October 30, 1996)
跳び越えられて
三原麗珠
ひとりの朝
窓の外側には小犬
窓の内側にはぼくがいて
ぼくの内側にはある過去の風景があって
たとえば出発のためのロビーだったりするのだが
なんだか静かだ
小犬はいま
ぼくの内側に何かを届けて
窓の外を横切って行った
気がする
あのとき外は
雪だったような 気がする
あのとき外は
真夏だったような 気もする
それは現在だろうか過去だろうか
本当は小犬ではなく うさぎだったのだけど
きみに何度それを言っても信じてくれないだろうから
とりあえず
小犬 なのだ
いや あれは夕方だったような 気もする……
うさぎが駆け寄ってくる としても
人格が問われているわけじゃない
その点は 問題ではない
ドラマの男のように
「いいひとではない」と否定する必要は
ない
(窓の外側の話だけど)
ミネアポリスの冬は厳しかった
(単純な精神を持たないばあいだけど)
愛情は証明することが不可能な感情だ
(意味を問題にすればだけど)
言葉は何も伝えないのだ
テレビの
ピュアな彼女は 言葉で判断しなかった
のがうれしかった
のにぼくは 言葉で
判断された
のがうれしくなかった
です
正確には
としたら……なかっただろうな
です
(ぼくのばあい 可能性は残しておくんだ)
だがうさぎは 届けものも落とさず
ぼくの心のまんなかあたりをビューンと
すごい勢いでかすめて
跳び越えてしまった
(羽根もないのに)
そして
残されたぼくにはひとり
ここち良い刺激
(もちろんぼくは その
うさぎを追いかけ始めるのさ)
(January 30, 1996)
(復活の携帯電話にコインを)
三原麗珠
迷い まごつくきみに答えはあるか
真夜中の石の水道 閉じて
迷つきながらあなたは延期 始めた
流れる白骨の目 シュルシュル 砕きはじめた
抽象的なフラッシュをとおして観察することは愛することだから
世界の赤い星の法則 越えて
あなた 混乱 突然 眠りの
変換式を微笑み続けるキスで 生まれた
(少女よお眠り静かに、僕の教室で)
困難な駅 方程式の不純
私は時間 きょう 終わらせて
流れる石ころたちの前世 飾った
真珠の記念碑を左前にひとつ 固定した位置から
不規則な法則性のチェアーに逆立ち しながら
僕を見つめる少女の未来 計測する
移動するたった一人のきみの時刻へ向かって
競争する蛇 たちの 中
音声である自己 世間 燃やし 続け
ひとつの畳 ひとつの
黄色 ひとつの
記号空間
(私はうさぎクラブの会員でありたい)
わきあがる湯気の中から料金不足の切符 持って
きみははじめて立ちあがった のか
薄い 約束 流したディジタル の音楽 のように
港はきょうも空を訛らせた湖底を
搭乗待合室の入口の記憶に 変えて
僕の過去をきみで 両替 する
(私の恋人でないきみは、ここから先を読んではならない)
緑い
緑い 空
あなたの緑い あなたの空
せまる冷たさはあなたの 初歩
徹底的に 固めた
(きみは私の喪に服すため黒い服を脱いで父親と風呂に入る
そのとき私はきみの空を飛ぶ仏壇のようなものでありたい)
せまる冷たさはあなたの初歩を徹底的に固めた
木々だらけの荒野 無意味に 横切る
黄色い演習書の最初の ページ
潰された ノミ
そのことによって 私
通り抜けてきた猥雑な光景に 在った
種々の文字列
と 誤った変換
を弁解する私 ではなく
自由でいるということはきみを愛すること
叫び スピーカーに つないで
漂う遠距離通話の飛行機 砂で埋める私
白煙の粒 すきまから白く
展開する自己のすでに言及 された
抹茶のくずれはじめた先
溶ける野原を
光景の過去に閉じた自分 として 私は
狭い喫茶店の 彼方で
大声で あるいは小声で どなりつつ
復活の携帯電話にコインを 入れる
あなたは 毒は再生 のため
つまり自殺も長期的には認可制 ということ
ひとりの大学院の 女子高生の 倫理的な写真読む僕に
あなたは
きみの 目は
見つめ合う 目だから
産業道路のわきから現われる一匹の猫 では
ときに世界がそのそばで転倒することがあった としても
自分としてはポリ袋の思い出 に向けた
レンズの焦点 はずした
荒れ 果てた いや
完成された風景の改札口のシグナル だから
(恋人よ、さよならの法則はここで終わっている
私はうさぎクラブの会員を越えたい)
(January 5, 1996)
(復活の携帯電話にコインを入れる)
三原麗珠
迷い まごつくきみに答えはあるか
真夜中の石の水道を閉じて
迷つきながらあなたは延期を始めた
流れる白骨の目をシュルシュルと砕きはじめた
抽象的なフラッシュをとおして観察することは愛することだから
世界の赤い星の法則を越えて
あなたは混乱した突然の眠りの
変換式を微笑み続けるキスによって生まれた
(少女よお眠り静かに、僕の教室で)
困難な駅の方程式の不純に
私は時間をきょう終わらせて
流れる石ころたちの前世を飾った
真珠の記念碑を左前にひとつ固定した位置から
不規則な法則性のチェアーに逆立ちしながら
僕を見つめる少女の未来を計測する
移動するたった一人のきみの時刻へ向かって
競争する蛇たちの中
音声である自己を世間のように燃やし続けた
ひとつの畳 ひとつの
黄色 ひとつの
記号空間として
(私はうさぎクラブの会員でありたい)
わきあがる湯気の中から料金不足の切符を持って
きみははじめて立ちあがったのか
薄い約束を流したディジタルの音楽のように
港はきょうも空を訛らせた湖底を
搭乗待合室の入口の記憶に変えて
僕の過去をきみで両替する
(私の恋人でないきみは、ここから先を読んではならない)
緑い
緑い 空
あなたの緑い あなたの空
せまる冷たさはあなたの初歩を
徹底的に 固めた
(きみは私の喪に服すため黒い服を脱いで父親と風呂に入る
そのとき私はきみの空を飛ぶ仏壇のようなものでありたい)
せまる冷たさはあなたの初歩を
徹底的に固めた
木々だらけの荒野を無意味に横切る
黄色い演習書の最初のページの
潰されたノミであり
そのことによって私は
通り抜けてきた猥雑な光景に在った
種々の文字列と
誤った変換を弁解する私ではなく
自由でいるということはきみを愛すること
という叫びをスピーカーにつないで
漂う遠距離通話の飛行機を砂で埋める私だ
白煙の粒のすきまから白く
展開する自己のすでに言及された
抹茶のくずれはじめた先の
溶ける野原を
光景の過去に閉じた自分として私は
狭い喫茶店の彼方で
大声であるいは小声でどなりつつ
復活の携帯電話にコインを入れる
あなたは 毒は再生のためにある
つまり自殺も長期的には認可制だということか
ひとりの大学院の女子高生の倫理的な写真を読む僕に
あなたは
きみの目は
見つめ合う目だから
産業道路のわきから現われる一匹の猫では
ときに世界がそのそばで転倒することがあったとしても
自分としてはポリ袋の思い出に向けた
レンズの焦点をはずした
荒れ果てた いや
完成された風景の改札口のシグナルだから
(恋人よ、さよならの法則はここで終わっている
私はうさぎクラブの会員を越えたい)
(January 5, 1996)
終焉
三原麗珠
選抜された古い人魚たちの下半身は単なる魚です
ぼくらは自分たちの行為を参照できない時代にはいません
たとえば彼女が橋の上から飛び降りようとするのは
ぼくが不純異性交遊を終えて部屋を出ていくからです
あなたはきょうも合格です
私に
拒む理由はいろいろありません
ぼくの人妻は とりあえず
作品のなかで抱かれようとしたというので
その文字列から手を放しながら
潜伏する髪の流れるベクトルだけを気にしています
その部屋の奥の四つの正方形の窓は
木の茶色の帯状の縦を記憶の曲線に変換した
かすかな弁解をからませた蔦によって
飾られた音の物語をとおして
あなたの握り締めた鉄の柵を越えた
燃え上がる夜の噴水を見つめているのです
抱カレ ヨウ
とした受動態の 意志を
持ったぼくの人妻と不純異性交遊を
将来にわたって実行したわたしたちの
恋を解析するのは恋ではないわ
消えたリボンの結ばれた
標本にしてならべられるのは悲しいわ
と他人であるあなたはぼくらの未来を解析しました
(November 2, 1995)
オレンジの指先
三原麗珠
変ワラナイ カオリ トハ
香ラナイ香リ デアル
白い乾いた犬が私を走りすぎて行く
舌
でなく硬貨を
込められた
馬鹿な陰毛
その 石のような(鈍い!)黒
黒い石 私
おまえを舐める
そばで君がテレビのチャンネルを替えている
柔らかい陰毛の香り 懐かしい
変わらない香り 香る
火山の
白いリボンの少女 定期的に
爆発
活動を繰り返す
私が高校生のとき彼女は高校に講演にきた私は彼女の裸
を見たいと思った
遅すぎた 一手
不意に光る模造されたオレンジのきれいな言葉をカットして
そのふるえる夥しい痛みをつないだ過剰な冷たい美しさの幻覚が
あなたの欠点です
(沈黙)
そして僕は自動販売機にコインを入れて
僕は出てきた空き缶に白いリボンを付けて
僕は捨てた
黒い湿った犬がそれを拾ってどこかへ持ち去って行った
夜 笑いをこらえきれない空き缶の中で
ひとつのリアリティーが目を覚ます
麗しい真珠も
夥しい首飾りも
すべて打ち砕いて否定して
でも
(黒い陰毛の)香りだけは愛します
という(本当の)嘘
の込められた空き缶
テレビにはなにも映っていない 裸の女性もなにも
彼女にはなにも打つ手はない
週刊誌のように乏しい私の想像力
いま
からっぽの世界を意味のない文字に湿らせて
私の指先はあなたの香りのなかにある
(September 21, 1995) (長谷川かおり「バーチャル・リアリティー」から引用あり.)
かおりさんをだますために偽造された作品
三原麗珠
そういうものは ありえない
例の
「とりあえず書きとめられた作品」を参照せよ
1995年8月、
三原麗珠はエコノメトリック・ソサエティーの国際学会に参加するため東京にいた
「とても詩的なタイトルだわ」
彼女は発表される論文を名前で選んだ
唐突だが田村隆一を引用しよう
(ただし彼女からの二次引用だから正確さは保証できない)
あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう
ここで「あなた」というのはぼくのことです
と彼女は言わない
ここは Keio の Mita だから
いや Mita のKeio だから
彼女の名前は「かおり」と仮定しよう
シェークスピアだって 薔薇のかおりは
名前では変わらないと言ってるから
彼女の名前は
変わらない かおり
上の引用の「言葉」とは意味論だろうか統辞論だろうか
ない知識をふりかざして
ぼくは説明をこころみる
ボキャブラリーの下層階級・プロレタリアートだから
言語の創造的使用を要請されるため
それはアートにも通じる
よってこの作品はここに掲載されている
仮想的なかおりさんによれば
ぼくの話し方においては意味は消され
音だけが不思議と耳に残るという
つまり
国際学会の発表のようなものだということだろう
いいかえれば、
「ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう」
「かおりさんをだますために偽造された作品」
というのがこの作品のタイトルだ
よってこの作品ではこのへんで かおりさんをだます必要が
あるのだが
もう設定はじゅうぶんだろう
存在しない彼女を どう
だますことができるか
ここにこの作品の限界が ある
たしかに私は創造力の欠乏を隠匿するため
テクニックとしてあなたを擬人化した
仮想的なあなたは(つまり詩は)
私の想像のなかで私に慕われ 私と
対話を始めるようにも 思えた
だが私はこの詩を展開することもなく
ここで曖昧におわらせざるをえないほど
愛情のない人間だということなのだ
いま世界の現実は
気温21度 時刻午前6時6分
風景のなかに人物はいない
これは偽造された作品である
(September 10, 1995)
午前3時52分の返歌
三原麗珠
ぼくの話し方はふしぎです
意味は消されて音だけが ふしぎと耳に
残ります
深夜の資本主義国の室内できょうあなたを抱いた
電話だから
部屋は暗くて 見えないので
うっかり
愛するひとの名前を発音してしまった
そう言う人はいた そういうひとはいなかった
無理な初期条件をみたすため
あなたは歴史を帰ろうとする
社会主義の必然性はガラス以前の石のなかにだけあり
私は耳をすます音であり 照らされる光であったため
あなたの声はいつも確率でした
「深い意味はない 単なるミスだよ 気にしなくていい」
千人目の恋人にぼくは 一万回目の嘘をつく
ヒトラーは嫌いだが彼の言葉は正しかった
そういう歴史に興味のないわたしは美しく
白く輝くという 黒曜石
の内部から世界を解析する
空港からまっすぐな道を自動車で
滑って帰ってくる
比喩ではなく文字どおり
あなたを愛する夢は 極限まで知ってしまった
超準解析のように飛び 越えて
聞き取りたい/音はなくても聞き取りたい
伝えたい/意味はなくても伝え たい
抱きしめたい/体はなくても抱き しめたい
ぼくの予言はすべてはずれていたこと を
ぼくらの夢には終わりのないことを
ところで
ぼくは黒曜石を知らない
あなたの 存在の密度をもつという
黒曜石を知ら ない
(September 10, 1995)
予定
三原麗珠
まっすぐな道路が好きだ
彼がうらやましいわけではない
なにもいいことがない
空間に石を投げる
世界がかわらないことを確かめる
空港通りは
きょうも自殺を誘っている
お姉さん
詩だからこう書いてるんじゃないんです
棺みたいな自動車の列が
羊みたいに遠くへ走っていく
ただそれだけの話ですから
自動車が走っていく話
きょうぼくは別人の写真をみつめて12時間過ごした
別人は写真3枚だから1枚あたり4時間になる
とくに意味のあることではない
羊は走らないだろうから
ほかほかの 弁当を
ぼくはぼくの部屋で食べる
ほかのひとは自動車で走っていくので
ほかほかの 弁当を ぼくは
ほかのひとと食べない
政治がまちがっている
わけでないことは確かだ
正しい政治は存在しないのだから
(正しい私は存在しないのだから?)
世界はいやにあたたかい
気がつくと窓があいている
部屋を閉ざし
クーラーを強くかけなおす
空港通りできょう
綺麗なあなたに出会った(ソウ見エテシマッタ)
つまり
ぼくはよほど悪い生活をしているということだ
『セックスしたいんじゃないんです
セックスしていたいんです』
翻訳すればそうなるね
別人はぼくを去っていった
彼女はつまりゆるやかな処刑を望んだ
そして彼はあまりゆるやかでない自殺を選んだ
彼がうらやましいわけではない
お姉さん
空港通りは
きょうもまっすぐだ
ぼくたちは意味のない死体を密室に閉ざして
あなたとのかかわりをからかうことによって
かわらないあすをまた生きていくのだ
(July 31, 1995)
取り扱い説明書
三原麗珠
ふるさとはここにはない
ふるさとはないからだ
あたりまえのことを書いたポスターのある店で
ぼくは人生の取り扱い説明書を買う
取り扱い説明書はふつう本体といっしょについてくるものだが
人生はだれもがもつものだからいいのだろう
本体なしで商売になる
さびしさを感じ/アパートを出て/ながめる
(秋の?)夕暮れが一様に分布している
光景がある
さて、
ぼくの古さときみの古さとを
くらべてみるのはどうだろう
愛することは傷つくだけ
だから言ったでしょ
やめときなさいって
坊主のようなことをいう女だ
ぼくにはでもフルサトだから
傷ついたりんごにはほら
こんなふうにスクリューをさしこめばいい
マニュアルのとおりだ
人生これでどうにかなるものだ
風は綺麗だ
いつものように吹いているのがいいのだ
風は綺麗だ
いつものように吹いているのがいいのだ
愛しています
過去に言ったときは現在形だった
人間が理解や愛情を求めるばあいの心理を分析してみれば
「私ハ異常デハナイノデスネ」
方法を知りたい方法を知りたい方法を知りたい方法を知りたい
方法を知りたい
「2340円です」
「髪ひっぱってもいいですか?」
「よそから転勤してきたんですか?」
「こんばん泊まっていってもいいですか?」
「ありがとうございます」
そのように交換は成立するものだろうか
いま、自動車が道路を走るものと仮定しよう
いつものような光景だ
自動車が走りすぎると道路の上の空気が動くのだが
本論を離れてぼくは歩道の上の自転車の女性に興味がある
たとえば彼女はさびしさというものを感じることができるだろうか
痛みというものを理解できるだろうか
すっぱいレモンが空を飛ぶ
あたりまえの光景だ
レモンが空を飛ぶと空の上の空気が動くのだが
フルサトは遠くにあるのさ
フルサトだけがあるのだから
ふるさとはない
馬ってたてがみなんかあって
なにか恥ずかしいのかしら
手紙を書くのが恥ずかしいのは
人間のはずだから
スクリューの穴から
なまぬるい 血が落ちる
恥ずかしいのは彼女なのだ
やはり愛することはぼくの専門外だ
「自由でいたい もっともっと
自由でいたい」
後ろで神が 独り言なんか言ってる
「あいつもめでたい男さ、女かもしれないけど
ふつうの超越者と逆のこと考えてる」
そこにある人生が故障だと考える前に
このページを開いてください
というのがあったはずだが
整理が悪くて出てこない
だからぼくはいつも誤解されることをくりかえす
のが好きだ
とひとには言ってある
ドウシテボクハソウナノデショウカ
ボクハソレシカナイノデショウカ
響きわたるパイプの音
オルガンのその響き
の外をさっきの自動車がとおりすぎる
きっと彼女が乗っているのだ
雑誌に載っているワインで私たちはパーティーをした
ぼくは招待されないので部屋でテレビを見ていた
「風は綺麗だ いつものように吹いているのがいいのだ」
ドラマの主人公がそんなことをつぶやく
彼の私生活はぼろぼろだ
優越感がぼくを満たすと
すっと風がふいて
レモンの香りがしたなと思ってると
ぼくがぼろぼろになって
新しい畳の上で死んでいるのだ
少女がやってきて
「畳 汚れちゃった」と
ぼくを始末すると
男が入ってきて
セックスを終えて
せんべいなど食べて
くすくす笑いながら
缶ビールなんか飲んでいる
食べ終わったせんべいの袋と
缶ビールを別々に
するかとおもえば
そうでなく ふたつとも
ぼくの死体と同じ袋にいれて
集配所に出すのだ
彼女はぼくが愛した少女だ
ぼくの人生の取り扱い説明者は
もうぼくにはいらない
本体はもうないのだから
でも棚の上なんかでいつまでも
風に吹かれて
置いてあったりするのだ
(July 20, 1995)
fj.rec.fine-arts and fj.rec.misc
7/20/95:
取り扱い説明書
7/31/95
予定
9/10/95
午前3時52分の返歌
かおりさんをだますために偽造された作品
9/21/95
オレンジの指先
11/2/95
終焉
1/26/96 <4ea089$18d@goethe.cc.kagawa-u.ac.jp>
(復活の携帯電話にコインを入れる)
(復活の携帯電話にコインを)
1/30/96 <reiju-3001962053490001@133.92.90.35>
跳び越えられて
10/31/96
苦痛 <reiju-3110961911540001@133.92.90.35>
約束 <reiju-3110961911480001@133.92.90.35>
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