資源配分の公理的分析: 公平の理論
シラバス
香川大学地域マネジメント研究科2005年度
資源配分の公理的分析: 公平の理論 (Axiomatic analysis of resource allocation: Equity in theory and practice)
応用科目; 2年次 (2004年度入学者) / 1年次 (2005年度入学者); 2単位; 第2学期; 月曜日1820-2030 プラス補講;
場所 三原研究室 (最初4回は GSM 講義室)
三原麗珠
効率的な資源配分方法としてもっとも優れたものは価格(市場)メカニズムだろう.しかし私的機関や公的機関が,価格メカニズム以外のやり方で「だれがなにを受け取るか」を決める場面は意外と多い.ひとつだけある腎臓をどの患者に人工移植するか? 新しい家に上下水道をひくとき,どれだけ費用を負担してもらうべきか? 企業間の合弁事業で利益をどう分け合うか? 財産の中身について異なる好みを持つ相続人にどう財産を分けるか? 会社内でデスク (あるいはオフィス) やアシスタントそして勤務セクションを社員にどう割り当てるか? こういった日常起こる具体的な問題は,「公平」の確保という理由により価格メカニズム以外の決め方で解決されることが多い.
では「公平」とは何か? このコースではさまざまな具体的なケースをとりあげ,それぞれのケースで資源配分の「公平」の意味するところを体系的分析によって明らかにする.とくに「公平」を構成する基準をひとつひとつ明確に定式化し,複数の基準が互いに矛盾することなくどこまで同時に成立しうるかをあきらかにする.その分析の背後にあるのは,抽象数学をもちいた現代的アプローチである《公理的方法》とよばれる強力な数理的手法であり,社会選択や協力ゲーム理論といった分野で広く用いられている.それぞれの公理は,たとえば「ある配分 x 以外に実現可能な配分 y があって全員が x より y の方が望ましいと思うならば, x は採用すべきではない」といった,配分ルールにかんする要請を表現している.
このコースは,組織内のさまざまなものごとの「決め方」を見直したり設計したりしたい民間企業人はもちろん,つねに「公平」を意識しつつ仕事をすすめていかなければならない公共部門関係者,そして論理的思考力を鍛えることによって配分競争における説得力や交渉力を高めたいあらゆるひとびとにすすめる.その一方で,公理的方法への純粋な学問的関心を持って受講する学生の期待にも一定レベルで応えられる内容になっている.さらにおまけとして,英語の書籍から必要な情報を拾い出す作業をとおして,英文への抵抗感を和らげる機会も提供している.
前提科目・関連科目
厳密な意味での前提科目はない.ただし「ゲーム理論」「経済分析」「微分積分と線形代数」「オペレーションズリサーチ」などを通じて数理的思考力を鍛えておくことを強くすすめる.講義内容を理解するためだけなら,数学の知識はほとんど必要ではない.演習問題のいちぶには,変数が2個のばあいの最大化問題を解けることを要求するものがある.2次元座標上にグラフを描ける程度の高校数学の知識は必要である.(テキストの Appendix [The Mathematical Theory of Equity] まで理解するなど,より高度な理解を目指すばあいは,集合と写像の理解が不可欠となる.Appendix の一部で,凸解析やトポロジーなど,大学院レベルのミクロ経済学で標準的な数学概念が用いられている.それらの詳細な議論には深入りしない予定だが,特に希望する受講生がいれば出来る範囲で個別に対応する.)
関連科目としては「地域科学の数理」がある.このコースではその科目で採り上げるコンフリクト解消法を,異なるアプローチであつかう.「費用便益分析」「都市開発論」ほか,経済学専攻と経済学部の提供する経済理論やゲーム理論の科目も関係がある.
コースの進め方・成績評価
一部「虫食い」(空白)にした講義ノートを配付し,Young のテキストに沿って講義形式ですすめる.受講者全員の積極的な質問やコメントを歓迎する.講師からも受講者に質問する.本文の例,主要概念,定理の意味の直感的理解を重視し,細かな証明や Appendix にある数理的一般理論の大部分は省略する.受講者は授業内容やテキストを参考にしながら与えられた演習問題を自習していく.
単位認定方法は,筆記試験・演習問題の宿題・授業への貢献度などのうちのいくつかの組み合わせにもとづく.
できるだけ標準の成績評価基準 (秀 90点,優 80点など) を用いる一方,点数は100点の上限にこだわらずに
以下を目安に配分する予定:
- 試験 (2回前後) 85点
- 宿題 min{30, max{素点-カット点, 0}}点 15点から30点 (説明参照)
- その他 たかだか15点
宿題は一定のカット点を越えた部分が上限 30 点までカウントされる.たとえばカット点が仮に10点のとき,素点が 5 点ならば宿題点は 0 点となり,素点が 35 点ならば宿題点は 25 点となり,素点が 45点ならば宿題点は 30点となる.宿題の提出しめきりは授業で該当部分をカバーし終わった一週間あるいは二週間後をめどにして指定する.その期限に間に合うように提出されたものだけを評価し,締め切り直後に正解を入手できるようにする.無理をして宿題を提出しなくても,試験で挽回するチャンスがあるためそれほど不利にはならないはずだ.
必読文献・参考文献
1. 必読文献
- H. Peyton Young. Equity: In Theory and Practice. Princeton University Press, Princeton, 1994. 『公平: 理論と実際』のタイトルどおりの内容.次のノートで参照している部分 (図や表や用語の定義がほとんど) を拾い読みすればいい. 各自で購入.
- Young 1994 notes (restricted access).
三原による講義ノート (2章の見本;
この章がいちばん抽象度が高い; 他の章では集合の記号もほとんど出てこない).
アクセス方法は授業開始までに学生に連絡する.
(学外のアクセス希望者は三原に連絡を.教育関係者には tex ファイルも提供可.)
- Mihara, H. R. Young 1994 演習問題.
- 船木由喜彦. エコノミックゲームセオリー: 協力ゲームの応用. SGCライブラリ11. サイエンス社, 2001.
第7章「男女のマッチングと家の割り当て: 貨幣のないケースのコア」特に 7.1 から 7.4 節.配布する.
2. 参考文献
2.0. 高度な理解のために必要な最低限の数学:
- 永谷裕昭. 経済数学. 有斐閣, 1998, pp. 1-3, pp. 23-37 (第1章1節, 経済学と数学; 第2章1節, 集合, 関数, 直積; 第2章2節, 合成関数と逆関数). 配付する.
- 三原麗珠. 権利論への数理的アプローチ: レクチャーノート, 1999, pp. 11-23.
2.1. 実際的な資源配分問題の公理的分析で,このコースの関心にひじょうに近いもの:
2.1.1. カバーする範囲の広いもの:
- 武藤滋夫. ゲーム理論入門. 日本経済新聞社, 2001. V, VI 章. あらかじめ目を通しておくといい.
- 船木由喜彦. エコノミックゲームセオリー: 協力ゲームの応用. SGCライブラリ11. サイエンス社, 2001. 副読本としてすすめる.
- 鈴木光男. 新ゲーム理論. 勁草書房, 1994. 第II部.
- 岡田章. ゲーム理論. 有斐閣, 1996. 8-11章.
- Herve Moulin. Axioms of Cooperative Decision Making. Cambridge University Press, Cambridge, 1988.
- Herve Moulin. Cooperative Microeconomics: A Game-Theoretic Introduction. Princeton University Press, Princeton, 1995.
- Herve Moulin. Fair Division and Collective Welfare. MIT Press, Cambridge, Massachusetts, 2003.
- William Thomson. The theory of fair allocation (forthcoming from Princeton UP?).
- William Thomson. Fair allocation rules. Chapter 27, Handbook of Social Choice and Welfare, volume 2, Elsevier, 2005?
2.1.1. 特に焦点を絞ったもの:
- 船木由喜彦. 「破産問題」をゲーム理論で解く. (中山幹夫, 武藤滋夫, 船木由喜彦(編). ゲーム理論で解く, 5章). 有斐閣, 2000. 入門的解説.
- 戸田学. 「恋愛・就職・結婚」をゲーム理論で解く. (中山幹夫, 武藤滋夫, 船木由喜彦(編). ゲーム理論で解く, 6章). 有斐閣, 2000. マッチングに関する入門的解説.戦略的側面からもアプローチ.
- H. P. Young. Cost Allocation. Chapter 34, Handbook of Game Theory with Economic Applications, Volume 2, Elsevier, 1994.
- Herve Moulin. Axiomatic cost and surplus sharing. Chapter 6, Handbook of Social Choice and Welfare, volume 1, Elsevier, 2002
- Alvin E. Roth and Marilda Sotomayor. Two-Sided Matching. Chapter 16, Handbook of Game Theory with Economic Applications, Volume 1, Elsevier, 1992.
2.2. 資源配分問題の分析で,このコースとは重点がやや異なるもの:
- Steven J. Brams and Alan D. Taylor. Fair Division: From Cake-Cutting to Dispute Resolution. Cambridge University Press 1996.
- スティーブン・J・ブラムス, アラン・D・テイラー.
公平分割の法則: 誰もが満足する究極の交渉法. 宍戸栄徳監修, 宍戸律子訳. TBSブリタニカ, 2000.
- John E. Roemer. Theories of Distributive Justice. Harvard University Press, Cambridge, 1996. 公理的方法による.実際的というより哲学的関心が強い.
- William Thomson. On the axiomatic method and its recent applications to game theory and resource allocation. Social Choice and Welfare, Vol. 18, pp. 327-386, 2001.
公理的方法自体へのガイド.この分野の研究を目指す読者に,公理的方法の有効性と研究の指針を提示.
もし読むなら,この授業であつかうモデルやゲーム理論の知識を得た後にした方がいい.
2.3. 資源配分以外の公理的分析
公理的方法は資源配分問題以外にも,投票理論やゲーム理論に応用されている.三原の Web ページにある「合理選択政治理論(実証政治理論)の手引き」にあげた文献案内を参照のこと.
2.4. マーケット・デザイン
マッチング理論やメカニズム・デザインなど,公理的方法と非協力ゲーム理論的方法を応用して,コンピューター・ネットワークによる「市場」(配分ルール) を設計し分析するのが分野がマーケット・デザインである.経済理論の応用のなかでも,もっとも実際的な分野だろう.ここではマーケットデザインをあつかうコースのサイトを (経済学者によるものと,コンピュータ・サイエンティストによるものをふくめ) いくつか挙げる:
全国規模の配分ルールの例としては,日本臓器移植ネットワークの各種ポイント制や日本医師臨床研修マッチングプログラム のGale-Shapleyアルゴリズムがある.
授業計画
1章を一回で,2, 4, 5, 7, 8, 9 の各章を二回でカバーする.
最終章の 10章は各自に任せ,3章と6章 (内容説明を角括弧で括ったもの) は省略する.
船木の 7章は一回でカバーする.
- Overview: 配分問題とは何か.配分問題を解決するためにどういう基準を採用すればよいか.個人間比較を要しない無羨望 (no envy) 概念とその限界,優先原理,配分基準の整合性 (consistency),比例原理ではうまくいかない非分割財配分の例など.
- Equity and Priority: 移植のための臓器や条件のよいオフィスをどのような優先順位で要求者に配分するか.ある分割できない財を要求者ひとりにつきひとつだけ受け取ることができ,要求者全員に配分するには財が不足する状況.それぞれの要求者の必要性や貢献度などをどのように考慮するか.配分基準の不偏性や整合性.
- [Equity as Near as May Be: 比例代表制選挙で,各政党へどう議席を配分するか; 選挙区へどう定数を割り当てるか,獲得票数や有権者数に応じた比例配分が完全には成り立たない状況.どのような近似が比例配分にもっとも近いか.]
- Equity, Equality, Proportionality: 破産した企業の資産を債権者にどう分配するか.財自体は完全に分割可能であり,それぞれの要求者の違いを共通の基準で計れる状況.単純な比例配分の原則にしたがうのがいつも公平といえるか.
- Cost Sharing: 企業間の合弁事業で利益をどう分け合うか; いくつかの自治体が共同の配水施設をつくるときコストをどう分けるか.具体的な配分は関係者の直接交渉で決まり,関係者は自分が損をしてまで協力する必要はない状況.単純な等分や比例配分では関係者の協力がえられないときどうすればいいか.
- [Progressive Taxation: 企業の業績が悪くて社員の給与をカットするとき,高給を受け取る社員ほどカット率を高くすることは正当化できるか.累進課税の理論を参考にしながら考えてみる.]
- Fair Bargains: 企業間の合弁事業でコストや利益をどう分け合うか.一般人の意見を完全に無視して決めてしまうのは問題が大きい臓器移植のようなケースとはちがって,関係者の直接交渉で決めてもさしつかえない状況.公平な交渉とはどのようなものか.
- Fair Process: 分割できる財(お金や土地)やできない財(食卓用銀製品や建物)そして均質の財(お金や食卓用銀製品)や非均質の財(土地や建物)をふくむ異なる種類の財産があって,要求者たちがそれらにたいしていろいろな分け前を主張するとき,それらをどのように分ければいいか.それぞれの要求者は一定の割合を受けとる権利を持っているが,財が分割不能であったり非均質であるため,その割合に応じた配分というものがはっきりしない状況.公平かつ効率的な配分はどのようなプロセスで達成できるか.
- Equity, Envy, and Efficiency: 前章と同じ状況.ただし財は分割可能で均質とする.もしそれぞれの要求者の持つ権利の割合に応じた初期配分が可能である場合,だれの状態もその初期配分より悪くなることがないような,公平かつ効率的配分はどうなるか.
- Conclusion: 「資源配分の公平」の意味するところは,具体的な状況ごとに異なる.それぞれの具体的配分問題におうじた適切な解決法を見いだすための指針として,7つの質問からなるリストを提示する.
- 男女のマッチングと家の割り当て: 貨幣のないケースのコア (船木第7章, 特に 7.1 から 7.4 節): 男女カップルの
安定な組み合わせをみつけるアルゴリズムを提示.日本医師臨床研修マッチングプログラムのGale-Shapleyアルゴリズム
と基本的に同じものである.
おしらせ
2005年2月以前
香川大学地域マネジメント研究科 (GSM) にかんする
フォーラム
を開設しました.当分は「これからすべきことリスト」の類いを載せておきます.プロジェクト研究のグループ分けの決定方法についても,背景が分かるでしょう.
2004年度に学部夜間主演習でこの科目と同じ内容をたっぷり時間をかけて教えました.
そのときの学生の感想がその講義ページに載っています.
[expired (終了)] プロジェクト研究を僕のところでやりたい方は,2月の希望調査時に「非分割財の配分問題」と書いてくれれば,「資源配分の公理的分析」の関連で何かやります.他に担当者がいるかとか,私が他のプロジェクトに参加しないかといった問題はありますが,おそらく受け入れられると思います.
2/19/05, 4/14/05, 8/31/05, 10/1/05
文献入手方法,時間割,メール配信登録方法などについて学生宛メール.以下はメール配信登録方法について:
次回以降の連絡メールは,第2回目の授業前である10月12日までに希望者にのみ配信します.配信希望者 (授業に登録する人,聴講する人など) は10月11日までにお返事ください.登録,聴講,その他の別も添えたうえで.メールを受け取れるアドレスなら何でも構いませんが,学籍番号とお名前は明示願います.配信希望で上記までに届かなかったときはふたたびメールください.皆さんからのメール (特に初めてのもの) がスパムに分類されてしまって見失うことがたまにありますから.
期末試験と総合成績
試験問題と正解例はこちら.
予備日である 2/7 日に受験したひとについても上記の試験 (問題 1-7) は解いてもらい,その他追加問題を与えた.上記試験に関しては平均点 54 点,中央値 53.5点だった (受験者 6 人で計算).問題ごとの平均と中央値と得点に対する平均値の百分率は次の通り:
問題 |
配点 |
平均 |
中央値 |
平均 / 配点 |
得点分布 |
問題 1-7 |
85 |
54 |
53.5 |
64% |
Suppressed |
問題 1 |
14 |
10.3 |
12 |
74% |
14,14,14, 10, 6, 4 |
問題 2 |
6 |
5.5 |
6 |
92% |
6, 6, 6, 6, 6, 3 |
問題 3 |
14 |
11.3 |
14 |
81% |
14, 14, 14, 14, 6, 6 |
問題 4 |
10 |
8.5 |
9 |
85% |
10, 10, 9, 9, 7, 6 |
問題 5 |
13 |
6.3 |
6.5 |
49% |
13, 9, 7, 6, 2, 1 |
問題 6 |
18 |
7.3 |
6 |
41% |
18, 12, 6, 6, 2, 0 |
問題 7 |
10 |
4.7 |
4 |
47% |
10, 10, 4, 4, 0, 0 |
問題5, 6, 7 のできが悪かった.はじめの方の章については,対応する演習問題をかなり絞った形で一週間以上前から範囲を指定していたためだろうか.特に「確実に出題する」とあらかじめ伝えていた問題 6(ii) の配点が 12 点あったにもかかわらず,その点数にも至らない答案がほとんどだった.問題 7(i) については,点数を与えるための易しい問題であった「予算制約線の式」を書けないひとが多かったので,試験中にヒントを出した.最後の章の問題なのでそこまで準備が間に合わなかったためだろうか.それとも演習問題では予算線を直接尋ねてはいなかったためだろうか.
期末試験の点数 (2月7日受験者については調整後の点数) は,85 点中 85, 69, 53, 49, 41, 22 点だった.
宿題の素点は 64 点中,高い順に 46, 38, 11, 10, 7 点だった.カット点を26点としたので,調整後の宿題点は高い順に 20, 12点,以下は0点となった.
期末試験の点数と調整後宿題点を合計したら,105, 81, 53, 49, 41, 22 点だった.出席などを考慮し,「その他」として高々15点をあげることにしていた.この段階で「その他」追加後60点に及ばない 41, 22 点のひとは「不可」が決定.53, 49 点のひとについては「その他」として 11 点〜15点を追加すると 60〜68点に収まるので「可」とした.残り2名には「その他」点は追加せず,105点を「秀」81 点を「優」とした.受験しなかったひとを含めると,「秀」1名,「優」1名,「良」0名,「可」2名,「不可」3名となる.
講師の感想など
遅刻が多いのがやりにくかった.期末試験は易しくしたのだが,意外とできていなかった.もう少し試験に密着した
補講を試験直前にできればよかったかもしれない.
試験の成績が悪かったひとでも,授業はそれなりにフォローできて楽しめるものではなかっただろうか.
もしそうならば,一定の成功はおさめたことになる.もう少し時間に余裕があれば,もっと楽しい例を入れ
ることができたかもしれない.
少しはルールづくりに関して批判的・建設的な視点を持てただろうか.身の回りの非効率や不公平をなくして
行こうという気概やそのためのヒントを得ることはできただろうか.
授業実績報告書から抜粋
資源配分の公理的分析 2005年度 応用科目 1年後期 月曜6-7限
担当:三原麗珠 受講者数7名
■授業実績の概要
1. シラバスの「授業計画」に完璧にしたがった.ただし船木 7章は12月の休暇中に補講で行った (時期は指定していなかった).1回の予備日 (計画では14回分だけ予定していたが,実際の授業は15回あった) は最終日に演習問題の解説に使った.また,授業時間は「授業計画」を優先して適宜調整した (毎週 2時間20分から2時間50分ていど).テキストの以下の部分を扱った:
- H. Peyton Young. Equity: In Theory and Practice. Princeton University Press, Princeton, 1994. 1章を一回で,2, 4, 5, 7, 8, 9 の各章を二回でカバーした. 最終章の 10章は予定通り各自に任せた.
- 船木由喜彦. エコノミックゲームセオリー: 協力ゲームの応用. SGCライブラリ11. サイエンス社, 2001. 第7章「男女のマッチングと家の割り当て: 貨幣のないケースのコア」特に 7.1 から 7.4 節.1回でカバーした.
2. 定義・定理・証明を中心にすすめる数学の授業ふうのアプローチは避けた.具体例を中心にあつかい,ルールやそれにたいする要請 (公理) の意味や,なぜそのようなものを考えるのかを理解させることに重点を置いた.
3. 授業前の講義ノート (pdf) ネット配信に加え,授業後の情報提供を重視した.授業の終わった後もその授業内容の現実への関連性について徹底的に考え,講義ノートの改訂や Web授業ログに反映させた.GSM の学生の関心がありそうな,地域で起こっている問題 (ダムの取水の分配方法,中央商店街活性化のための事業失敗時の破産処理方法など) と関連づけた説明も試みた.その他,次週の予定・演習問題の提出期限・演習問題の採点結果・追加文献の紹介などを毎週メールで配信した.ただ,授業の後処理に多大な時間を費やしたのは要領が悪かったかもしれない.
4. 講義ビデオの収録は行わなかった.時間がかかるため学生にあまり利用されていないためである.代わりに欠席者向けに補講を6 回,要点を解説した QuickTime 音声ファイル (mov) と手書きメモ (pdf) のネット配信を講義 2 回分行った.
■受講者の状況
欠席 (週に1, 2名) と遅刻が多いのが気になった.18:20開始予定なのに,集まりが悪く実際には19:00くらいになることがあった.
■課題
Young 2, 4, 5, 7, 8, 9 章と船木7章の演習問題を作成して宿題として与え,提出してもらった.
■期末試験
試験問題は演習問題の類題がほとんどだった.今年は2単位しか与えられないことを考慮して,簡単な問題を中心に出題した.記憶しにくそうなことは問題中になるべくヒントを与えた.問題は船木 7章,Young Chapters 2, 4, 5, 7, 8, 9 のそれぞれから最低1問は出した.Young 前半部については,特に注目すべき問題をあらかじめ指定した.
■成績判定基準
上に載っているので省略.
■ その他
- 2単位の科目としては内容が多すぎた.じっさい一部を自習に回しても4単位分近くの時間がかかった.来年度以降は2単位2科目に分割して提供する予定.
- 講義室の設備を改善して欲しい.
受講生の感想
講師から
この授業の感想をメールで寄せるように受講生に依頼した.「内容は自由だが,以下のような項目を参考にしてください」とこちらが関心のある項目を挙げた.その項目を前提とした感想があるので,参考までにその内容をリストしておく.
履修済みだった科目,同時履修の科目,その成績 (経済分析,ゲーム理論,微分積分と線形代数,OR から).分かる範囲で.非公開情報ならそう書いてください.
どういう知識が前提として要求されていると思うか.前提知識不足が問題になることはあったか.どの部分で.
この科目は何単位で提供すべきだったか.小数点可.
来年以降は,演習問題の正解をあらかじめ配り,小テストで類題をやる方法を考えている.今年度のやり方とどちらがいいか.
授業で印象に残った公理や定理.
科目の内容は実務と関係があると思うか.
この科目に関してどういうプロジェクト研究が考えられるか.
講義ページに載せた講師の感想も参考に.
学生 S
○ 履修済み科目及びその成績
・経済分析(担当教官:雲先生) 優
・ゲーム理論(担当教官:宍戸先生) 優
微分積分と線形代数、ORは履修していない。
○ 必要な前提知識
資源配分の公理的分析の前提知識としては、ミクロ経済やゲーム理論に関する知識が必
要かと思うが、基礎的なもので十分であろう。ただし、そうした知識がなくても、講義
ノートや文献の事前リーディングをしていれば、内容は理解できるのではないかと考え
る。受講する学生に予習させることが重要で、そのための仕掛け(講義ノートの穴埋め
問題を授業中に挙手方式で答えさせ、正解者には得点を与えるなど。)が必要だと思う。
○ この講義の単位数
事前リーディングにかけた時間と手間、講義時間、そして習った分量を総合的に判断す
ると、2単位以上の講義(だいたい3単位)だったと感じた。
この講義を4単位にするとすれば、テキストの内容を全て学ぶ内容にするとともに、
事前リーディングの徹底により学生の理解度を向上させ、授業中の意見交換を活発化さ
せるなどの工夫が必要ではないかと思う。
○ 演習問題について
演習問題は、正直に言って難しいものも多かったが、やはり一度は自分で悩んでみるこ
とで理解は深まるのではないか。そういう意味で、演習問題の正解をあらかじめ配布す
るよりは、今年度のやり方のほうがいいと思う。
○ 印象に残った内容
まず、授業の最初のほうに出てきた腎臓の配分と布争いのルールが新鮮だった。腎臓の
配分ルールは、人の命にかかわるものであるだけに、そのルールの決定の難しさを感じ
た。一方、布争いのルールは、争われた部分は持っている権利に応じて分配するが、争
われない部分は、権利を持っている要求者にいくというのは少し不公平な感じがした。
その他には、費用をどのように負担しあうかについてのシャープレイ値は、現実の問
題に適応できそうだという意味で印象に残った。行政の世界で仕事をする自分にとって、
他の行政機関との共同事業を行う場合、どのように費用負担を配分するかというのは現
実に起こりうる問題であり、かつ解決の難しい問題である。最終的には政治的判断にな
る場合が多いが、その前提として理論的にはどのように費用配分するのが公平かという
ことを明確にできる点で活用可能と思われる。
○ この科目に関するプロジェクト研究
印象に残った内容で書いたことと重複するかもしれないが、公平な費用負担に関した研
究ができないか。例えば、瀬戸大橋の建設費・維持費(この部分は、正確でないかもし
れない。)は、香川県や岡山県などの関係自治体が、毎年度、一定割合の負担を行って
いる。この負担割合がどのように算出され、本当に公平なものとなっているかを研究す
るというのが考えられる。現在の利用状況に照らして見てみても面白いかもしれない。
以上、ざっぱくな内容になってしまいましたが、三原先生の講義の感想をお送りいたし
ます。半年間、どうもありがとうございました。今後とも、講義のさらなる充実に向け
て頑張ってください。
学生 C1
□関係する科目の成績
微分積分と線形代数:良
OR:今期受講のため成績未確定
経済分析:受講せず [講師注: 一定のミクロ経済学の知識はあった]
ゲーム理論:受講せず
□前提知識として、とくに必要と感じる授業はなかったです。
代数的な知識もあれば有利だが、
グラフなどから直感的に理解できる力さえあれば、問題ないと思われます。
英語の力が無くとも授業に参加することは可能だが、
予習・復習時に必要とする時間は大きく異なると思います。
□授業科目と単位数の関係性については、他の授業との比較で考えれば、2単位では
不十分(少ない)といえます。
但し、「2単位の授業」をどうとらえるかに拠って異なるように感じられました。
つまり、他のMBAコースや大学院の授業内容に知見が無いためコメントしづらいで
す。
[追加]
追加的に単位数の話についてコメントします。
他の授業と比べた場合、当該授業は2単位では少ないと感じる。(既出)
また、授業時間を基準に単位数を考えた場合にも2単位では不足している。
他の授業とのバランスを、内容量の側面で考えるのであれば、むしろ4単位が相応
しい。
さらに、「公平配分 A、B」といった科目名であっても特段混乱が生じるとは考えづらい。
なぜならシラバスには、授業毎に前提となる条件(事前に受講しておいた方がいい
科目)が記載されており、受講者はそれを読んでおり、また
アカウンティングとビジネスアカウンティングは同科目の基礎と応用的な内容だ
が、特に問題は発生していない。(アカウンティングはいまのところ必須ではある
が・・。)
[追加終わり]
□期末テストの結果で痛感したのは、しっかりと授業に取り組んだ部分と、そうでな
い部分の結果が如実に現れているという点です。
つまり、予習・宿題をこなした部分(前半)は、期末テストにおいても相応の得点
を得られているが、
気持ちがだれてしまった後半部分の、得点があまり得られていなかったです。
□以上のことから考えれば、小テスト方式の方が、弱点や生徒毎の取組姿勢を把握す
るために有用かもしれない。
また、今年度と同じ方式である場合には、受講者にとっての予習と宿題の重要性
は、引き続き高いものと思われます。
□雑感ですが、授業中にもお話しさせて頂いたように、公平と言われる分配方法がい
ろいろとあって、それぞれに特徴があると言うこと自体が驚きでした。
この授業で、ある一つの公平な配分方法が見つかるわけではないところが興味深
く、また多角的に問題を分析する視座を得たように思います。
□私見ですが、非常に興味深いテキストであることから、日本語訳と出版を行うプロ
ジェクトを実施しても面白いと思います。
取り止めのない感想でもうしわけないですが、ありがとうございました。
もうちょっと深く予習すれば、吸収できるものが多かったと思うので後悔していま
す。
学生 A
○履修済関連科目
ゲーム理論 優
微分積分と線形代数 良
経済分析 良
○感想
・率直に言って、大変面白い内容でした。「公平な配分」という日常的に直面する問題
について、これほど学問的な深みがあることに驚きました。
・前提とする知識としては、ミクロ経済学の基礎的な知識があった方が良いのではない
かと思いました。私の場合は、せっかく履修したのにきちんと覚えていなかったのがテ
ストの結果に出てしまいました。
・単位数については、4単位にするとプロジェクト研究(4単位)とのバランスが取れな
くなるのではないかと思いました。ただ、前期と後期に分けて2単位ずつにするという
ことであれば良いと思います。
・この講義と「地域科学の数理的分析」は、シラバスでは確か両方とも履修することを
進められていてと思うのですが、できれば1年次あるいは2年前期に受講できればよかっ
たと思います。言い訳にはならないのですが、後期はプロジェクト研究に追われてしま
い、宿題や予習がおろそかになってしまいました。
学生 X1
途中からしっかりと出席できなかったのが残念でしたが、
「資源配分の公理的分析」は地域マネジメント研究科の科目の中でも
有益な科目だと思います。
「マネジメント」と言った場合特に重要なことは理論と実践であると
思いますが、その理論をしっかりと学べるという意味において
この科目はゲーム理論と同じくらいに重要です。
ただし、履修の要件として記載されていたように
「基礎」レベルの数学の知識は必要で、その分理解できなかったところが
あるような気がするので、
中学・高校の時にちゃんと数学を勉強していれば
よかったかなぁとは思います。
数学が極端に不得意であるがゆえにこの科目を
難しいけれど重要に感じるのかもしれませんが。
どちらにしても、自分としてはこの科目で教えられたところは
不幸なことに、今期理解できなかったので、独学するか(←おそらく無理。)
来期開講されるのであれば、履修するか、聴講するかして
内容を身につけて地域マネジメント研究科を卒業したいです。
単位数について4単位にすべきかどうか、という議論がある
ようですが、2単位でもかまわないのではないでしょうか。
確かに4単位分の分量があると思いますが、
学生からすると、やる気の問題だと思いますので。
ただ、4(2+2)単位にしていただけると、前半2単位は
数学がほとんど必要ないので、私にとってはいいかもしれません・・・。
※先生もメールの文章をもっとやさしくされると
履修者も増えると思います。
先生ほどメールの印象と実際の印象が違うひともいないのでは?
あ、でも履修者が増えても「やる気」がない人は
先生、お嫌いですよね・・・。
学生 X2
履修済科目→ゲーム理論 「優」
後期同時履修科目→経済分析
未履修→微分積分と線形代数,OR
●必要前提知識
ゲーム理論が前提知識としてあればベター.あとは高校数学程度の2次方程式が理解で
きていれば問題はないと思う.
●授業の単位数
正直よくわりません.先生が4単位にしたいというお気持ちは分かりますが….僕自身
からすればGSM自体の単位数がもともと2単位が基準となってる事が公理的なのかどう
かがわかりません.自分の基準としては他の科目と比較してどうかという基準になりま
す.「資源配分」以外に,「これだけやっても2単位かよ〜?」って思う科目もありま
すし,「え?これだけでも2単位あるの?」っていう科目もあります.その基準でいけ
ば2<「資源配分」≦3.8ぐらいの感覚です.
●演習問題
宿題については全くしなかったので,何とも言えません.やり方を統一するのではなく,
いろいろなやり方を試みて学生のリアクションが一番良い方法を採用してはどうでしょ
う.
●印象
授業を欠席し補講をして頂いた際,Chapter7”Fair Bargains”で効率的達成での内容
の講義については,仕事に対するモチベーションについて再認識というか,気づかされ
たモノがあったと思います.
●感想
履修前の先生自身への先入観と実際に受講後のインスピレーションのギャップはあった
と思う.
それはほぼ全員が感じているだろう.そのギャップは「あまり良くないかな?」→「そ
うでもないじゃん!」への差である.もちろんここは大学(大学院)であり,中学や高校
でもなく先生は教師ではなく学者であるが故に可能性としてありうる.個性的って事で
す.その個性は大事な事だと思いますよ.一つ僕からの忠告をするならば,前にO氏も
言ってましたが,「コミュニケーションの仕方が少し問題かな〜.」って,僕もそう思
います.授業自体は問題ないですよ.
授業以外のコミュニケーションがって話です.後期の履修前に授業に関するメールを学
生にしてましたが,内容がちょっとアナーキーだったと思います.折角,いい授業をし
てるのに損をしてるような気がします.第一印象はソフトな方がベターです.でも,そ
れが三原麗珠なのでしょう.これからもRockにいきましょう.半年間,お世話になりま
した.Grazie!!
学生 X3
とても授業は興味深いものでしたが、負担が重かったというのが
正直な感想です。また、授業の説明は上手だったので、難しい数学に対して
興味が持てるようになったというのもあります。けど仕事に時間を取られすぎて
授業どころではなかったです。一生懸命授業してくれた先生には申し訳ないと
思っています。とても反省しております。その点では。
ただし、先生の社会性の無さ、にはちょっとついて行けない部分もあるっていうのが
本音です。先生が学問をビジネスに活かそうと考えたところはとても買っていますので、
もっと研究者として突っ走ってみたらいかがでしょうか?周りの教授連中と仲良く
やろうとか思わないで。先生はみんなとちょっと才能の方向が違うんだから
あんまり無理に合わせようとせずに、伸び伸びできる場を探してみたらいかがでしょうか?
世界の三原麗珠として活躍することを祈ります。
授業記録
10/3/05 Class 1
1820-1950, 2000-2110. 大部分が遅刻で,最終的には9名程度.
タクシー料金を屋島人と牟礼人の二人が分担する例,シラバス,8/31 & 10/1 メール,そしてノートという順番.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 1, all sections.
やはり 2 時間で終わらせるのは無理だった.「読めば分かる部分」(理論や例以外の大部分) を大幅に削るべきか.
講義ノートへの追加的コメント
- エンビーフリーの概念が個人か比較を要しないことを説明する例:
ネコに真珠,ブタに小判を配分したときどちらがより望ましい状態にあるかという個人間比較はできなくても,
エンビーフリーが実現したことは言える.
- 基準を公開すべきかどうかという問題も考えなければならない.
大学入試で学科所属決定の優先順位の決め方が公開されないと,実際はそうでなくても
「本当の学科志望順位を書くと合格しにくくなるのでは」とか
「第二希望以下を書くと成績がよくてもそちらに回されやすくなるのでは」などと受験者に余計な心配をさせてしまうかもしれない.
- 分割財であっても比例配分があたりまえでない例.「ダムができる前からこれだけの水はわが県では確保できていた.
そこは譲れない」といった水利権.
- 授業中に言及した比例代表制のドント方式 (d'Hondt or Jefferson's method) の分かりやすい説明は,
http://theorist.blog6.fc2.com/blog-entry-46.html にある.授業中に描いたグラフの意味はそこに引用されているページに載っている.
講師の感想
講義ノートの pdf をプレビューで表示した Macintosh の画面と,ホワイトボード,そして手書き部分を表示するための書画カメラを切り替えながらの講義.机には他にも Windows パソコンや,講義集録用のべつの Mac,スクリーンのモニタ,スクリーン表示その他を切り替えるスイッチ,不明なパソコン,スキャナらしきものなど.書画カメラとパソコン画面の切り替えは操作はそんなに困難ではなかったが,他の理由で授業がやりにくかった.スクリーンが不鮮明なため文字サイズを大きくしなければならないため,画面上に表示される行数が限定されることが原因だろう.教えていてときどき前後関係が掴みきれなくなるのには参った.理論や例は頭に入っていても,著者独自の話しの進め方までは覚えていないのだ.ノートは話の構造が分かるように箇条書きに書いてある.しかし,数行しか見えない状態ではその特徴がなかなか生かせない.少しずつ画面をスクロールするのではなく,パワーポイント風にしたほうがいいのだろうか.しかしパワーポイントだと画面が細切れになって,さらに全体像を把握しにくくなる感じがする.
ズームをどう変えても書画カメラがA4ページの横幅全部をとらえられないのは問題.ホワイトボード用の明かりも教卓で操作できるといい.
「ディスカッション形式の授業にはならないか?」と質問あり.私のやる分野ではディスカッション形式は効果を認められていないのだろう,そんな授業は受けたことがない.ただ,一定のやりとりはもちろんできるので,質問だけでなく,何かいい例があったりしたら披露してほしい.受講者の発言が過剰になればコントロールできると思う.あと,発言するしないにかかわらず,自分の身近な事例と関連させ,身近なルールの改善法を考えながら受講するのが効果的かもしれない.
「英語を読む機会ができる」とか,「状況を単純化してスパッと切る感じがして、とても面白かったです。哲学的な問いに対して、数学的に応える姿勢がとても良いです」という感想あり.英語を読む機会にはなるかもしれないが,哲学的なことはほとんど扱わない.日常的な問題を数学的視点を取り入れて考え直すと言えば,ほぼ正しいが.
ところで,これらのコメントをしたふたりが,「もっと遅い時間に始められないか?」と希望.7時でも早いと言う.残念ながら,そのつもりはほとんどない.「社会人は早く退社しづらい」というが,普通はクビにされてもやって行けるようになるために MBA を取るんじゃないのか?「文句あるなら,クビにしたら?」と言ってさっさと退社したらいいじゃないか.それに7時でもダメというのはボクの授業だけか?他のも同様だったら月曜から金曜の授業の半分はあきらめなければならないじゃないか.それとも授業収録システムを利用できるから,あきらめなくてもいいんだろうか?---などと思ったわけではないが,その二人からもらったメールから職場を推測すると,なんか知的というか,かっこ良さそうな横文字名前の職場ではないか.コンサルタント付き図書館……じゃあないよな.仕事内容は知らないが,英語と韓国語と中国語のうち二つくらいは話せそうじゃないか.工学の全部とは言わないでも,一部については先端的知識を持っていそうじゃないか.これじゃクビにはなりたくないだろうなあ.でも,あまり遅く始めることはできないので,ご勘弁を.
本日の講義を逃した諸君,まだチャンスはある.Chapter 1 のノートを読んで疑問点をしぼっておいてくれれば,2回目の講義の前か後にでもポイントを教えよう.
さて,受講生に考えて欲しいことがある.こちらのブログに投稿した文章,特に第3節「授業の進め方」を見て欲しい.そして次回の授業の前か後あるいは休み時間にでも意見を聞かせてもらいたい.
10/17/05 Class 2
1825-1940 (up to Section 3), 1950-2130. はじめて10分くらいで4名がそろう,Section 3を終えて休み時間に入る直前にあとひとり,計5名.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 2, Sections 1-4.
時間がかかったが,これ以上ペースを上げるのはむずかしいかもしれない.
「もっと速くするとわけ分からなくなりそう.時間かけてもいいんでは」と O と Sw の意見.
次回教えるときは,Section 4 の理論的あつかいを軽くすべきかだろうか.
講義ノートへの追加的コメント
- この章の内容は船木 6章に載っている.
- セクション 1 で配分方法を列挙したとき,
どうして「競争的なやり方」(たとえば価格メカニズム?) が載っていないのかと O が指摘.
このテキスト全体を通じて,価格メカニズム (市場メカニズム) 以外の方法に関心を集中しているからだろう.
このシラバスの最初を参照.
- Section 2 に出て来るような,いろんな要素の重要度の重み付けをする方法としては,Young 219 ページに紹介しているやや古い研究 (対の比較から重要度のランク付けを
得るだけの方法かも) のほかに,AHP (Analytic hierarchy processes; 階層的意思決定法) というのがある.
これは複数の意見を集計する集合的意思決定のための道具というよりは,主としてひとつの主体の意思決定のための道具だと思われる.
重み付けを計算してくれるサイトもあるので,利用しやすいと思う.特定の決定に至った理由の説明を求められたときなどに役立つのではないか.ただ,ひとりの意思決定を型にはめるのはあまり自分の好みではない.
- 子供ひとりが軍への所属一年分になるのは大きい,というか子供がいる人は自分に有利になるように報告するのではと F さん.
大きいかどうかはちょっとわからないが,「戦略的操作」の問題はとうぜんある.
- Section 3 の腎臓の配分だが,なんでカネを使うやり方をそこまで避けるのか疑問だ.
すべての腎臓のうちたとえば10パーセント程度は,高いカネを払う患者に行くようにしても悪くはないんじゃないか.
そのカネを医学の進歩に役立たせたらいい.私はなにか重要なことを見落としているだろうか.
- 腎臓の配分方法の改善については,参考文献に挙げた Alvin Roth のサイトにいくつか研究論文がある.
- Section 4 で出てくる数学の基本については,参考文献の永谷を参照.矢印や集合などの記号一覧もまとめてある.
抽象数学にたいする文盲状態を脱却したい方は,ぜひ見るといい.
多くの数学書の最初の20ページくらいに出てくる論理と集合と写像の知識だけでも,やっているのといないのとでは
天国と地獄くらいのちがいがある.このたった10ページ分くらいの知識だけでも,社会選択理論をふくむ数学のかなりの数の
結果を導くことができる.かなり高度な結果をそれだけの数学知識で得ることができるのだ.
- じつは the original UNOS formula が整合性を満たさないことの説明はややごまかした.
(ノートの方の定義 [version January 2005, pages 6-7] を用いないで説明した.)
それについては,アップロードした演習問題の
追加問題 1 が関連する.F さんの疑問に答えて,
「(0, 1) が F なんとかに属することは言えるが,(1, 0)が属さないことは,
最初の条件だけではいえないから括弧は外しておく」と指摘した部分に関わる問題で,
簡単なのでやるといい.
- この章の演習問題の提出期限は 10 月31 日.
講師の感想その他
学生とのやり取りは前回よりはだいぶ増えた.
書画カメラがA4ページの横幅全部をとらえられない問題は解決.マウスを使ってズームを変える必要があった.
ただし,書画カメラの映像がとても不鮮明.
ひとりの例外 F さんを除いて,テキストをまだ買っていない受講生たち.「英語を読む機会ができる」とか言っていたくせに.
講義中は,書画カメラでテキストを参照できるが,試験中はそうはいかない.
図表などすべてふくめてノートにすればいいと O さんは言うが,Young のいいところが失われる.
特に事例を記述した部分や,事例と理論をつなぐ絶妙さなんかは現物を読まないと分からない.
受講生が少ない大きな理由は,テキストが入手しにくいことではと O さん.生協に売ってるなら買いに行くが,
あらかじめ受講するかどうか迷っている段階では買いにくいとか.図書館も時間帯が使いづらくてチェックしてないと.
以前,外国書テキストを生協に入荷してもらったとき,学期後に6分の1くらい?の値段で多量に売っていたのを思い出す.
O, T, Sw の3人が授業後20分程度研究室を訪れた.授業にかける時間やどうでもいいことについて話したり,テキストを借りたり,書籍の趣味を確認したり,タオルを見てボクと右翼団体との関係ついて確認したり.
10/22/05 Class 2 の欠席者向け補講
1005-1215 (up to Section 4), 1215-1240 (Section 5), 1240-1300 (雑談) K and G
Section 1-4 は2時間強.ノートの穴埋めも尋ねていったし,それほど急いだ感じはない.
雑談.この授業には直接関係ないが,すすめられるゲーム理論の本を挙げろと言われ,『図解雑学ゲーム理論』を挙げた.
この科目の意義について,「結局,いろいろな決め方があるということで終わるんですか」と G さん.回答としては,すでによそに書いたことなどを繰り返した.ただ,いろんな決め方のどれがいいかというのは場面により異なる.どういう場面にはどういうルールがふさわしいかを考える機会にはなるんじゃないか.
10/24/05 Class 3
1830-1935, 1950-2040 (up to the end of the chapter); 2040-2100 (discussion).
1830 ころまでに4人,残り3人は1905 までに入室.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 2, Sections 5-6.
ときどき質問すると,フォローできていないひともいた.よってスピードとしては,こんなものか.
講義ノートへの追加的コメント
- Separability が分かりにくいようだ.F さんの求めに答えて3次元の図で説明.F さんが例を欲しいといったの
にも同時に答える.改訂版講義ノートでは,この部分にだいぶ追加.
- 入試での学科の割当ルールの代表例をふたつ挙げた.それぞれの長所と短所を考えてみるといいだろう.
成績順に決めて行く方式は分かっただろうが,
第二番目のルールは分かりにくかったかもしれない.「希望順位を優先し,希望順位が同じ場合は成績順」ということ.
詳細は以下のとおり:
- 第一希望に注目.第一希望に挙がったおのおのの学科に,そこを希望する人を成績順に割り当てる.第一希望が満たされた人をリストから外す.
- 残された人に限定して第二希望に注目.第二希望に挙がり,まだ定員の埋まっていないおのおのの学科について,そこを希望する人を成績順に割り当てる.第二希望を満たされた人をリストから外す.
- 以下は同様.すべての学科の定員が埋まればそこでプログラムは終了.定員が埋まらないいずれの学科にも希望者がいなくなればそこで終了.
久保幹雄・松井知己. 組合せ最適化 [短編集]. 朝倉書店, 1999. 第4章 「クラス編成問題」にふたつのルールの公理的特徴づけと,
長所・短所についての簡単な解説が載っている.
- Borda score をなぜ vote matrix の行の合計点で計算できるのか,理解できないと Fさん.
休み時間直後の質問だった.他の人はすぐ分かったというより,F さんほど深く考えていなかったのではないか.
要するに「ダブルカウントされるひとがいる」ということだが,最初の説明ではわざとその点は説明から抜かしておいたのだ
(ノートに Exercise とある).
- F さんや T さんが各自の選好のトップだけを投票する,「相対多数の投票 (plurality voting)」について尋ねる.
特に,Table 2.5 で相対多数のタイプ A がボルダルールやコンドルセルールで最後に来るのが疑問だという.
トップだけを尋ねる方式でも特定の選択肢が過半数の票を集めれば,とりあえず「過半数意見」という基準はクリアできる.
しかし,単に相対最多数しか取っていないときは,文字通り過半数意見とは言えない.
Table 2.5 のように相対最多数である A は過半数の 31 人にとって最悪ということもありうる.
選挙はべつとして,議会の手続きでは多くの場合,「修正案と原案」「原案と現状 (原案の可否)」という具合に二つずつ比較して
投票することになっている.相対多数投票方式の欠点を克服しようとしているからではないだろうか.
- 投票理論の解説を終えたころ,O さんが「こんなに厳密なことを考える必要があるのか? 完全なものがないなら,
いい加減にやっておけばいいんでは」と.実際の意思決定の場面では,要するにみんなが納得できる方法であれば
いい加減な決め方で問題ない.みんなが納得していればどんなひどいルールでも「公平」と言ってもいいかもしれない.
ただ,多くの場面ではルール自体が論争の対象になる.なにかを決めたいのだが,その手続きを巡って
延々と議論が戦わされることは稀ではないのだ.どのようなルールが欠点が少ないのか,どのような複数の条件 (公理) なら
同時に成立するのかといったことを明らかにしておくのは,学者の仕事として意義があるんではないか.そうか,この科目の
対象は学者志望者ではなかったな.それでも,知っているルールが許容できそうかどうかくらい知っていて損はないだろう.
(ホントは数学的な証明までやりたいところだ.この分野での証明と言えば,いくつかの条件が与えられたとき,そのすべてを満たす
ルールを見つける作業に相当するものが多い.現実世界での突破不能そうに思える状況を切り抜けるための訓練になると本気で
信じるから.まあ同意はしてもらえないだろうけど.)
ついでに,ルールの欠点を自分に有利にするための技を磨くのもいいだろう.そんな裏技には自分はまったく関心ないんで (笑),
あんまり教えないけど.
- Sw さんの質問というか指摘.ボルダとコンドルセのは特定のルールを示し,アローの定理は特定のルールではなく
文字通り「定理」.アローの業績は一般理論の確立とも言えるだろう.
「社会選択理論」という分野の本格的な出発点となった業績だ.
講師の感想その他
ある問題を O さんに答えてもらったら,「そんなにボクは答えたそうにしてますか?」と.「そのくらい分かる.まかせてくれ」という表情に見えたが,なかなかいいんではないか.ただ,もう少し歳を取ると知恵 (?) がついて,やりたくてもやりたくなさそうな振りをしてひとに恩を着せるひとが増えるようだ.仕事の話だ.(そして,「やはりやりたくなかったんだろうな」と思えてしまうくらいの結果しか出さない.) 大学のばあい,仕事ができると思われると仕事をたくさん任されるようになる一方で昇級には関係ないという事情も手伝い,やる気もなければ仕事もできないふりをする教員が多いような気がする.一方で,どんなに人間関係を犠牲にしてでも大学改革なんかの仕事を達成してやると意気込む少数派もいる.
前回の授業で,ボクの専門を尋ねたO さん.その答は社会選択理論であり,特に今日出て来たアローの定理の拡張にかかわる部分である.本日,投票理論家が Condorcet, Borda, Arrow と出て来たが,4人目は誰だろうか? その解答が知りたければ,このサイトのトップページのトップにある英文を見るとよい.関連記事へのリンクがある.
追記 (11/2/2005). もと学生から先週メールあり.
「既にご存じかも知れませんが、最近出たAlan TaylorのSocial Choice and the Mathematics of Manipulationという本の6章で三原先生の業績が大々的に取り上げられているみたいです.(Indexを見ると、言及されているページ数は Arrowより1ページ少なく、Senと同じといった具合にsocial choiceの巨星らと肩を並べている」
Amazon にあるその本の情報の「なか見!検索」の索引を見ればたしかに Mihara は 4 ページ分出ている.しかし,他にもっと多く出てくるひとがいるわけであり,べつに突出しているわけではなかった.それにしてもひとが参照してくれる部分は,論文の主要結果ではない簡単な部分が多い.
その O さんがアローの定理が出て来た時代背景なんかを尋ねる.経済理論史は公理的方法よりもさらに役に立たない気もする.そんなこと知ってどうするとも思ったが,まあいいだろう.本音では,「特定の数学的定理が出てくるのに,時代背景なんか関係ない」と言いたいところだ.だが,現代に生きている学者の立場から見れば,環境とか情報といった特定の領域に政府の補助金が注ぎ込まれて学問分野の発展を歪めているのは強く感じる.だから時代背景も無縁ではないかもしれない.思いつくものを挙げれば,数学の分野での公理的方法の発展とゲーデルの不完全性定理による公理的方法の限界の提示,そして世界大戦を契機としたゲーム理論やオペレーションズリサーチの興隆などが背景にあると言えるだろう.特にアロー個人は軍で最適化の研究をしたり,アメリカ空軍と縁の深いランド研究所でゲーム理論を使った国際紛争や戦略の分析をしたといった経歴があるらしいので,そういう時代背景の影響を受けなかったと主張する方がむずかしいかもしれない.
コンピューター科学に社会選択やメカニズムデザインの考え方が入っている話は,theorist の社会科学カテゴリーでも触れられている.
岡山にできたという秋葉原のコスプレ喫茶を視察に行こうという話.なんのことかボクにはさっぱりだが,むかしある時期流行ったというノーパン喫茶のようなものだろうか.ここはビジネススクールらしく,メニューにないサービスでも注文して店の反応を観察してみるのも勉強になるかもしれない.
10/31/05 Class 4
1830-1945 (upt to Section 3), 1955-2045 (up to Section 5); 2045-2130 (2章の演習問題の解説).
1830 までに5人,残り2人は1910までに入室.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 4, Sections 1-5.
講義ノートへの追加的コメント
- no choice or effort という英語について O さんが質問.not (c or e) つまり not either c or e とは,c or e の否定である.
よって,(not c) and (not e) と読める.not either c or e は neither c nor e とも書き,このばあい nor に and と否定の意味が
込められる理由は分かるだろう. 論理式とちがって英語では, not などの否定がどこまでかかるかは前後関係で予想するしかないことも多い.
しかし,either とか neither を使うと,後ろに出てくる or なり nor が上の説明の閉じ括弧を
予言する役割を果たしてくれるため,予想しやすくなる.
- Run-on-the-bank procedure がよく分からないと,T さん.予習していた F さんはすでに気づいていた通り,
Section 4 に進めば分かるはずだが,簡単に説明.
- Contested Garment Solution の3人以上への拡張はいろいろありうる.Shapley Value はその代表的なひとつ.
ただし,consistent な拡張は (例のタンクのやつ) ひとつしかないというのが,Section 5 の結論.
- Shapley value はゲーム理論の授業で学んだひともいるだろう.今回の解説は分かりやすかっただろうか.
行方常幸というひとのサイトに,
シャプレー値や破産問題の計算プログラムがある.(ただし,Section 5 の最初の 4 人の例を僕が計算しようとしたら,
テキストとちがう,ありえない答が出てしまった.利用法を間違えたのかもしれない.)
- Section 5 の最初の2人の例は Section 3 の最初の例と同じと F さんが指摘.
講師の感想その他
Contested Garment Solution あるいはそれと整合的な配分ルールは現実離れしているという感想を抱いたひとが多いかもしれない.
そのルールを使うとよさそうな状況なんかを考えてみるといい.
そのルールの特徴として,入手できる量が少ないときは比例配分よりも要求権の小さいひとに有利になっていることが挙げられる.
「状況が厳しいときはより平等に」という原理が働いており,水不足の際のダムの取水量決定なんかに使うと合理的かもしれない.
演習問題の解説は,正解をプロジェクタで提示しながら行った.特に追加問題のところの受講生の反応が悪かった.
速すぎただろうか.証明はなかなか見ただけでは理解できないものだ.ホワイトボードに書きつつ説明するのが
望ましいと思うが,今日のところはああいう説明方法にした.質問があればどうぞ.試験直前には
またやる機会もあるかもしれない.ちなみに,2章の演習問題の得点は,高い順に 9, 7, 4, 4, 3 点だった.
Tさんと Sw さんが,この授業は考えなければならない分,時間が経つのが速いと.そんなに退屈はしないということか.
T は続けて,授業外でノートやテキストを開く気にならないと.補講が学習時間の一部肩代わりをしているのでは
あるが,それだけでは試験問題を解けるようになるのは難しいだろう.分かった気になることと自分でできることとは
ちがうので,失敗しないように注意したほうがいい.どちらかといえば宿題で正解者が少なかった
問題の方が試験問題になりやすそうな気がする.
前回の授業記録に「追記」を追加.三原の研究が完全には忘れられていない話.
11/7/05 Class 5
1840-1950, 2005-2125. 本日から三原オフィス.集まりが悪い.1845 までに3人.その後1920, 2010. 欠席二人.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 4, Sections 6-10.
予想外に時間がかかった.昨年の夜間主の授業よりも時間がかかった.大きな教室から狭いオフィスに移ったせいか,
ディスカッションが増えた.夜間主授業ではあまり議論にならなかった部分だが,今年は半官の銀行のようなところに勤めている
ひとが複数いることもあって,特に5つの配分方法のグラフを巡って活発な議論があった.
講義ノートへの追加的コメントその他
- Maimonides' rule は Uniform Gains method ともいう.5節最後のタンクの例にならって絵を描けば,
同じ底面積で高さ c1, ..., cn のタンクを底を水平にそろえて並べて,水を入れて行くことになる.
全員にある量 x を割り当てるが,x 以前に上限 ciに達した要求者にはその上限を割り当てるということ.
このルールを Figure 1 流に表現したものを尋ねたら,T さんが正解を出した.
- 各自にウエイトを与えてUniform Gains method を拡張した weighted-gains method もある.
二人の場合のグラフで言えば,原点から始まる部分の傾きが45度でなくてもよいルール.
(Moulin 2000 Econometrica 論文に weighted gains method や weighted losses method にかんする重要な結果がある
こともあり,言及しておく.)
先週のコメントにダムの水を Contested Garment ルールで配分することを示唆したら,T さんがかなり納得したと.
二つの県で水を分ける場合は,単純に二分するのは不合理なので,人口や産業などを考慮してウエイトを決める方法が考えられる.
- 国営企業を株式化して売る話は,Maimonides' rule を若干修正する必要があると授業では言った.株式数の上限が
あらかじめセットされているとみなしての発言だった.だが,上限を M rule の定義にある x とみなせば,
x は事後的に決まり,この話は修正なしで M rule とみなせる.
- 預金保険制度 (ペイオフ) で,普通預金が 1000万円まで保護されているのもこのルールに該当しないかと G さん.
実際は,1000万円を越える部分についてもある程度戻ってくるはずだが,そこを無視すれば似ていないこともない.
ただ,上限 x が内生的に決まるというのが M rule の本質だと思うので,厳密にはちがうと言っておくことにする.
- Maimonides' rule の dual は Uniform Losses method ともいう.
- Equal sacrifice にかんする footnote 17 は正しくないので注意.この章の記号の使い方に従えば,
the loss of utility は U_i(c_i)-U_i(a_i) になる.累進課税の根拠はこの「均等犠牲」にあるという説に
言及したら,首を縦に振って納得する Sw さん.
この授業が累進課税支持派を増やすのは個人的には不本意なんだけどな (Chapter 6 をやらない理由もそのへんが関係する;
興味あるひとは自分で読みたまえ).
- Section 8 の最後で Table 4.3 の5つのルールを Figure 1 式にグラフ化した.
どのルールがどっちにとって有利かということで,活発な論があった.要求者 1 はグラフ上の右の配分ほど,
要求者2はグラフ上の上の配分ほど有利.「要求者2だったら,Uniform Losses method (M rule の対) を選びたい」と言うと,
G さんは「それはやり過ぎでは」と笑った.しかし,要求が完全に満たされる点 (c1, c2) を
基準にするという議論が自然に展開できる状況では,かなり説得力あるんじゃないかと思う.たとえば最近話題になる
政府補助金なんかは「どれだけ削減するか」が焦点だ.現状をciとみなし,そこが「参照点」になっている.
同じ「平等」を目指すにしても,たとえば「基準線 (baseline)」をどこにとるかによって配分は異なってくる.
そのような側面を意識しつつ交渉を有利に進めて行く技術が,21 世紀のGSM出身者に要請されていると言えよう.
Section 8 にある3つの terms なんかは,その意味で役に立つだろう.そして,
この授業を受講した GSM 生はその意味で決定的な幸運を手にしたと言えるのだ (笑).
- さまざまなルールを合理化できる,直前のテクニックは交渉に使えるかもと,けっこう T, O, G の三人が盛り上がる.
実際の請求権 ciや入手可能量 a0が分かってしまった後では,
いずれにせよ交渉で有利な結果を出すのはなかなか難しいとは思う.
しかし,たとえばこれからやるある事業にあなたが参加すべきかどうかといった状況で,
事業が失敗した場合について条件を出して参加するということはあるだろう.そして,あなたにとって有利な条件が
受け入れられる可能性は十分考えられる.そういうときたとえば weighted losses method なんかを提案できるのではないだろうか.
地域マネジメント研究科にふさわしい例を試みてみよう.(ただし,高松実在の企業などとは関係ないフィクションである.)
隣同士の3軒の店が「コ」の字型に並んでいたとする.
その「コ」の中の空間に半分潰れた廃れたソープ街があって,3軒への客足がそのせいで遠のいていたとする.
さて,その3軒のオーナーがそのソープ街を買い取って,共同出資のおしゃれなオープカフェを作って,
客を呼び寄せようという計画があったとしよう.(買い取り方法には,友好的なものも敵対的なものもあるだろう.
たとえば周辺の商店街に働きかけてもらって香川大学 GSM のサテライトに進出してもらい,風俗営業法 (?) 上の理由による
営業妨害を仕掛けるとか.たしか教育機関のすぐ付近では風俗営業が限定されるんでは?---だんだん話が横道に逸れて来たが,
GSM も進めているらしい中央商店街活性化に使えるアイディアかも.)
いちばん大きな店のオーナーであるあなたは,オープンカフェが収益を挙げることはあまり期待していないとする.
出資割合をどうするかとか,利潤をどう分けるかとか,いろいろ話し合うべきことはあるだろう.
しかし,あなたはむしろ潰れたときのことが心配だ.そういう状況では,あなたに有利な破産処理方法を
条件とした上で参加するのは自然だし,じゅうぶん受け入れられる可能性がある.あなたの参加なしでは
ソープ街の買い取りさえ難しいような状況なのだから.
- Section 9 の justifiable transfer (ある配分状態において,優先度の低い個人から高い個人への正当化できる移転)
について,T さんや Sw さんが大いに疑問.Equitable allocation はどんな transfer も justify
できない配分と定義される.そこに至って彼らは納得していたから,どうも本質的でないところで疑問を持ったようだ.
経済理論においては,ある状態が望ましいとか安定だとかを単純に表現しても,それを達成するのが難しい場合がある.
よって,「最適」とか「安定」とか「均衡」の概念はたいてい,「そこから離れることによっては改善できないような
状態」として定義される.まず,「改善」の内容を定義した上で,その意味で改善できない状態を「最適」などと定義するのだ.
- Collusion proof が問題になる状況があまりイメージが湧かないと O さん.
銀行や役所に勤めている出席者は逆に,イメージが湧きすぎて困るんでは.「公共団体の補助金とか……」
ボクが説明しようとすると,「よく中小企業の社長さんとかいくつも会社作ったりするけど……」と
補助金をぶんどる方法を続けてくれる T さん.補助金に限らず,税金なんかでも同じ.
小企業には有利にな制度のもとでは,会社が大きくなりそうだったら分離して親戚の名義にするといった対策
をする社長さんも当然現れるということ.
11/9/05 欠席者向け補講
1905-2025, 1人出席.質問に答える形式.baseline を「基準線」と訳していたので「線」であって「点」ではないと思って混乱
したとか."dual"の意味.
11/11/05 麗珠会
いつのまにか「麗珠会」という名前が付けられていた飲み会.
大雨にもかかわらず,最初のひとは20時頃やきとり武蔵屋に着いて,
夜10時ころまでに授業の受講生5人+ボク+ブログライターひとりが集まった.
ちなみにボク個人は80分遅刻の2120から参加.前回の授業を欠席したひとに15分程度の補講.
あとで成年男性4人で行ったスナックのママさんはよかったが,店の子のガードがひじょうに固かった.
十字架をつけてたけど,本物のクリスチャンを揃えてるんではと思うくらいだった.
その一方で,店の二十歳くらいの子は,手とか肌がすべすべだとか言って,ボクの手とか頬とか触りまくっていた.
食生活がめちゃくちゃだから,ビタミンとかミネラルとかのサプリを補給しているからかなあ.
あと,外に出ないから色白になるし.いずれにせよあまり健康的な理由ではない.
さて,翌日朝3時までいったいわれわれは何をしていたのか.
ここでの名前の記述だが,基本的にイニシャルには「さん」をつけたくないし,イニシャルでなくても呼びかけてもいない
第三者を記述するのに「さん」をつけるのは抵抗がある.しかし,このページは変数や関数の記号が頻出するので,
区別するために「さん」をつけている.
ビジネスやスクール関係の話としては,最近はやりの人形の話とかが印象に残った.
ほかに,T さんが GSM は儲ける方法を学ぶところというビジネススクール
生として当たり前の認識を持っているのが新鮮だった.地域マネジメント研究科は,地域振興といった
曖昧な (?) 目標を掲げているため,その目標をまじめに受け取っている学生も多い.
ただ,地域に貢献するにしたって,利潤を生みつつやるのを目指すべきだろう.
T は,ボクが出すアイディアをこの授業の受講生でビジネス化しようなどと,都合のいいことも
言っていた.だからボクは「そんなもん無い.自分でやれ」と言った.この授業で想定している便益は,
抽象的思考を通して論理能力や問題解決能力を高めるといった,間接的なものがほとんどだ.
より直接的・実用的な便益として想定しているのは,組織内部のルールをデザインし,改善して行けるような能力を高めるといったことだ.
新しい商品の開発とかビジネスの創設といったことはあまり想定していない.
強いていえばコンサルティングに役立つ知識も少しは混じっているかもしれないが,
実際に利用できるにはいろいろソフトを開発したりと,
工学系の人材も必要になると思う.どういうソフトの開発が必要か,次の次の授業あたりに
例を挙げてみてもいいが,それは機密ということでここには書かないかも.
11/14/05 Class 6
1840-1940, 2000-2110. 受講生の入場は,1820, 1835, 1850, 1855, 2000.欠席は一人.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 5, Sections 1-6.
普段元気な人が欠席したためか,開始時刻が遅れて急いでいたボクがちょっとしたコメントをいくつか端折ったせいか,
特に議論が盛り上がることもなく,静かに授業は進んだ.コスト配分の問題は,地域マネジメントにもかかわる
話が多いので,議論になると収拾がつかなくなることをみんなが恐れたためかもしれない.
続いて4章の演習問題 (提出者4名; 「やろうと思ってたが飲み会の時間が長くなってできなかった」とかいう T さん)
の解説をしたかったが,みんな疲れたというので止めた.
ちなみに 4章の演習問題の得点は,高い順に 9, 8, 4, 3 点だった.問題5, 6 のできが悪かった.
次回はそれらの問題に重点を置いて解説する予定.
コメントその他
- Cost sharing の章なのに,導入の Section 1 でコストのことにほとんど触れていないのに気づいてしばらく立ち止まった.
利潤 (収入-コスト)を分ける方法だけ決めて,マイナスの利潤が出ても同じ方法で分けることはできる.
しかし,利益 (この場合収入の意味) には利益の分け方,コストにはコストの分け方を,
おそらくアウトプットやインプットの種類を分類した上で考えるのが普通だろう.
「協力の利益を分けること」という導入は話がやや一般的すぎるかもしれない.
- G さんが Section 2 の最初の例に鋭い指摘.
「協力時の費用 c(AB) が 町 A だけで造ったときの費用を人口比でスケールしたもの c(A)(p_A+p_B)/p_A より小さければ,
人口比例配分はコアに入るはずだ.この例は,その条件が成り立っていない.c(AB) の値が規模の経済の働かない
不自然なものになっている」
といった内容.前半の主張は正しいようだ.後半については,
町 B の費用を人口比でスケールした 7×48/12=28 のところが c(AB) は 15で済んでいるのだから,
町 B を基準にすればだいぶ規模の経済がある.
「べつの町だから」とか言っていた T さんあたりはそういうことを言いたかったのでは.
数字がちょっと不自然と言えばそうかもしれないが,ありえないことではない.
アウトプットがあるレベルを超えれば費用の増分が増える (限界費用逓増) のは経済理論では普通の仮定だ.
生産のために必要なすべてのインプットは自由に増やせるわけでなく,土地などのいくつかのインプット
は増やせないか (あるレベルから収穫逓減が働く),増やすのに余分な費用を要するようになるからだ.
おそらく A 町だけのゴミ処理施設なら既存の古い施設を改修すれば済んだが,
両方の町のための処理施設にするには,隣の土地を買って新たに建物を建てないといけないといった状況だろう.
おっと,ゴミ処理施設じゃなくて配水システムだったな.いずれにせよ土地は要りそうだし,
町 A と B を繋ぐ配水管も必要だし,町 B 内の配水管がそう簡単に安くできるわけではないだろうし,
この数字でいいんじゃないだろうか.
- Section 2 で"opportunity cost" とあるのは,協力なしで施設を造ったときの機会費用 (失う価値;
造らなかったとき得られる価値) のこと.
- 「コアの中のどの点を選べばいいのかという理論はないんですか?」と F さん.
答が多くありすぎるとそのうちどれを選ぶかということで合意がなかなかできずに,交渉コストがかかる.
F のような公務員としては機械的に適用できるマニュアルが欲しいといったところか.
この章の後半他,次章の交渉理論でも出て来るので,「無いわけではない.しかもある程度は絞られている」と答えた.
しかし,答をひとつだけ選ぶようなルールがあったとしても,今度はどのルールを選ぶかという議論になるわけで,
前記のような回答をした.競合するルールが並立していてマニュアル化できないようなばあいは,
それぞれのルールの特徴をよく理解する必要がある.
- Section 3. 今年もやってきました女の子も喜ぶ (←去年の夜間主授業の女子学生) 証明:
「正三角形の内点から各辺におろした垂線の長さの和は,その高さに等しい.」
「去年のゲーム理論の授業でそこのところが分からなくて,試験で心配でした」と言っていた Sw さんらに
2分くらいかけて証明したら, 分かったと言って喜んでいた (笑).
宍戸さんは中学レベルだと思って証明を飛ばしたのだろうか.
でも,武藤滋夫の『ゲーム理論入門』の 172-3 ページにちゃんと書いてあるじゃない.
- Section 5 で,navigation,flood control,power generation の利益を得る3つのグループのそれぞれに
課税するような言い方をした.これは戦略的基準としてのコアの解釈を分かりやすくするためのたとえであって,
実際にそれらのグループに課税するわけではないだろう.ここでの "charge"はそれぞれの用途へ注ぎ込む
税金の額を決めるというほどの意味と思われる.そうするとコスト配分のための戦略上の基準としての意義は減少するだろうが,
公平の基準としてのコアの解釈は依然有効であるということだろう.
- [追記 (11/22/2005)] 事情を知る F さんによれば,たとえば早明浦ダムの費用分担では,
農業とか工業とか上水道とかいった用途ごとにどれだけ「負担」してもらうかを算出した上で自治体などに負担してもらっていたようだ.
じっさいに特定用途の受益者に支払いをさせるわけでなくても,数字を算出する必要はあるということか.
「この部分はすべての用途で使用,この部分は工業用水だけに使用」といった decomposition principle に
似たようなことはやっていたようだ.ちなみに,ダムの維持費は自治体などが負担するが,水自体は「ただ」 (量に応じない) とか.
- Subsidy free の意味.いま,navigation と flood control の設備は整ったとする.これだけでも
power generation の設備を整えるためのコストはかなりカバーされているはずだ.
しかし,最後に power generation のための独自なコストを incremental cost として払わなければ,
power generation は実現できない.power generation の設備を整える以上は,この最後の incremental cost
部分は最低でも (この用途のために) 請求しなければならない.power generation 以外の用途についても同様.
- Section 6 の電線の費用分担問題はひじょうに分かりやすいようだ.こちらが説明する前に分かってしまった感じ.
ただ,電線や水道ではあまり現代性がないので,「ネットワーク」と言おう.
その方が問題の適用範囲がひろがった感じがしないだろうか.
ノートの改訂版では decomposition principle がコアの中の配分を実現する証明に例を追加.
- GSM で使っている講義集録システム
(eLearning というらしい,単に講義する様子を移したビデオと講義で使ったPowerPoint 映像を組み合わせただけで,
インターアクティブな要素はまったくないのに)
はあまり人気がないようだ.出席者で使ったことがあるのは二人だけのようだ.
ときに肝心なところが映っていないなど見にくいという理由の他,時間が長過ぎて使う気にならないとか.
欠席者用に,時間を凝縮した説明の音声ファイルくらいなら用意する意味はあるかもしれない.
- ボクとの距離が近すぎませんかと,はじめて研究室に来た Sg さん.飲み屋で働いていた女子学生は,前期に
研究室で授業受けて,距離感がないのがよかったと言っていたんだが.
講義してるのではなくて,少人数でゼミをやっていると思えば普通じゃないかな.
11/18/05 欠席者向け補講
1805-2055 (chapter 5 全部); 2055-2115 (chapter 4 演習問題). 前回と次回やむを得ず欠席せざるを得ない受講生のために補講.
4章演習問題は 5, 6 のみ解説.
- 「Section 2 で"opportunity cost" とあるのは,協力なしで施設を造ったときの機会費用 (失う価値;
造らなかったとき得られる価値) のこと」と上で書いた.経済学は合理的な意思決定のための学問であるから,
概念も合理的選択に役立つように構成されている.
「機会費用」「サンクコスト」「限界費用」もそのような概念だが,それらについて多くを解説する余裕はない.
これらの概念をよく知らないというひとは,Stiglitz の入門経済学の
第2章「経済学的な考え方」の要約
あたりで用語をチェックすることから始めるといい.
関連話題として,企業が特定市場から退出する条件を学ぶのもいい.
ただ,退出時の意思決定については,「生産を続ける」「生産を停止する (固定費用だけかかる)」「市場から退出する (固定費用の一部を回収できる)」の3つの選択を区別して考えるべき.
その区別が曖昧な説明を読むとかえって混乱するので注意.
- このひともゲーム理論の授業で例の Figure 5 と同じ三角形をやったがよく分かっていなかったと.武藤の本とそれに基づく宍戸さんの説明は天下り式で動機付けが弱かったという印象を持っているようだ.武藤本は決して動機付けが弱いとは思わないが,Young の話の進め方 (特に Shapley value のところとか) はたしかによくできている.
11/21/05 Class 7
1830-1840 (早明浦ダムの費用分担); 1840-1910 (chapter 4 演習問題), 1910-2010, 2020-2100 (chapter 5),
2100-2125 (chapter 4 演習問題 再度).
受講生の登場は,1820, 1910, 1920, 1920, 1930, 1945. 欠席は一人.ひとりは
4章演習問題の解説聞かずに退出.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 5, Sections 7-8.
4章演習問題は 5, 6 のみ解説.
きょうはいきなり理論に入るため,そして量も少なかったので,最低2人そろうのを待った.
遅刻さえ無ければこの授業はひじょうにやりやすいのだが.
小さな部屋で授業しているため,学生の表情が把握しやすい.特によく分かっていないところでは,
「そろそろ質問が出るな」というのが分かる.
- 早明浦ダムの費用分担について,F さんに少し教えてもらう.前回授業ログに「追記」として掲載.
- Section 7 の dummy の定義にある集合差の記号の説明をノートの改訂版に追加.
- Shapley value は,協力ゲーム理論の配分の正義に対するもっとも重要な貢献のひとつである.
Shapley value による配分の計算方法は,役所仕事のルーティンとして採りいれられるレベルだし,
表計算ソフトに標準で実装されてもおかしくない.
- Cost savings の定義式で,c(S) は S のメンバー (だけ) で自立するときの費用,そこから引かれているΣの部分は
全体集合 N に協力するとき S のメンバーに求められる負担.
ふたつの意味の違いに注意.
- 「辞書式順序」と言っても,みんな分かっていない表情.二次元の図でまずは説明.
いうまでもなくその順序による「最大化」を達成する配分 a とは,他の任意の配分 a' を持って来ても,
辞書式順序で a が a' より大きくなるか同順位になるような配分.
- 演習問題に出した,配分が a' のときの各提携の cost savings を授業中にさっさと計算してしまった Sw さん.
たしかに辞書式順序の理解にはほとんど役立たない演習問題だ.
- 4章の問題5で分かるように,「equitable with respect to P」という概念は,P という基準に
もとづいて公平さを判断していることに注意.ある基準 P について equitable であっても,一般的には
ほかの基準 P' については equitable にはならない.
- 武藤の VI 章はコアやシャプレイ値だけでなく仁まで意味や計算方法まで含めて載っている.ただし,Young が費用を
考えているのにたいし,武藤は利得を考えているため,数字の正負の意味が逆になるところがあるので注意.
- GSM の公共系の科目一般にかなりの程度言えることだが,特に費用便益分析や5章の費用分担あたりの話は,
県庁の土木課とか工学系の職員なんかの基礎知識としてふさわしいかもしれない.
工学系の学生を今よりもっとリクルートしてもいいはずだ.
入学してもらわないまでも,こういう部分の簡単な講義を県庁あたりに出向してやるというのも考えられるかもしれない.
本格的には GSM でコンサルティングまで請け負うというのも考えられないこともないだろうが,
(プロジェクト研究にでも取り込まない限り) よそに頼む方が安上がりだろう.
(ボクはあまり乗り気ではないが,香川県内のいくつかの事業のシャプレイ値分析をしたことのある宍戸さん
あたりはやってくれるかも.)
- いまの GSM では,そういう出向用の科目を開発したり,あるいは修了者向けの「3年目以降」プログラムを開発したり
(単に科目履修制度を修了者向けに充実させるだけでもいい) という話にはなかなかならない.
いくらサプライサイドである内部から提案しても GSM 執行部はほとんど考慮しようとしないのだ.
そういう意味でディマンドサイドは重要だ.そういった要望は,学生サイドから積極的に出して行かないと実現しないと思う.
- 「英語のテキストを使う授業を増やしたらいいのでは」と言う F さんと英語の勉強の話.この授業について
いえば,Young に相当するような日本語テキストはないので,英語のテキストを使っている.
CNN English Express などの CD は研究室に置いているので,借りたければ貸す.
iTunes などが対応している Podcasting でもいろいろな放送を聞ける.
11/28/05 Class 8
1835-1935, 1945-2120 (chapter 7); 2120-2225 (ふたりと雑談など).
受講生は,1820, 1830, 1830, 1900, 1930, 1945 に入室.欠席一人.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 7, Sections 1-4.
5章の演習問題の得点は,高い順に 7, 7, 4, 3, 3 点だった.問題 2(i), 4 のできが悪かった.
講義内容について
- Section 2 で期待利得 (効用) の意味に少し触れた.本来はこれだけでも1時間以上かけて説明すべき内容かもしれない.
ここで考える効用は数字の大小だけが問題になる序数的効用ではない.
もし序数的効用だと考えると,u(x)=x と v(x)=sqrt(x) (x の 1/2 乗,つまり「ルート x」のこと) とは,両方とも
「x が大きいほど望ましい」という選好を表すという意味で同じものと見なされる.しかし,ここではそうは見なさない.
効用関数 u では,たとえば「60パーセントの確率で100万円があたるくじ (40パーセントの確率でなにも当たらない)」と
「60万円を確実にもらうこと」が無差別になる (同じ効用を与える).ところが関数 v では,確実な60万円のほうがそのくじよりも
望ましいことになる.関数 v のように,期待値が特定の値になるくじよりもその期待値と同額を確実にもらうほうを好むような
選好を,「危険 (リスク) 回避的な選好」という.両者にたいして無差別な選好を「危険中立的な選好」という.
もちろん危険回避的な選好にもその度合いがいろいろある.
たとえば関数 v でそのくじに無差別になるのは,確実な 36 万円である
(くじの期待利得は 0.6 sqrt(100)=0.6×10=6, 確実な36万円の利得は sqrt(36)=6).
もっと危険回避の度合いの小さな効用関数 v' では,そのくじとたとえば確実な50万円が無差別になるだろう.
このような v' は v とはちがう選好を表しているとみなす.危険に対する態度が明らかにちがう選好だからだ.
- Section 2 最後のExample で,個人1の効用が u1(a)=a に,個人 2 の効用が u2(b)=sqrt(b)
になるのは理由などない.「どうしてそうなるのか?」という質問があったが,これは単なる仮定である.
どうしてそんな仮定をするかといえば,ひとりを危険中立的にもうひとりを危険回避的にした状況を考えたかったからだろう.
- Section 3 の最初で O さんが,「非効率な配分に決まる場合があることが分からない」という.互いに脚を引っ張り合って
効率性が達成されないことは往々にして起こる.もっとましな説明が欲しければ,たとえば囚人のジレンマを考えてみれば
いいかもしれない.どうしても非効率な効用の組合せは起きそうにもないと信じるならば,「交渉集合としては」非効率な
組合せも考えておくと理解してもいいだろう.可能性としてありうる効用の組合せをすべて記述したのが交渉集合の定義だから.
- 各人は自分の受け取りだけに関心をもつのに,どうして公平であるとかないとか考えられるというのかという疑問もあるだろう.
たぶん,それは本格的な哲学的議論を展開できる問題だと思うので,深入りはしない.
個人が自分の受け取りにだけに関心を持つというのは,「個人= (自分の受け取りだけを変数とする)効用関数」という主張ではない.
記述された効用は個人の特性の一部であり,ほかにも (記述されてはいないが)
個人は交渉集合を認識できる主体というのが暗黙の仮定である.非協力ゲームでも,個人は自分の利得関数を持つだけではない.
個人はゲーム自体を認識しているし,他人がゲームを認識していることも知っているし,いろいろ知っている.
ゲームの数学的記述上は,個人とは利得関数とほぼ同一視できるが,ゲーム理論の想定する個人はそれだけに留まらない主体である.
- Section 4. 個人 1 の効用関数を1/2にスケールしたら,Kalai-Smorodinsky 解は
スケール以前とはちがう効用 (利得) の組を選ぶ.選ばれた効用組では,個人1の効用は以前の半分,
個人2の効用は以前と同じとなる.しかしこれらの効用をもたらす個人1, 2 の受け取り (あるいは受け取る割合)
a', b' は以前と変わらない (演習問題にある).比較に,K-S 解ではなくて,たとえば u1(a)= u2(b)
になるような効率な効用の組合せを選ぶような解を考えて欲しい.そうすると,効用のスケールによって受け取り自体が変わってくる
ことが分かる.(個人1 の効用関数のスケールをゼロに近づけるにつれて,個人 2 の受け取りがゼロに近づく.)
- 今日の部分は,(2章より) むずかしいという感想が数人いたのがひじょうに意外だった.
モノを基本にした理論ではなくで,効用を基本にした理論だからだろうか.
数学的には,ナッシュ交渉解のみたす公理をひとつひとつ説明した武藤の『ゲーム理論入門』よりもさらに初歩的な扱いである.
しかも半分以上のひとはゲーム理論の授業でその話を聞いたはずだ.
どこがむずかしいのか見当がつかないのだが.もしかして,グラフの軸を混乱しているのか? グラフを見るときは,
軸が何を表すかをはっきり意識しつつみなければならない.交渉集合のグラフの軸はそれぞれの個人の効用 (利得) である.
受けとる量ではない.まさかこんな初歩的な誤解をしているひちがいるとは思わないが (いたら教えて),念のため.
あるいは,do no violence to utility theory を説明した部分が難しかったのか? なにが難しかったのか,
次回にでも教えて欲しい.
その他
来年度以降この科目を2単位2科目に分割する可能性がある.現状では単位数が 2 単位は少ないかと受講生に尋ねると,そうだという意見が大勢だった.テキストのレベルとページ数で判断する限り2単位で十分だと私は思うのだが.時間をオーバーしてやっていることもあって,受講者は3単位くらいは欲しいようだ.宿題など授業外の予習復習がもっときびしい科目もあるという.予習復習でやってもらえばすみそうな簡単なことまで説明しているから時間がかかるのだろう.でも,説明が丁寧すぎるということはないという.いまくらいでいいと.
受講生のひとりはノートの英語をほぼぜんぶ日本語に翻訳するほど予習している.(ただし,その勉強法はすすめられない.訳しても英語を覚えることにはつながらない.内容が理解できているかどうかは,訳さなくても分かるはずだ.自分のことだから.日本語に訳すくらいなら,英語を何回も読んだ方がいい.僕自身を振り返っても,中学高校時代そういう予習をするように言われたが,いっさいやらなかった.ただひらすらテキストを読み返しはした.大学受験では和訳があるからこのやり方は問題あると思うだろうが,ほとんど障害にはならなかった.学部以降,英語のテキストで経済学などを勉強するようになってからは,訳すなんてことはまったく考えることもなかった.)
たまたまほかに聞いた二人も,ノートに目を通してどのへんが分からないかを確認するくらいの予習はしているという.それでも,
説明が丁寧すぎて退屈することはないというから,やはりいまくらいの時間をかけて教えて,科目自体も4単位にしたほうがいいだろうか.ちなみに,二分割するとすれば,この7章あたりが後半のはじめになる.
授業後に政策投資銀行のひととジェトロのひとに質問を受け,その後雑談.GSM の科目のことなど.過去とった科目では,「ゲーム理論がいちばん役に立った (考えさせられた?)」と数学が苦手だという (←語学が得意という意味?) ジェトロ黒髪さんの意外な答.それではと,3人決闘ゲームをもちだして尋ねてみたら,政府系金融人よりもやや先読みをした黒髪さんであったが,不完全な先読みだった.僕のこの科目もよく考えさせられるという.ただ,考えるだけなら抽象数学の問題でも解いてもらった方が本格的なものが要求されるし,抽象的なものほどいっぺんにいろんな現象を扱えるんだが (現実を抽象化して逸話ができる; 逸話を抽象化してゲームができる; ゲームの理論は個々のゲームを扱うのではなく,それらをまとめた抽象理論を提供する).でもそれよりは日常や仕事とつながりのある内容のほう (個々の具体的なゲームレベルの議論) がいいようだ.数理的な理論よりも数値例などを多くして欲しいと言っていたので.政府系のひとは,この科目は企業人よりも公共人向けなのではという印象を持っていた.僕自身のイメージとしては国家とか地域レベルの問題よりも,むしろ組織内のルールを考えるときの参考にしてもらいたいと思っているので,ビジネス系も公共系もないんだけどね.
効用と言えば,先週末紅葉を見に柏原渓谷というところに行って来た.道が狭くてクルマがやっと一台通れるようなところだった.鮮やかな紅葉を求めてずっと入って行ったが,けっきょく西から入って東の塩江から出てしまった.ずっと狭い渓谷が続いていて,見せ場というか,景色を眺望できるような開けた場所がなかったのがやや弱みじゃないか.
12/3/05 欠席者向け補講
1310-1540 (chapter 7, Sections 1-4); 1540-1605 (非協力ゲーム理論の話など). 前回欠席の 1 名参加.
けっこういろんな疑問を出してくれたため,予想以上に時間がかかった.
- 「公的機関が効率性を目指すのはよくないのですよね」という初歩的な疑問あり.
いや,公的機関でもなんでも,効率性は目指すべきだ.非効率ということは改善の余地があるのにそれを残しておくこと.
それがいいわけはない.問題になりうるのは,効率性を達成することが公平性などと矛盾する場合.
しかし,その議論は誇張されているので注意.ちなみにこの章でやっていることは,「効率な配分が多すぎるから
公平性によってそれを絞ろう」ということ.このように,公平性と効率性は矛盾しないことが多い.
- 政府系金融機関の整理統合のニュースでも聞く,
中小企業にたいする公的支援 (補助金や有利な条件での融資) が支持できないという議論は,
効率性の面だけからの議論ではないことに注意.多くの経済学者は,一部の企業を政府が支援すのは
公平性の面からも支持できないと考えている.替わりに,貧しい家計を支援する福祉政策で対応すればいいと
いうわけだ.(たとえば井堀利宏『ゼミナール公共経済学入門』の再分配政策の章.)
- GSM で何を学びたいのか出席者に聞いたところ,仕事での交渉力をつけたいと.
仕事の内容は「かっこよく言えばコンサルティング」とのことで,僕から見れば
交渉 (相互の利益を調整) というよりは,説得 (相手の利益になることを理解させる) に近い気がするのだが.
残念ながら交渉に特化した科目は GSM では提供していないと思う.説得力を高めるには,
相手のニーズを理解し自分が提供できるものへの知識を深めつつ,経験を積んでいくしかないんじゃないか.
もちろん,論理的能力を高めてそれをうまく使うことは必要だろうけど.
ゲーム理論を学ぶことは経験から学べることをうまく整理する効果はあると思う.
もちろん,ゲーム理論にもとづいた交渉力の本を読むための背景知識にもなる.
- ゲーム理論の応用例を質問されたので,マーケットデザインやメカニズムデザインで開発されているルールをいくつかあげた
(医学生インターン,オークション,コンピュータネットワーク設計).でも,ルールの設計といった直接的な応用例よりも,
ゲーム理論から得られる洞察を仕事や日常生活 (喧嘩から恋愛まで) に生かしていくという応用の仕方の方が普通だろう.
そういう視点からの本を Class 9 のコメントに挙げておく.
- 岩月教授の話が出ていたが,あれは準強制猥褻かどうかの問題であり,セクハラとは言わない.
彼独自の「療法」をテレビや本で知って高松にやってきた女性が,自分の期待する以上の療法を受けて
しまったと訴えたものと理解している.何らかの意思疎通の失敗があったのだろう.
しかし,大学人にとっては猥褻かどうかよりも,学問の自由への影響の方が関心事であろう.
非科学的な学説・療法だからといって大学から排除することになれば,他にも排除した方がいいと
思われる学説なんかいくらでも出てきそうだ.この件については,
以前書いたことがある (12/9/04 Class 21).
12/5/05 Class 9
1845-1855 (復習); 1855-2010 (Chapter 7); 2010-2035 (Chapter 5 演習問題); 2035-45 (チョコレート).
受講生は 1825, 1840, 1840, 1840, 1855, 1925, 1925 に入室.研究室に移動して初めて欠席なし.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 7, Sections 5-8.
今回は数理的な内容はほとんどない.休憩を入れずに終わらせた.
講義内容について
- 前回の部分でどこが難しかったのか尋ねる.しかし,どこが分かりにくかったのかよく分からない,
あるいははっきりと言葉にできないという反応.とりあえず授業の最初の10分で期待効用理論の話が
後述の『図解雑学ゲーム理論』(ナツメ社)にも載っていることを指摘.
- 本日の部分は公理的交渉理論が配分の正義の分析枠組みとしては不十分であることを強調する
内容になっている.どうしてこんなフレームワークになったのかを考えてみるのは興味深い.
経済理論で個人を記述するとき「選好」(効用や利得) と「権利」(初期配分,戦略集合など) の
組合せで表現することが多い.交渉の基準点 (交渉が決裂した場合の効用の組合せ) は,
交渉が決裂した場合に各人がどれだけのオプションを持っているかで決まる.
しかし基準点だけでは各人の権利の内容を十分に記述できていないということだろうう.
- Section 7, 8 の実験や実証結果については,「いまさら言われなくても予想できる」ような
内容だったかもしれない.それでも金額を等分するのとチケット枚数を等分するのとではちがう
結果が出るような実験のデザインの仕方は,それなりに面白いのではないか.ものごとの
原因を突き詰める作業の一端が伺える.
その他
- ゲーム理論の本について,演習問題が載っているのを探したがなかなか見つからなかったと
いう F さん.同時に,「一応は勉強したが,どうやって実生活で使えばいいのかがちょっと分からない」とも.
ゲーム理論から得られる洞察を仕事や日常生活 (喧嘩から恋愛まで) に生かしていくという趣旨の本は
いくつかある.ゲーム理論を学んだからといって,いつも意図した通りの結果を出せるとは限らないのは当たり前.
それでも戦略的に生きるひとは,イヤになるくらい戦略的に生きているようだ.
(ストレートなことを好む自分が戦略的に稚拙でそう感じるのかも.
失敗をあまり恐れないから,そもそも利得関数が特殊なのかも.)
喧嘩の例で言えば,殴るにしても特定の場所を警戒させておいて,ちがうところを殴るとか.
(じゃんけんでこちらはグーを出すのが好きだと思わせておいて,チョキを出すとか.)
関心がないふりをして安心感を与えておいて,本番ではそこを攻めるとか (なんの話じゃ).
不合理な行動を少々混ぜることによって,相手にこちらの行動を読ませないようにするとか.
一方で北朝鮮のような瀬戸際戦略もあれば,一方には (ボクが苦手な) ひじょうに親切な戦略的配慮というのもある.
つまらないことでも「つまらない」と言ってしまわないとか.
そういう戦略的な力をつけるための一般書としては,ジェームズ ミラー の
『仕事に使えるゲーム理論』や日経ビジネス人文庫の『ゲーム理論で勝つ経営』がある.
梶井厚志の『戦略的思考の技術: ゲーム理論を実践する』(中公新書) も入手しやすいし,よく書けていると思う.
僕がゲーム理論を GSM で教えるとしたら,そのような一般書の要素を取り入れたテキスト
『図解雑学ゲーム理論』(ナツメ社)あたりを使おうと思っている.
- 残りは演習問題の解説ということで F さんが出て行ったあとの話.
GPS (Global Positioning System) とか電子商取引にかかわる,あるビジネスのアイディアを出してみた.
GPS を開発しているところと共同でやらないと無理っぽい話だが,「これで特許取って」と冗談で言うと,
(畑違いの) TLO 職員が「行けるかも」と.まあ,特許はどうでもいいが,あってもいいサービスだろうし,
いくつか克服すべき問題点もあるので,プロジェクト研究で取り組めない題材でもないだろう.
- 「先生は絶対チョコレート好きだと思って持ってきました」とフランス製のチョコレートを持参した
♀学生 (といっても勤め人).まあ,たしかにチョコレートの包装のリボンを何本か本棚に吊るしてあるからね.
しかし,なぜか僕ではなくて受講生たちが先に口にしている.
今日は最後に部屋に入って来たため僕の至近距離に座った,髪にリボンを付けたその♀学生 (といっても勤め人) に,
授業後「じゃあ,チョコレートでも食べながら [聞き落とした部分の] 補講でもする?」と僕.
すると「@@さんはこれから先生とふたりで補習授業ですか?」と
しつこく繰り返す T さん.おいおい,そんなに繰り返してなにかイケナイことでもするような言い方をすると,
補講を受ける正当な (というわけではないが) 権利を奪ってしまってセクハラになるのでまずいじゃないか.
イケナイことは一切考えていないわけだし,
ここはセクハラを避けるために (そしてチョコレートを確保するためにも) 何としてでも彼女を引き止めるのが正解だろう.
でも,じつは T さんが言う前から彼女は「きょうは会社に戻って仕事の続きをやらなければ」と言っていたので引き止めず.
かわりにチョコレート数個は確保した.それにしてもこの寒い中,また会社とはたいへんそうだねえ.
12/12/05 Class 10
1840-2020, 2030-2110 (Chapter 8).
受講生は 1825, 1905, 1905 に入室.欠席4名の新記録.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 8, Sections 1-5.
7 章の演習問題の得点 は,高い順に 3, 3点だった. (配点は問題 1 が1点,問題2から5は2点,計9点)
問題 3, 5のできが特に悪かった.
講義内容について
- Section 1 に出てくる self-enforcing の訳は「独立執行力のある」としていた.しかし「自己実効性のある」「自律執行的な」「自己拘束的な」とするほうが正しいだろう.ここでの意味はノートのその部分に書いている通り.一般には,特に第三者の手助けがなくても,ひとりでに結果が実現するといった意味を持つ.「ナッシュ均衡は self-enforcing である」のように使う.瀧澤弘和による,関連するコラム「組織のフォーマルな側面とインフォーマルな側面」にもひとつの用法が載っている.ゲーム理論が部分的に発展してできた「契約理論」と言われる分野がそのコラムの背後にある.このコラムのキーワードを列挙しておく: フォーマルな契約,関係的契約,立証可能,観察可能.
- Section 2 の procedure を記述した部分 (A natural general way to achieve both equity and efficiency would be 以下) の説明は不満が残るものだった.だいぶノートに手を加えたので,この章が終わったあとにアップロードするバージョンを参照.特に以下に注意.vi は土地に対する要求者 i の評価で, mi は要求者 i がその土地と引き換えに他の要求者に支払ってもよい額.それらは一致しない.「真の評価」と「報告された評価」という区別ではなかった (その区別は均衡の議論で出てくる).また,全員のシェアが同じときにはモノを入手できたひとを含む全員の利得が同じ vi si になる.
- 農地にたいする要求者 B の評価が 300,000 ドルというのはあやしい.その数では,土地を入手するために生命を失うことを意味するだろうから.よって,もとのオークションのやり方では公平でないという議論は弱くなる.(欠席者向け補講のコメントを参照.)
- たとえば大学構内の教職員用駐車場なんかは (Section 2 の補償金方式でなくて) 普通のオークション式にやった方がいい.いや,オークションにするまでもないが,お金を導入して解決したほうがいい問題だろう.大学周辺の月極駐車場の 1.1 倍くらいの料金になれば周辺に回るひとが多いだろうし,そもそもクルマ以外の方法で通うのがそれほど苦痛でないひとは,0.6倍くらいでもあきらめてしまう可能性は十分ある.ところが理由ははっきりしないが,お金を導入することには反対がある.大学が不動産で稼いではいけないという規則があるわけでもなかろうに.貧富の差が著しいということもないし.なにがいけないのか考えて欲しい.(たとえば入試の合否に寄付金を反映させるといった話なら反対があるのも理解はできるが.) 現状では自宅からの距離や健康状態などの理由を報告させているが,特に健康状態を大学に報告させるやり方はお金を利用する以上の問題があると思う.ひとに知られたくない病気というのもあるからね.
- Section 3 は必要ないかもしれない.しかも,ここの ex ante と ex post の区別は普通ではない.
通常は,事前も事後も最後まで考える (さいころの目といったいくつかの情報が入手できていない状況で
判断するのが事前で,その情報が入った状況で判断するのが事後) ことに変わりはない.ところが,ここでは
最後まで考えないのが事前で,最後まで考えるのが事後
(ルールの与える配分まで考えるのが事前,その後の [効率な配分に移る] 取引までふくめて考えるのが事後)
といった区別をしているように見える.著者の意図がはっきり分からない.
12/17/05 欠席者向け補講
1710-1900, 1905-1940. 学生の入室は 1700, 1700, 1725.
- "The challenge is to design procedures that induce the claimants to reveal enough information about their preferences so that an equitable and efficient solution can be implemented." 「ひとびとが自発的に行動したときの結果が最適になるようにルールを設計する」(←意外と簡単に文になった; 直訳も試みると日本語の練習になるだろう) というこの考え方は,メカニズムデザインの基本姿勢を一文で述べたものだ.O さんがこの英語はすごく複雑だと言った.ボクもそう思うところがあったので,「この英文を作る問題を試験に出そうか」と言ったのだ.
- Section 1 のゲーム形式の説明でキノコ雲が出て来たのは"Freudian slip"(フロイド的失言) というやつかも.最近,ある部族 (医師予備軍) の奇妙な死体の葬り方をとやかく批判する集団的サディズム・集団的狂気に大学が屈したある事件を知って頭に来ているし.しかし,ゲーム理論は核戦争の戦略を分析するのにかなり使われて来たのは歴史的事実だ.じつはそんなにヘンな例ではないということを受講者は気づいていただろうか?
- Section 2 の procedure を記述した部分は改訂したノートでやった.ちょっとした数式を添えることで,本番の授業よりも明晰さが増したと思う.
- 「農地にたいする要求者 B の評価が 300,000 ドルというのはあやしい」と言ったら,G さん Sw さんから
「借りることはできるはずだから,一時的に評価額が所持金を超えることはおかしくない」といった趣旨の反論.(証券市場の話を持ち出していたけど,ポイントはこうだよね?) その反論自体は正しいのだが,このテキストの状況では貸し手がいないので当てはまらないと思う.お金を借りることが選択肢に入っている集合上の選好を,それが選択肢に入っていない状況の議論に使うのは問題であろうというのが,私が「あやしい」と言った意味である.(しかし後進国の経済問題や生命の価値付けなどの問題では,貧困がなかったと仮定したときのありえない状況の選好を議論に使うことが説得力を持つとくことはあることはあるかもしれない.)
- ひとつの問題は,「農地にたいする要求者 B の評価が 300,000 ドル」という表現自体にある.じつは,農地に対する評価は現在所有するお金で変わるはずである.それをひとつの数字で表すところに無理がある.以下選択肢を (x, y) で表す.ただし x は土地をもらえば 1,もらわなければ 0.y は保有するお金を千ドル単位で表す.はじめの状態を (0, 0) とする.
「農地にたいする要求者 B の評価が 300,000 ドル」という意味は,たとえば
- (0, 300) と (1, 0) が無差別ということとも,
- (0, 0) と (1, -300) が無差別ということとも,
- (0, 25) と (1, -275) が無差別ということとも
とれる.B の状況から判断して,最初の (0, 300) と (1, 0) とが無差別というのはもっともらしい.つまり,土地をもらうことと300,000ドルをもらうことが無差別ということである (じつは Young が明言している仮定はこれである).しかし,2番目の (0, 0) と (1, -300) が無差別ということはもっともらしくない.なぜなら,それらが無差別のとき,たとえば 299,000ドルを借りて土地をもらう状態 (1, -299) の方が土地もカネもない状態 (0, 0) よりも好ましいことになるので,借りるはずである.しかしテキストの状況から判断すると B は借りずに (0, 0) を選ぶことになる.これを「借りたければ借りられるのに借りない」と理解すると (「顕示選好理論」といって行動から選好を逆算する理論に従えば),(0, 0) が (1, -299) よりも好ましいことになり,「農地にたいする要求者 B の評価が 300,000 ドル」とは言えないのは明らかである.一方,「借りたくても借りられない」と理解すると ("予算集合"に (1, -300) 近傍が入らないということであり),同じ議論は使えないが,「農地にたいする要求者 B の評価が 300,000 ドル」という表現がきわめて仮想的なものになることは分かるだろう.(いかなる"予算集合"にも (1, -300) 近傍が入らないとき,その点は商品空間 [選択肢集合] に含まれていないと考えるべきだろう.選好はほんらい商品空間の要素についてのみ定義されるのだが,ここでは商品空間に含まれないものについても選好を考えるという無理をしていることになる.) 逆に言えば,その表現がそういうかなり仮想的な無理なものだと理解した上でなら Young の議論を受け入れても問題ないかもしれない.ノートの改訂版に反映.
- Crawford's Divide and Choose はデフォルトとして transparently equitable solution を設定した上で配分を提案するやり方.Divide and Choose で divider の戦略の説明をしていたとき,「せこい話が多いなあ.ビジネススクールにはふさわしいかな」とか言うと受講者は笑っていた.記憶が薄れたのでかなり単純化して言うが,数年前,当時の学長が全学部の教員の新規採用を凍結した上で,「新しい組織を作れば新規採用を許す」としたことがあった.新しい組織を作ってもそんなに既存組織が充実するわけではないけれど作らないと学部の教員は減る一方なので,仕方なくいくつかの学部は新たな組織を作ったといういきさつがあった.まさにギリギリを提示された chooser である.それもあって GSM もできたと記憶している (もちろん gsm 推進派は「経済学部の発展のために」という [だれもまともには信じないがかろうじて反対はしない] 名目で経済学部メンバーを説得した).かなりせこい提案だと思うが,学長の企ては成功したといえるだろう.新しい組織はたしかに目に見える形でできるから,学長の「手柄」にはなりやすいのかもしれない.(ボクがよく読む theorist のブログに「社会選択理論家はビクビクしながら生きて行かなければならない運命か?」とあった.客観的分析としてなかなか受け止めてもらえないためこういう話を書きにくいのも,社会科学者という仕事のむずかしさのひとつかもしれない.)
- Role-neutrality を満たさない比喩,つまり playing field is not level の例として,ボクが挙げた素晴らしい例はアイスホッケー競技場だ.片方のゴールが凹んだ状態を想像してもらいたい.
- 3人中2人はミクロ経済学をまったく知らなくて,無差別曲線も聞いたことがないという.きょうは「競争均衡配分」が出て来たので,商品空間,予算線,無差別曲線,最適消費,需要曲線 (言及のみ),エッジワースボックス,競争均衡,パレート効率,厚生経済学の第一命題---以上を10分以内で説明した.
12/19/05 Class 11
1905-2055 (chapter 8), 2055-2120 (chapter 7 演習問題). 学生の入場は 1845, 1900, 1900, 1910, 1935. 欠席は2名.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 8, Sections 6-9.
かなり急いだ.Section 7, 8 は演習問題で扱っていないこともあり,軽く扱った.
講義内容について
- Section 6 の最初のルールは stage 3 のテキストの記述が誤っている.
- Section 6, Figure 17 の bargaining set の境界線 (効用フロンティア) を求める方法は,演習問題にヒントを挙げている.高校レベルの最大化問題を解けばよい.ホントは授業後に説明したかったのだが (その問題ができないと,残りのいくつかの問題もできないので),希望者がいない感じだったので,やめた.じつは8章の演習問題は試験 (take-home exam) 扱いにしようかどうか迷っている.「単位を取りやすく」という希望に沿うようにと考えているが,そのためいは試験扱いにしたほうがいいのか悪いのか,よく分からない.なお,学期前は「開講時間は変則的であり,18:20 からの2時間程度の講義に続き,必要に応じて演習 (試験対策など) のための補講 (オプショナル; 自習の一部肩代わり) を長くて 1時間程度」と言っていた.しかし授業開始が遅れるためもあって演習問題にはほとんど時間をかけていないのが実情である.だが,8, 9 章はどうしても時間がかかると思う.
- Section 8 の 交互オファーゲームについては,梶井・松井『ミクロ経済学: 戦略的アプローチ』などがもっと詳しい.
- Section 9 の bidding to be divider の手続きはやや "bids"の意味が分かりにくいものの,面白いルールである.
(全部受け取ったときの効用のどれだけの割合を得られるかを互いに予想し合っていると言える.) 「オークション」と言いつつ,お金を使わなくてできるのもおもしろい.
このルールは second price auction に似ているとテキストにはある.このオークション方式はゲーム理論の授業でやらなかったようなので,ついでに説明した.千円札をオークションにかけたら何円を入札するか (封に入れてというところの説明が不十分だったけど) 聞いたら,「千円を越えても仕方ないのでは」と大方が気づく一方,「100万円」と答える T さんのようなひとが現れてくれたので助かった.あとは,梶井・松井の 104ページの記述 (学生に実験したら T さんのようなのが数人出て来るという話) を朗読するだけで盛り上がったのであった.特に脚注あたりは O さんなんか喜んでいた.G さんがその本をめくりながらミクロ経済学の本とは思えないと言っていたが,その本は大学院のミクロ経済学で初めて出て来てきていたような内容を学部レベルに書き直したまっとうなものである.
- 二人のときには egalitarian equivalent allocation にならないほうがむずかしいと思っていたふうの G さんは正しい.ただし,ここでは単に egalitarian であるだけでなく,各人のバンドルと無差別になる参照バンドルが全部の財の一定割合 (たとえば 5/8) になっているという条件があることに注意.なお,参照点となるバンドルを全員に割り当てるのは実現不能であることに気づいた Sw さんも正しい.その参照点は仮想的なものである.
その他
- きょうは最初,女子学生と二人きりになったのであった.女子学生とのひとときについては,偶然にもtheorist がボクと同じとは言わないが似たような経験をしている.そういえば,指導していた (とてもかわいい) 大学院生と結婚した同僚もいたな.(←読者の関心の焦点がいっぺんに移動してしまう効果を持つ,うまいコメント.)
- Young の本の例を四国ローカライズした版と,絵本版を GSM のプロジェクト研究でやるのはどうかと言ったのは,もちろん「ボクを中心にしたプロジェクト研究を仮にやるとすれば」というあまり現実味のない前提での話.言いたかったのは,子供でも分かることをやってるんじゃないかということである.「読者層は?」という G さんに答えて,「高学歴の若いお母さんたち」とマーケットを限定したけど,だれかが言ったようにまずは韓国語で成功させてから逆輸入するのもいいかもしれない.「絵本というほどやさしくはないけど」と例示しようとしたとき念頭にあったのは,梶井・松井の本に加えて,久保・松井『組合せ最適化 [短編集]』である.いつか見せようか.そういえば,松井さんは『市場(スーク)の中の女の子』という童話だか絵本だかを書いたことがあるんだよな.
12/22/05 欠席者向け補講
1900-2050 (chapter 8); 2050-2120 (chapter 7 演習問題). 学生の入場は 1850, 1900.
どうも Sg さんの表情が冴えない.疲れているのか.ただ,セカンドプライスオークションの実験については,感想を述べてくれた.
Bidding to be divider は「分割者 (オファーを出す側) が必ずしも有利でないところがおもしろい」と F さん.
12/23/05 Class 12 第 1 グループ
1405-1420 (chapter 8 演習問題); 1420-1600 (船木); 1600-1645 (chapter 8 演習問題). 学生の入場は 1405, 1420.
船木由喜彦. エコノミックゲームセオリー: 協力ゲームの応用. SGCライブラリ11. サイエンス社, 2001.
第7章「男女のマッチングと家の割り当て: 貨幣のないケースのコア」7.1 から 7.4 節に重点.
- Section 7.3 の81ページ最終段落は省略.
- 82ページの安定マッチングでは,すべての男性に第二希望の女性を,二人の女性に第一希望の男性を割り当てていることから,女性側に有利ではないかと F さんも K さんも思ったようである.そういうわけではないことはすぐあとで分かる.また,「そのマッチングで男性 A, C の二人が女性を取り替えれば,お互い自分の第一希望の女性になるので改善するのではないか.どうしてそうしないのか」と F さん.これは安定なマッチングや「ブロックする」の定義にかかわるおもしろい指摘だ.もし男性だけが選好を持つならば,たしかに男性 A, C が女性を取り替えればだれの状態も悪くならず,その二人の状態は改善する.しかし,女性は単なる選択肢でなくて選好を持つ個人である.その取り替えは彼女たちの状態を悪くするのだ.よって,そういう取り替えに彼女たちが応じることは考えにくい.ブロックの定義で,自分に割り当てられた女性を男性同士が取り替えることを考えていないのはそういうわけである.
- GS アルゴリズムで得られるマッチングが安定であることの証明をとりあえずやった.ボクら研究者はこういう感じの議論が延々と続くようなペーパーを書くのが仕事である.だいぶ神経をすり減らす (特にひとの証明を読む場合) ことが想像できたかな.ところで,propose という動詞は,「結婚を申し込む」というばあい,"He proposed to her" のように to を入れて使う.
- あるマッチングが「男性最適」とは,あくまでも安定マッチング間で比較したときに男性にとってそのマッチングが最適であることを意味する点に注意.また,そのマッチング自体が安定であることも要求している.言い換えれば,安定なマッチングについて定義された概念である.男性プロポーズのGS アルゴリズムが男性最適であることの証明は省略した.
- この章で抜けている戦略的操作の分析について.男性側プロポーズの GS アルゴリズムは男性が偽の選好を報告しても得をしない.しかし,女性が偽の選好を報告して得をするばあいはある.偽の報告をしてもだれも得をしないようなべつのアルゴリズムは存在しない.
- 受講者はこの章の中身を割と気に入った様子.F さんは,船木の本を買いたいとも言った.
今回扱ったマッチング理論という分野は, ハーバード・ビジネススクールの Roth などが提唱しているマーケット・デザインという分野の核でもある.日本医師臨床研修マッチングプログラム が Gale-Shapleyアルゴリズムを利用していることもシラバスに書いた通りである.このマッチングプログラムのサイトには,アルゴリズムの図解もある.
12/26/05 Class 12 第 2 グループ
1855-1910 (chapter 8 演習問題); 1910-2040 (船木); 2040-2120 (雑談). 学生の入室は 1845, 1900.
自然な流れとして,授業後は合コンにかんする雑談などにつながる.授業内容自体はそんなに難しい話ではないためか,どういうふうな選好を言えばいいかという,戦略的操作の問題に出席者 Sg と T は関心がありそう.男性プロポーズの場合は,男性はそのまま選好を言えばいいのだが,選好を知られたくない場合はどうするかといった問題はあるだろう.つまり,「各人が選好を他人に知られることなく,きちんとアルゴリズムが実行されていることを確認する方法はあるか」といった問題は出て来るだろう.アルゴリズムの実行主体が信頼できない場合は重要な問題だ.それは暗号の技術でどうにかなるのかな.よく分からない.
Sg さんがミクロ経済学の授業でやっている比較優位の理論について聞いて来る.その話題をミクロの授業で扱うのはいいことだと思う.T さんは「貿易をした方が全体にとっていいという,よくできた理論と思う.それでいいのか疑問もあるが」と.簡単に言えば「どんな産業分野で劣った国でも,そのダメ度が低い分野に特化して生産してその一部を輸出し,かわりにダメ度が高い分野の製品を輸入するようにしたほうが,交易なしのばあいよりお互いにマシな状況になる」ということ.全体にとってだけでなく,個々の国にとっても貿易はいいことだ.ただ,景気の変動によって悪影響を受ける産業や良い影響を受ける産業があるので,比較優位を決める場合はそのリスクまで見るべきだし,そもそも生産可能性曲線は直線ではない.「特化する」と言うより「重点をシフト」すると言った方が厳密な最適解に近いかもしれない.
12/28/05 Class 12 第 3 グループ
1900-1935 (chapter 8 演習問題); 1935-2110 (船木); 2110-2140 (雑談).
開始設定時間は 1840 だったが,学生入場は 1900, 1900, 1935. 大方が理解しにくい部分がすぐ出て来るため,「時間厳守で願いたい」とわざわざメールしたのに.
今回は日本語だが,このグループに限らず「自分で読めば分かる」というわけではなかったようだ.数式のところなど理解できなかった模様.まあ,僕にとっては教えるべきところが残っていたということになる.
- 第1グループでも出た疑問だが,二重サブスクリプトにする意味がなかなか学生は理解できないようだ.できればそういう多重サブスクリプトは避けた方がいいし,ここではちがう文字を使うことで避けることができる.しかし,二重サブスクリプトが使われている以上,そうしている意味は分からなければならない.
- GS アルゴリズムの実行は,行列でやる「答案方式」とグラフでやる「ホワイトボード説明方式」の両方でやった.第1,2グループも同様.
- 戦略的操作の問題に触れたら,Sw さんがそれをやってみようとして,残念ながら失敗した (戦略的操作の結果は改善はしなかったが改悪もしなかった; もともと最悪だったから).なかなか戦略的操作は簡単ではないということの例になった.それにしても,ぱっと見ただけでそこまで考えるというのはすばらしい.
- G さんはもっとすばらしかった.Section 7.4 のマッチング μと νについて,第1希望がかなったひと,第2希望がかなったひと,第3希望がかなったひとの人数をさっさと計算した上で,νのほうが全体にとっていいと結論づけた.「要するにボルダスコアを計算したの?」と尋ねると,そうだと G は答えて μが13点でνが15点ということになるという (じっさいは両方とも13点のようだが).どうやら,ボルダスコアを最大にするようなマッチングがいいという考えのようだ.ひとつのやり方としては,安定なマッチングのなかで最大のボルダスコアを持つものを計算して (計算はとても大変そうだが可能),それを結果とするルールはたしかに考えられる.だれもやっていないなら,その性質を調べればそこそこの論文になるかもしれない.ここでは,どうしてそういうことを普通は考えないのかを説明する.安定なマッチングはパレート最適であるから,「最適さ」はすでに担保されている.そのなかでどれを選ぶかという問題は,「ボルダスコア」のようにかなり恣意的なものになるわけだ.不満な第一希望と十分満足できる第三希望というのがあるわけだから,個人間の比較はあてにならないのである.そして,いうまでもなく「安定」の概念は個人間比較に基づいていない.個人間比較なしを徹底する立場をとれば,ボルダスコアを考えることは中途半端になってしまう.
- G さんは選好順序じゃなくて,基数的な効用を使ってはどうかという提案もした.そのやり方として,今野『数理決定法入門』に「究極のクラス編成」というのが挙られている.第一志望が100点,第二志望と第三志望は自由配点,第4志望が0点ということにするとパフォーマンスがいいことが経験上分かっているらしい.
このまえスナックで「麗珠を世界デビューさせる」と店の子たちに言っていた O さんに,最近届いた Taylor のテキスト (かなり高度な入門書) を見せて「いちおうデビューはしてるけどね」と言った.G さんだったか Sw さんだったか忘れたけど「本に載るとうれしいですか?」と尋ねてきた.まあ,引用のされ方にもよる (今回引用されたのは論文の主要貢献ではなかった) けど,かなり気分はいい.なにか悪者にされて週刊誌に載ることにくらべれば,注目度は落ちるけど,ベターじゃないかと思う.
意味不明: むかし図書館で働いていた女性のイメージと,最近メールした,いま某学部で事務をやっている女性と,いま某学部で事務をやっているニコニコ女性と,GSM にいる40年前の令嬢を合成して作った存在がひとり.この授業の受講者と,GSMにいる令嬢と,むかしの彼女のイメジを合成して作った存在がひとり.「社長なんかのご令嬢とつき合えるかも」といった動機で GSM に移って来た教員もいるわけだが (冗談,冗談),そういうお嬢様をイメージしている.
年末はどうしますかと Sw さん.「普段と同じ」と答えたけど,少し違うな.論文のレフェリー (まとまった時間がとれないとなかなかできない) といった,溜まった仕事を片付けることになる.京都に帰京するという受講者も.そちら方面に行かなくてはならなくなるかもしれないボクは,クルマで連れてってやろうかと親切なことを考えたんだが,言わなかった.ちなみに,自分のばあい新年に帰郷する習慣はない.新年の帰郷は高校卒業以来2度だけだ.行っても仕事が進むわけじゃないし,だいいち飛行機代が一番高い時期ではないか.(いまは飛行機ではなく自動車を長時間運転して行ける距離になったが.)
ところで香川の代表的なお雑煮は餡入りもちと白みそだっけ.よく知らないが餡の入った餅を雑煮に使うのは珍しい (香川だけ?) というので,それを食べてみたいと思うのだが,やってる店がないのだ.受講生たちによると,実際,ないらしい.それでも,「二蝶」という料亭だったら出るのではという.雑煮だけ食べに料亭行くほどのカネはない.(魚を食べるためにカネを払うよりはましか.だいたい,魚って食べるものじゃないだろ! 魚を食う人種は野蛮だ! この世界から魚がなくなってくれたらどんなにいいか! いや,見るために存在するのは許すが.) それにしてもみんないいとこで食べてるんだなあ.自分なんか所持金が少なくて (そして仕事を中断するのが面倒で) 一日一食以内におさえたうえで,その一食はいいときでほかほか弁当か吉野家といった日が続くことが多いのに.たまにうちの側にできた横浜家系ラーメンなんかに行って,あの濃いスープを味わった日には,すごいぜいたくをした気分になるのである.
などと究極的にケチなことを考えていたら,「豪邸に住むことになった」という景気のいい話が妹から飛び込む.一年の四分の一くらいをハワイで過ごし,何の仕事をしているかよく分からん怪しい妹だ.裁判所の公売物件なんかをときどき「調査」しているのは知っているが.問題の豪邸は「犬小屋だけで30坪」「ヘリポート付き」とか言っていたが,じっさいは犬小屋でなく2階建ての離れがあって,その1階部分全部が冷暖房完備の犬舎になっているということだ.ヘリポートの方は前の所有者が少し離れた場所に持っていたというのはホントだが,そちらは入手しなかったようだ.豪邸は,公売にかけられたものを不動産などをやってる「我が会長」(愛人?) が落札したとか言ってるので,どうせ掃除婦でもやっておけと管理を任されたのだろうけど.
1/16/05 Class 13
1905-2125. 学生の入室は 1850, 1850, 1900, 1915. 欠席3名.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 9, Sections 1-5.
8 章の演習問題の得点 は,高い順に 9, 7 点だった. (配点は13 点.) 問題 4, 6 のできが悪かった.
船木 7 章の演習問題の得点は,高い順に 4 点だった.(配点は 5 点.)
講義内容について
- Section 2 の最後の Trasparent inequity のノートの説明に,"the ratio aik/si between i's allotment of good k and i's share" とある.これは aik が i's allotment of good k であり,si が i's share であり,分数がその比であるということ.
- Section 5 の competitive allocatino の定義で,需要と供給が一致する (市場がクリアーする) 条件が明示されていない.「配分」という言葉の定義にその条件は含まれると考えて欲しい.なお,ノートで効用関数が u になっているが,個人名を表すサブスクリプトを添えて ui とすべきだった.
- 競争均衡を図式的に表すエッジワースボックスについては,すでに2回は説明したと思う.その説明を始めると最低でも10分くらいかかる.知らなかった T さんらは自分で調べるか,個別に質問して欲しい.多くの学生が消費者理論で慣れ親しんでる予算制約とちがうのは,予算線が初期保有を必ず通ることだ.
- Section 5 の競争均衡の最初の例で Section 3 の例を採り上げている.この例の需要曲線と供給曲線はエッジワースボックスから導ける.不連続なものになる.しかし,その導出は少々面倒なので,直接エッジワースボックスで考えた方がいいだろう.
- 競争均衡に関連して,T さんが「まちがった評価額」ということを盛んに言っていたが,ここでいう「評価額」は個人の評価額である.それは市場の評価額とは通常一致しない.まちがいということはない.普通は同じ商品に対する評価は個々人で異なる.異なるからこそ,そこに取引が成立する.(単に買って転売することだけを考えているひとでも,転売先のめどがあったりなかったりするので,評価額は変わるかもしれない.) たとえば Reiju の絵画が市場では100万円の価格であったとしても,ひとによっては 300万円を払っても手に入れたいと思うかもしれないし,タダでも欲しくないかもしれない.
- そして,市場価格 (競争均衡価格) というのは市場がクリアーする (需給の過不足がない) ように決まる.その際,各人は市場価格をそのまま受けいれる (プライステイカーになる; 価格に影響力を持たない) というのがポイントだ.(個々人は価格に影響力を持たない一方で,価格は市場全体の集計として決まる.個々のレベルでできないことが全体ではできるという関係になっている.) 現実には人数が少ない市場などではひとびとが価格に影響力を与えようとするためプライステーカーにはならないかもしれない.そのため,理論上の競争均衡が現実とは一致しないことはある.競争均衡は,ひとつの理想状態を表していると考えて欲しい.理論は現実を近似はしているが,現実そのものではないことに注意.
その他
- この日はどうもボクが元気がなかった.風邪でのどが痛いせいだろうか.いつも元気な O さんや会いたかった (とメールの返事に書いたが,反応がなかったのでなんか恥ずかしいじゃないか) 女子学生が欠席したからだろうか.授業のあった月曜だけでなく,火曜,水曜もすごく倦怠感があった.食あたりでもしたんだろうか.そういえば,この日は大学に来る途中,高松高校の前ですれちがったクルマから石ころかなにかが落ちて来て,クルマのフロントグラスが欠けてしまった.それだけで保険免責金額の5万円がふっとんでしまったことになる.もっと大きなものが落ちて来てたら命が危なかった.
- T さんがテキストの9章のコピーを複数部持っていた.これからほかの学生に渡すという.ということは,授業前にはまったくテキストに目を通していない学生が少なくともその部数人はいるということだ.それでもフォローできる授業をやっているのだから,私は表彰されてもいいだろう.
- Sg さんから「ノートがダウンロードできなかった」と苦情.その場で印刷して渡した.ダウンロードできるアドレスは1ヶ月だけ有効なので,「期限切れだろう」と答えた.ところが,調べてみると最後にアドレスを教えたのは12月25日で,それはまだ有効のようだ.それ以前のアドレスを使ったのではないか.なお,サーバーかネットの問題で,一度の試行ではつながらないことがある.数度やればだいたい成功する.(時間帯によってつながらないこともあるかもしれない.) それ以前の問題として,授業直前 (当日?) にノートをダウンロードしようとするのは遅すぎる.あらかじめノートを入手して予習をしておくべきだ.そのため,この授業が始まる学期よりだいぶ以前から入手できるアドレスを教えている.ノートの改訂も授業前には原則としてやらないようにしている.それに,毎回ダウンロードするのも仕事の段取りが悪くないか.印刷はまとめてやらないにしても,ダウンロードはまとめてやったほうがよかったのでは.知らない間にファイルを消されるなら仕方ないが.
- 今回は補講は止めておく.今週は入試がらみで研究室に遅くまでいることが制限されるし,来年度以降の授業が始まる前にやっておきたい実験もあるので.その実験とは,eLearning 用の QuickTime ムービー (mp4 に変換.ただし音声のみ; 一部は mov ファイルも) を自宅から配信することだ.とりあえず GSM 自習室の Windows XPが入っている PC にはQuickTime Player をインストールしてもらった.その作業をする過程で,Windows Media Player, RealPlayer, QuickTime のファイルは相互の互換性がほとんどないことを知った.
1/23/05 Class 14
1825-1840 (T さんにエッジワースボックスを解説), 1840-1950, 2005-2105. 学生の入室は 1820, 1825, 1830, 1830, 1850. 欠席2名.個人的インセンティブと社会的な圧力とを結合したある約束 (苦肉の策) をしたら,一部受講生はそのインセンティブに反応して早く来た.残念ながら20分ちがいで約束は成立しなかったが,その約束があっても有利になりそうにないひとがわざと遅れて来るということはなかった.彼らに感謝しよう.
Text (Young 1994, Equity: In theory and practice) Chapter 9, Sections 6-10.
9 章の演習問題の得点 は,高い順に 8, 3 点だった. (配点は 2+1+2+2+1+2=10 点.) 問題 3, 4 のできが悪かった.前の章と同一パタンの最大化問題 (線形計画法) が多いことに気づくだろう.パタンを押さえておけば応用が利くということ.
講義内容について
- Section 6 の競争均衡が単調性を破る例はおもしろいのではないか.去年の講義ページにも書いたけど.
- Section 9 の学生に寮を配分する方式では,競争均衡価格を計算する必要がある.Hylland and Zeckhauser は Scarf のアルゴリズムを想定しているようである.
- 学生に寮や履修できる科目を配分する方式は,いくつか提案されて現実に利用されている.マッチングによるもの,疑似市場によるもの,リニアプログラミングによるものなどだ.
その他
- 研究室になんで右翼タオルが二枚もあるのかと学生たち.じつはもっとたくさんもっている.大学教授がかかわりがあるラディカルグループは左翼ばかりではないということだ.ちなみに,タオルに名前があった西山氏は研究所をやって紀要も出していた,まっとうな右翼だ.個人的には,右翼も左翼もあまり表現の自由を大切にしないので好きでない.
- 今回の補講代わりのファイルは mov 形式とし,(画質が悪いが) 図もムービーに埋め込んでみた.この作業は適当な埋め込み場所をみつけるのに時間がかかるので,将来やるべきではないかもしれない.
- さて,テキストは終わった.この授業は少しは役に立っただろうか.望ましいルールを作るのは簡単ではないが,ルールを作るにあたってどういう問題が出てきそうかというのはだいたい列挙できるようになったのではないか.現存するルールの問題点を改善するようなルールを作るのはそれほど難しいことではないだろう.問題は,その新しいルールがまたちがう問題点を持つかもしれないことで,それについては専門家に頼んだ方がいいばあいもある.
1/30/05 Class 15
1835-1935, 1950-2110. 学生の入場は 1815, 1820, 1830, 1850, 1925. 欠席2名.
演習問題の解説.Chapter 8, 9 他.試験問題について.
- GS アルゴリズムでの戦略的操作を試験に出すかもしれない.ある女性 1 が真の選好を報告すると,そこそこの男性 B にマッチされるとする.その女性がもっといい男性 A にマッチされるにはどういう偽の選好を報告すればいいかといった問題.たとえばその女性が初期の段階でそこそこの男性 B と,それ未満の男性 C にプロポーズされたとき,あえて悪い方 C をキープする.そうすることで,そこそこ男性 B がもっといい男性 A とある女性 2 をめぐって競合するようにしむける.じつはその女性 2 は A よりも B が好みであることを 1 が知っての操作である.2 に蹴られた A は次の好みである 1 にプロポーズしてくる……という案配だ.それを聞いていた女子学生,「すごく複雑すぎて私にはできません」とかなんとか.でも,似たようなことをやってる女の子は少なくない気がするけどね.
- 来週は期末試験.「Equitarian allocation がどういうものか分かっても,その名前を覚えられない」と F さん.Contested Garment ルールなんかも,名前が覚えられないと.名前を思い出すのはむずかしくても,名前を言われて内容を思い出すのはそれほどでもないのではないか.しかし似たような概念があれば混乱することはあるだろう.そういう理由で点数に差がつくのはあまり好きではないので,自分が担当する科目の試験ではできるだけ思い出すヒントを与えてきた.しかしモノには限度というのがある.記憶だけで差がつく科目も多いことだし,勉強するときに覚える工夫は少しはしたほうがいい.まあ理解する努力さえしておけば,覚える努力はほとんど要らないはずだが.ホントなら「配分ルール」や「整合性」や「不偏性」や「効率性」の定義はこの科目を勉強したら覚えておくべきものだろう (ただし今回の試験ではほとんど問われない).定義を覚えようとすることで理解も深まるし,概念を抽象的あるいは数理的に構成する方法も身につく.じっさいの試験では,開始15分くらい前に,出題された概念のなかで覚えにくそうなものをアナウンスする.詰め込みはそのときでいいだろう.
- G さん,Sw さんから音声ファイルを聞いた報告あり.G は自宅で予習なしで QuickTime で聞いたようで,ひっかかた部分で1.2倍くらいの速度,その他の部分は1.5〜2倍くらいで聞いたそうだ.Sw は自習室で少しと職場で RealPlayer で聞いたようで,その場合スピード調節はできないはずだ.(RealPlayer は mov ファイルは扱えないと思っていたが,最新版では扱えるものもあるようだ.) 音がきれいだったと言っていたが,ファイルサイズを小さくするため,かなり音質は下げて配信している.ちゃんと理解できたか聞くと,分かった気分にはなるが面と向かって授業を受けているときには及ばないと二人とも言っていた.まあ,動作も効果も想定内だったようだ.
2/6/05 期末試験
1855-1910 (ヒント), 1910 試験開始.講義室.1850までに5人入室.2110ころ3人提出,残りは2140,2200に提出.
2200-2235 (雑談).
2130にひとり入室したがこの日は受験せず.
時間は90分を想定,早いひとは40分くらいと予想していたが,意外と時間をかけていた.
- 試験前のヒントでは,演習問題のどこから出題するのかを書いた紙を渡して,15分くらいかけて準備してもらった.準備中の書き込みも試験中の参照も可とした.試験途中にヒントをいくつか出した.そんなに難しくないはずなんだが.
- 試験中,Sw さんが盛んに腕を回しているのを見て,声を出して笑いそうになった.肩が凝っているのか.
- 試験も終わりに近づいたころ,O さんがやってきた.2130 は遅すぎる.自信があるならこの日受けてもいいが,そうでないなら明日受けるかこの授業を諦めろと告げた.O は「もう諦めた方がいいかも.でも,先生教えるのうまいです.来年も受けます」と言っていた.「教え方がいい」というのは,成績がよかったひとが言わないと説得力無いのでは.まあ,いずれにせよ開講されれば受けていいけど.おそらく来年は4単位になるだろうし.
- 試験後,最後に答案を提出した女子学生 (ただし有職) と30分以上も雑談.外国の話とか.この科目については,試験のできがよくなかったから落としてくださいと言っていた.まあ,頼まれなくても落ちるのは落とすし,通るのは通すだけだ.また来年受けたいとも.「女子学生 (ただし有職) が二度も来るとまたセクハラのチャンスが増えて面倒だな」などと言ってはいけないんだっけ.いやボクはそれほどリスク回避的じゃないので,気にしていない.お気軽にどうぞ.
- で,そのときはできれば土曜日開講がいいと.平日は午後5時以降になってもその日締め切りの仕事が舞い込んできたりするかららしい.まずは大学の授業にコミットメントしないと始まらないと思う.「勤務時間終わり」の立て札でも出して席を立てばいいだけだから,とても簡単では? それに土曜日にやったら,代わりに平日に移った他の授業に遅刻することになるだけではとボク.すると,他の授業は受けなくてもリポートさえ出しておけばいいのが多いから大丈夫だと言う.そういう科目は授業時間を削ったほうがいいんではないか.あと,土曜日はプロジェクト研究をやるグループが多いのでは.
- 別れ際「麗珠会はまたあるんですか?」と女子学生 (ただし有職).飲み会はいいから「会いたければいつでも会いに来な」などとは言わずに,「知らない」と答える.まあ,年配の教授に毎週会うくらいだったら,たまにはボクのところにも来た方がいいと思うぞ.
- この日,この授業のためにボクが準備した講義ノートのリクエストが初めて届いた.刑務所から出てきた,あの Marek Kaminski だ! (要求問題の代表的な解をタンクの水で表現したひと.) そのときの体験を記録した本によると,ゲーム理論を勉強しておくと刑務所に入っても役に立つということだ.GSM 学生のみなさんもゲーム理論を学んで刑務所へ行こう!
2/7/05 期末試験 (前回欠席者向け)
2010-2220 受験.1950 学生入室.残りひとりは欠席.試験形式はほぼ同じく,開始前にヒントを渡した.
2月6日の試験問題と両日の試験結果は「期末試験と総合成績」に載せた.
3/18/06 麗珠会 Ver. 2
麗珠会 Ver. 2 と銘打った飲み会が前日急遽決まった.ボクとしては受講しなかったひともふくめ, (比較的) 若き乙女たちのご来場を期待したわけである.だが集まったのは呼びかけ人 O さんと Sg さんの受講生二人と教員の男性三人だけ.他の教員に頼まれたケース教材の締め切りに追われていた学生が (把握しているだけでも) 二人いたことも参加率の低さに現れた.まあ,「卒業旅行」も進行中のこの時期だから三人も集まれば十分か.
にぎやかな飲み屋のつ もりで行った Sea Dragon の雰囲気が少し上品なレストランに変わっていたの で,他のお客様の迷惑になるような下品な発言などは慎んだ.オリーブとカシューナッツのおつまみはいいかも.欠席したまじめな学生から数日後「セクハラの様子をブログにアップしておいてください!!」とバカなメール.真に受けてびっくりした非受講生はいなかったかな.
三原麗珠