香川大学経済学部 2003年度
経済数学 A (Mathematics for Economics A)
三原麗珠 (香川大学経済学部)
2単位 第1学期 月 II (1030-1200) E11教室
線形代数を学ぶ.線形代数は,経済学・統計学・情報科学をふくむ多くの分野の基礎となっている.たとえば価格理論 (ミクロ経済学) のほとんど全編で登場する「財空間」は,この授業で学ぶ「線形空間」のひとつの例である.また,経済学のいろんな場面で出てくる「比較静学」では行列 (その本質はこの授業で学ぶ「線形写像」) を用いることが多い.行列抜きでは考えにくい,やや特殊なトピックとしては,「投入産出分析」や「線形計画法」がある (ただし香川大学経済学部においては特殊とはいえないトピックなので注意).
数学を専門としない学生を対象とするこの授業では,とにかく線形代数を使えるようになることを目標にする.詳細な基礎理論に深入りするのを避けて,鍵となる概念の直観的理解と計算方法の習得を重視したい.そのためメイン・テキストとしては,大学レベルとしてのぎりぎり最小限をおさえた初歩的な石村 (2000)を採用する.
テキストにそってすすめる.テキストにある例題,練習問題,総合練習,そして定理の証明を「基本」と「発展」と「範囲外」の3タイプに分類する.「基本」は小テストと期末試験の範囲に,「発展」は期末試験のみの範囲にふくまれ,「範囲外」は試験範囲にふくまれない.期末試験の70点のうち最低50点分を「基本」タイプの問題とし,のこりを「発展」タイプの問題とする.3回の小テストのうち点数の高い方から2回分を各自の小テスト点(計30点分)として最終カウントする. (小テストと期末試験で「基本」タイプの問題だけを完璧に解ければ「優」[予定基準点80点]を確保できることになる.一方,小テストが10点未満のばあい,期末試験で「基本」タイプの問題を完璧に解けるだけでは「可」[予定基準点60点]が保証されないことになる.「基本」タイプの問題しか出ない小テストでいい点を取る方が,効率的であることに注意.) 小テストの日程と範囲は1週間前までに予告する.詳細はWeb 上の講義ページ(このページ)にも書く予定.
以下の講義要目のカッコ内はテキスト本文頁数と予定講義回数:
テキスト自体を講義ノートとしてもちいる.テキストが板書風に頻繁に改行するスタイルで書かれ,要点を囲みとするなど「見て分かる」ようになっているので,講義ノートをべつに作成するまでもないと判断したためだ.学生はテキスト (石村 2000) を読み,講義を参考にして練習問題を自習していく.例題をまねながら練習問題を解いていきたい学生は,書き込み式の石村 (1994) を補助教材として使うとよいだろう.
「一科目分の努力で三科目分の単位」(誇張あり)を取りたければ,ほぼ同じ内容をあつかう基礎数学Bと共通科目の線形代数を受講するのも手だ.経済学部の科目には,線形代数の知識を直接もちいないものも多い,しかしそのような科目でも,線形代数を学ぶことによって得られるていどの抽象的・数理的思考力はとうぜんのものとして前提とするものが少なくないので注意.経済学科目の体系を理解するために,三原の Web ページにある「香川大学で経済学を学ぶために: モデルプログラム」を熟読すること.
期末試験70点,小テスト30点.小テストの方が簡単なので単純比較はできない.項目2を参照.
テキストにある例題,練習問題,総合練習,そして定理の証明を以下のように「基本」と「発展」と「範囲外」の3タイプに分類する.「基本」は小テストと期末試験の範囲に,「発展」は期末試験のみの範囲にふくまれ,「範囲外」は試験範囲にふくまれない.期末試験の70点のうち最低50点分を「基本」タイプの問題とし,のこりを「発展」タイプの問題とする.3回の小テストのうち点数の高い方から2回分を各自の小テスト点(計30点分)として最終カウントする.
小テスト1は5/12/03にやります.範囲はテキストの1章2節までの,「基本」に分類された課題の類題.点数は15点.
小テスト2は6/2/03にやります.範囲はテキストの1章3節と2章1節の「基本」に分類された課題の類題と三原ノートの21ページにある演習の類題.点数は15点.
小テスト3は6/23/03にやります.範囲はテキストの2章2節の「基本」に分類された課題の類題.点数は15点.
どの範囲からどれだけ出題されるといったある程度具体的な期末試験情報は, 試験2日前までにここで発表することになっていた.試験2日前までに「発展」と「集合と写像」の情報が出た. その後試験前日の正午ころに追加があり,以下が試験前の最終情報になった.なお,期末試験は70点満点.
「発展」からは最大で20点分出題される.以下は出る.三原ノートの p. 17 から6点? PとRのちがいは分かっているか.授業でやった総合練習2-2からも出る.答案の書き方をマスターせよ.例題58の類題7点? この例題に関しては,標準形の区別 (円か楕円か双曲線か; 切片や漸近線は?) と直行変換Uの意味 (どれだけ回転させるか?) を押さえておけばいい.
集合と写像(論理をふくむ)からは18点出題. 三原ノート p. 21 基本で「y > x」となっていた関係を, たとえば「x + y > 10」とか「x + y < 10」とか「x - y > 10」とか「x - y < 10」で置き換えたらどうなるか.
テキスト第1章からは19点,第2章からは33点出題.小テストを復習するといいだろう. 対角化の問題は,最初に固有値をまちがうと痛いので注意.
以下は期末試験の講評.全体的にいえば,高校レベルの計算中心の思考で対応できるような問題はまずまずできている一方, 大学レベルの抽象的思考でなければ対応できない問題はできが悪い. 数理後進性から脱却し大学レベルの頭脳に進化するところまでいきつかなかった学生が多いということだ. 少しは勉強したということは分かるが,数理後進性の壁を越えられるほど熱心にはやらなかったということだろう.
登録者193人 (登録したつもりの1人とたぶんまちがって受験した1人と研究生1人も数える) 中,期末試験の受験者は131人. 評定は小テスト点 (3回の小テストのうち点数の高い方から2回分30点満点) と期末 (70点満点) の合計である総合点にもとづき, 秀優良可の区切り点は 85, 75, 65, 55点とした. (ただし秀が導入されていないグループに属する学生が受け取る成績表では,秀は優に置き換わっている.) 合格者は82人.対受験者合格率は63パーセント,対登録者合格率は42パーセント.
内容がやさしかったためか,大人数向けの三原の授業としては合格率が高い方だった. 一方で,高得点者の層が薄かったのも今回の特徴かもしれない.最高点は98点だった. 90点以上が10人くらいはいて欲しかった.
期末 | 総合 | |
---|---|---|
平均 | 35.6 | 57.1 |
標準偏差 | 16.2 | 19.6 |
最高点 | 68 | 98 |
中央値 | 38 | 61 |
最低点 | 0 | 0 |
評定 | 人数 |
S | 7 |
A | 16 |
B | 27 |
C | 32 |
X | 49 |
非受験 | 62 |
対受験者合格率は63パーセント; 対登録者合格率は42パーセント:
残りの3枚のグラフは,つくるのに労力がかかった割にはたいして意味がなかったかもしれない. これらのグラフから傾向を読み取るのはむずかしい.ただ,経済学科の2年生の受講が極端に少ない気がする.
試験の自由欄に意外なことに「教えかたが分かりやすかった」という感想がいくつかありました. (「悪かった」というのよりは多かった.) 正直言えば,この授業は自分の教える中ではいちばん手抜きの部類に入ります. 傾向としては,少人数の科目ほど準備に時間がかかっています. 少人数科目の多くはレベルが高いから,ノートもかなり綿密に作るわけです. この授業のように,テキストをプロジェクタに映し出し,それをかなりのていど板書代わりに使って……という教え方は 学生には辛いかもしれませんね.レイアウトが工夫されている石村のテキストだからそうでもないかもしれませんが. いずれにせよ,あのスピードで教えるにはああいうスタイルでも取らざるを得なかったということです. (いちどノートでも作ってしまえば話はちがってくるが.) あれでも「分かりやすかった」と思ってくれた学生は,たぶん僕のリズムに乗れた人です. 重要なところとそうでないところのちがいだけは際立たせようと,メリハリの利いた授業は最低限心掛けていますので, それに乗れたのでしょう. 僕の教える他の授業の多くでは,講義ノートを用意したりしてもっとサービスに努めています. 最低限のサービスに留まらないので,ご安心ください.
それから,「線形代数をやり直したい方は,後期の基礎数学 B をとってください」といいたいところですが, 同じ時間帯に統計学がぶつかっています.よって,まだ統計学を取っていない学生は, 2年次配当の計量経済学や3年次配当の経済統計の前提でもある統計学をとったほうがいいでしょう. 線形代数は数理的思考の訓練としてはとても大切だが,具体的な知識としては (簡単な行列をのぞけぼ) それほど多くの科目で要求されないからです.
期末試験の点数や総合点を知りたければ,メールでどうぞ.約束はできないけど,余裕があれば対処します. 授業の感想とか,幽霊の情報とか, 「スイカを食べさせてあげるので,私のお家に花火見にきませんか」とか書いてくれれば, 花火見にいけるかどうかは分からないけど,ご要望に誠意をもって対処する確率が増えます. ただし点数などの個人情報は原則として香川大学学生用メールアドレスにしか送れないので,ご了解のほどを.
答案の返却を希望する学生は,三原オフィス (研究室) に来てください. 成績に疑問がある方も,学務に行くよりはオフィスに来たほうがいい. オフィスに来なければ,肝心の答案を見られないので. (ただ,採点はていねいに2回以上やったので,ミスはまずないと思う.) 後期のはじめにでも,訪問用の時間をつくるつもりです. 夏休みちゅうなら,8月26日から29日のあいだはオフィスにいる可能性が高いし, ほかにも大学院生向けの個人指導などでたまに来ています. 答案の返却を受ける学生には受領のサインをしてもらいます.なくしたと後で言われるとおもしろくないからね. あと,三原オフィスに来たら,授業の感想なんかを聞かせてもらうかもしれません.
Handout: 香川大学で経済学を学ぶために: モデルプログラム. Announcement: テキスト(石村園子. やさしく学べる線形代数. 共立出版)と 参考書の一冊(石村園子. すぐわかる線形代数. 東京図書)は生協で入手できる. Lecture: 受講者133人. -自己紹介 -シラバス -モデルプログラム -テキスト(石村): 1章 1.1-1.3節ほぼ終わり.P. 15 まで.
Handout: -永谷裕昭. 経済数学. 有斐閣, 1998, pp. 1-3, pp. 23-37 (第1章1節, 経済学と数学; 第2章1節, 集合, 関数, 直積; 第2章2節, 合成関数と逆関数). -三原麗珠. 権利論への数理的アプローチ: レクチャーノート, 1999, pp. 11-21. Announcement: -今日配ったハンドアウトは,テキスト第2章に入るときに少し触れる. それまでに自分で読んでおくこと. -課題の「基本」「発展」の分類は Web サイトを参照. Lecture: 受講者170人? テキスト(石村): 1章 1.3 のおわり (P. 16); 2章 2.1-2.3. Pages 16-31.
Handout: 前回の不足分. Announcement: -永谷の第1章1節「経済学と数学」を読むこと.残りも早めに読んでおくこと. -次回は小テスト1をやる. -質問はこの授業のあとしばらくこの教室で受けつける. -オフィスアワー(月曜1440-1610)にオフィス(研究室)でも受けつける.数人いっしょに来てくれると助かる. Lecture: 140名出席. -テキスト(石村): 1章 2.4-2.5. Pages 32-43. オフィスアワーに3人来た.
Announcement: -村上(TA)のオフィスアワーは毎週水曜1230-1400 大学院生研究室で. -第1章§3の課題の分類. -三原ノートからの具体的な出題例を Web に載せた. 小テスト 1: 156人? -返却不要なら解答用紙の左上に「返却不要」と書くこと. 書かなければできるだけ返却する.しかし必ず返却することや他人に点数を見られないことは保証できない. -問題2で「表」と「行基本変形」の記号. Lecture: テキスト(石村): 1章3.1-3.2 Pages 45-65.
Handout: 三原ノートの演習正解. Announcement -第1章§3の課題の分類に追加: 定理1.15の証明を発展に. -小テスト2は6/2を予定.範囲には三原ノートの p. 21をふくむので注意. Lecture: -テキスト(石村): 1章3.3-3.4 Pages 66-73. -三原 p. 21 演習.学生はぽかんとした表情.
Handout: 三原ノート p. 21 演習へのコメント. Lecture: -三原ノート p. 21 演習へのコメント.Quantifiers の順序問題をツリーを使って解説. -テキスト(石村): 2章1.1-1.2. -三原ノート Two Exercises in page 17. ここに来て学生が騒ぎだしたので,強く警告. とつぜん抽象的な話になったので戸惑ったのか?
小テスト2: -「返却希望」を選べば,他人に答案を見られる恐れがあることに異議を唱えられないものとする. 「返却不要」を選べば当然ながら採点にかんして異議を唱える権利を失う. -部分点が限定されている.符号(+-)のまちがいに特に注意. -テストの後,3分の1くらいの学生が退席したのでは. -試験中に見て回った感じでは,問題1, 3 はよくできていた.量化記号(∀∃)をあつかった 問題2のできはそうとう悪い.はじめから考えるのをあきらめている感じがする. この問題を解けるようになるには少し思考を必要とする. (慣れればほとんど日常言語と変わらないていどの簡単なものだけど.) 一方,問題1, 3はマニュアルにしたがうことができれば,ほとんど機械的に答が出せる. 学生は考えることを極度に嫌っているのではないか. 線形代数の知識なんて卒業するまでには忘れることだろう. そのような知識を覚え込むことが大学で学問をやる目的ではないはずだ. 自分で思考する力を鍛えなければ,大学で学ぶ意味がないと思う. Lecture: テキスト(石村): 2章 2.1-2.3. Page 99まで. この科目を受講登録人数は190名だとこのころ判明.
Announcement: 2章§2の課題の分類.特に「発展」の問題に注意. 「発展」から出る問題は,このセクションのような抽象的な問題が多くなりそうな予感. Lecture: 90名出席. テキスト(石村): 2章2.3 (page 100)-2.5. 1200-1220質問に答えた.
Announcement: -来週小テスト3を予定. -TAのオフィスアワーを変更: 水曜日1330-1530大学院生研究室. -授業後小テスト1を返却. Lecture: テキスト(石村): 2章2.6-3.1. 1200-1230質問に答えた.
小テスト3: -例題や練習問題とは質問の仕方を少し違えてみた. 期末試験では元問題に少しバリエーションを与えるので,そのときのひとつにの参考になるだろう. -どの問題をもとにしたかは,このページの上のほう「試験問題」のセクション参照. -元問題よりも簡単になるように工夫をしたのが,かえって学生にとってはむずかしくなったのかもしれない. 問題が簡単になったはずなのにかえってむずかしくなったと感じた学生は, 理解を重視した正しい勉強の仕方をしていない可能性が高いので注意. Lecture: テキスト(石村): 2章3.2-3.3 (page 135まで). 1200-1230質問に答えた.
Handout: 追加課題とその正解例(3ページ).追加課題は「基本」に分類. 追加課題は論理式の演習問題がもっと欲しいという学生の要望に応えるためだけではなく, 論理命題の問題への新しいアプローチをしめすために出した.課題や解答であげたグラフとか 行列とか,木とかは理解するまでの手段.最終的にはそれらを描いたりしなくても 論理式がそのまま読めるようになるべきである. Announcement: -小テスト2返却. -小テスト3へコメント. Lecture: テキスト(石村): 2章3.3 (page 136から)-3.4. 1200-1220質問に答えた.1435-1450オフィスに訪ねる学生あり.
Announcement: -小テスト3返却. 小テスト3の問題の出所と講評をweb上の講義ページに掲載し,学務の掲示板にも正解例とともに掲示した. 全体的に見て論理が甘く,記号の使い方もいい加減. 期末試験は今回ほどあまい採点をしないと思うので,ちゃんと講評を読んでおくこと. -授業評価. Lecture: テキスト(石村): 2章3.5. 小テスト3の解説
Announcement: -どの範囲からどれだけ出題されるといったある程度具体的な期末試験情報は, 試験2日前までに web上の講義ページで発表する予定. -現段階で分かっていること: 集合と写像(論理をふくむ)からは15点から25点の範囲で出題する. 三原ノート,追加課題,そして嘉田の「どんな病気にも効く薬がある」を参照. Lecture: -テキスト(石村): 総合練習2-2 #2 and #3. -ハンドアウトの追加課題 -三原 pages 21, 17 の演習 1445-1545: よく質問する学生一人がオフィスを訪ねてハンドアウトの質問. 同僚Hさんのオフィスではお茶を出してもらったと.水が危ないので,うちではお茶は出しません. その途中,小テスト返してくださいと,もひとり女子学生がオフィスを訪れる. こちらは名前と学籍番号を自分から言って来て「試験よろしくお願いします」と. そういうやり方をしてもたぶん効果ないでしょう. [8/8/03 追記: 合格にあと1点足りませんでした.いやー,運悪かったねー.]