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社会選択 (高校生向けタイトル「投票の数理: 社会選択アプローチ」)

学部生向けシラバス

香川大学経済学部 2003年度
外書講読 (Study of Foreign Language Texts)
三原麗珠 (香川大学経済学部)
2単位 第1学期 金曜5時限目 (1620-1750) 三原オフィス

合理選択政治理論(実証政治理論・新制度論)はミクロ経済学に見られるような分析的モデルにより政治現象を説明しようとする.説明の際,ルールなどの社会構造の制約のもとで合理的に行動しようとする個人を想定するのが特徴である.この科目では,ゲーム理論とともに合理選択理論の基礎を与えている分野である,社会選択の手法を深く掘り下げて検討していく.

社会選択は,経済学・倫理学・政治学などいくつかの領域にまたがる,刺激にみちた分野である.また,社会選択は,抽象数学をもちいた現代的アプローチ(といってもこの授業では集合の記号を使う程度)である「公理的アプローチ」を特徴とする.この科目では,複数のひとびとが有限個ある選択肢からもっとも望ましい1個を選んだり,それらを望ましい順に並べたりしようとするときに起こる問題をあつかう.多数決や全員一致などの投票ルールが主な分析対象となる.

三原の Web ページにある「合理選択政治理論(実証政治理論)の手引き」も参照のこと.

1. 研究方法

講義形式ですすめる.テキストの内容を講師が説明していく.参加者全員の積極的な質問やコメントを歓迎する.もちろん講師からも参加者に質問する.定義・例・定理の意味の理解を重視し,各章の大部分を占める証明は軽視する.読まなければならないページ数は多くないが,内容がやや高度なので忍耐力が必要だろう.時間延長のかたちで補習を行うかもしれない.

2. テキストと参考書

2.1. テキスト(必読文献)

Austen-Smith and Banks の章のうち,この授業でやるのは以下の通り:

  1. Choice and Preference
  2. Power and Collective Rationality
  3. Restricting Outcomes
  4. Restricting Preferences

2.2. 参考書

入門的解説:

社会選択理論の専門書と,社会選択をコンパクトにまとめてある大学院ミクロ経済学テキスト:

合理選択政治理論(実証政治理論)の手引き」にあげた文献解説も参照のこと.

3. 単位認定方法

口頭試験・筆記試験・練習問題アサインメント・授業への貢献度などのうちのいくつかの組み合わせにもとづいて認定する.

4. 関連授業科目

前提として要求される科目はない.しかし経済数学A, B (あるいは基礎数学B, Aなどの同等科目)を学ぶことによって得られるていどの抽象的・数理的思考力はあったほうがいい.理解を深めるため,集合論(教育学部)・協力ゲーム理論・非協力ゲーム理論など,できるだけフォーマルな(数理的な)科目の履修をすすめる.Austen-Smith and Banks (1999)をさらに深く学びたい学生は,許可を得て三原の演習に出席することもできる.法学部の公共選択論や政治行動論をはじめとする政治学科目の他,ミクロ経済学や公共経済学との関連も深い.


高校生向けシラバス

香川大学経済学部 2003年度 高校生を対象とした公開授業
投票の数理: 社会選択アプローチ
三原麗珠 (香川大学経済学部)
2003年4月〜7月開講 金曜5時限目 (1620-1750)
受入可能人数 5名 高校生の登録なし

1. 授業の目標

2. 授業の概要・計画

ある社会現象を理解しようとするとき,社会科学者,とりわけ経済理論家は,まずその現象の本質を取り出して抽象化し,数理的モデルを作ることからはじめます.そのモデルを数理的に分析したうえで結論を導き,もとの社会現象を理解するヒントを探ろうとするのです.合理選択政治理論(実証政治理論・新制度論)は,そのような厳密なモデル化の手続きを通して政治現象を解明しようとする,政治学へのひとつの重要なアプローチです.現象を解明するとき,ルールや手続きの構造的制約のもとで合理的に行動しようとする個人を想定するのがこのアプローチの特徴で,経済学の強い影響を読み取ることができます.この科目では,ゲーム理論とともに合理選択理論の基礎を与えている分野である,社会選択の手法を掘り下げて検討していきます.

社会選択は,経済学・倫理学・政治学などいくつかの領域にまたがる,刺激にみちた分野です.また,社会選択は,抽象数学をもちいた現代的アプローチである公理的アプローチを特徴とします.この科目では,複数のひとびとが有限個ある候補(選択肢)からもっとも望ましい1個を選んだり,それらを望ましい順に並べたりしようとするときに起きる問題をあつかいます.多数決や全員一致などの投票ルールが主な分析対象となります.

授業はインターアクションを取り入れた講義形式ですすめます.テキストの以下の4章をカバーする予定です: Choice and Preference, Power and Collective Rationality, Restricting Outcomes, Restricting Preferences.

3. テキスト・教材・参考書等

以下は購入すべきテキスト.その他文献については上記の学部生向けシラバス参照.

4. 履修上の注意

入門科目ばかりを公開しても大学でやっている学問のイメージはなかなか伝わらないんじゃないかという思いがありました.しかし経済学の専門科目の大部分は,ミクロ経済学やマクロ経済学そして微積分などの大学レベルの知識を前提とするため,なかなか高校生においそれとは公開しにくいのです.(経済学の科目間の関係を知りたければ,「香川大学で経済学を学ぶために: モデルプログラム」を見てください.) この科目はかなり高度な専門科目でありながら,大学レベルの前提知識はいらないという希な科目です. ただし高校1年ていどの英語を読めることと論理的・数学的思考が好きであることは前提とします.限られた範囲の数学(集合と写像)を,徹底的かつ本質的に利用することになります.三原の「権利論への数理的アプローチ: レクチャーノート」を眺めておけば,どんな数学が出てくるか,イメージを持つことができるでしょう.パズル風の数学という感じです.

5. 高校生へのメッセージ

社会選択理論は〈アローの定理〉と呼ばれる数学的な定理からはじまりました.アローの定理は,個人と同様の合理性を集団には期待できないこと,集団の決定は一般に手続きやルールの詳細に左右されるものであることを教えています.難解といわれたこの定理に,認知科学者・佐伯胖が「高校生にもわかる」証明を与えたのは1980年のことでした.アローの定理はこの授業でも最難関のひとつです.今日の高校生にこの定理をどこまで理解してもらえるか,興味があります.将来経済学を学びたい生徒ばかりでなく,社会問題に関心のある理系生徒など,数学が得意でチャレンジ精神溢れる高校生の参加を期待します.詳しくはこの講義ページをすみずみまで検討してみてください.


授業記録

学部演習の記録を参照.


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