資源配分の公平 / 配分ルールと厚生
シラバス (2 科目分)
香川大学大学院地域マネジメント研究科2006年度
資源配分の公平 (Equity in Resource Allocation) / 配分ルールと厚生 (Allocation Rules and Welfare)
応用科目; 2単位 / 2単位; 第2学期前半 / 後半; 月曜日 6-7 校時 (1820-2130);
三原研究室
三原麗珠
効率的な資源配分方法としてもっとも優れたものは価格 (市場) メカニズムだろう.しかし私的機関や公的機関が,価格メカニズム以外のやり方で「だれがなにを受け取るか」を決める場面は意外と多い.ひとつだけある腎臓をどの患者に人工移植するか? コンピュータ・ネットワーク上でサーバに送られて来るジョブをどういう順番で処理すべきか? 都市,住居,コンピュータのそれぞれをつないで (道路,上下水道,ケーブルなどの) ネットワークをつくるとき,どのように費用を分担すべきか? 企業間の合弁事業で利益をどう分け合うか? 公共施設をどう立地すべきか? 財産の中身について異なる好みを持つ相続人にどう財産を分けるか? 会社内でデスク (あるいはオフィス) やアシスタントそして勤務セクションを社員にどう割り当てるか? こういった日常起こる具体的な問題は,「公平」の確保という理由により価格メカニズム以外の決め方で解決されることが多い.
では「公平」とは何か? この二科目ではさまざまな具体的なケースをとりあげ,それぞれのケースで資源配分の「公平」の意味するところを体系的分析によってあきらかにする.とくに「公平」を構成する基準をひとつひとつ明確に定式化し,複数の基準が互いに矛盾することなくどこまで同時に成立しうるかをあきらかにする.その分析の背後にあるのは,抽象数学をもちいた現代的アプローチである《公理的方法》とよばれる強力な数理的手法であり,社会選択や協力ゲーム理論といった分野で広く用いられている.それぞれの公理は,たとえば「ある配分 x 以外に実現可能な配分 y があって全員が x より y の方が望ましいと思うならば, x は採用すべきではない」といった,配分ルールにかんする要請を表現している.
科目「資源配分の公平」では主として単一財の配分問題をあつかう.個人がその財をより多く好むか,より少なく好むか,のどちらかの場合を考えるので,とりたてて選好を導入しない.科目「配分ルールと厚生」では主として複数財の配分問題をあつかうため,選好あるいは効用の概念が重要になる.
この二科目は,組織内のさまざまなものごとの「決め方」を見直したり設計したりしたい民間企業人はもちろん,つねに「公平」を意識しつつ仕事をすすめていかなければならない公共部門関係者,そして論理的思考力を鍛えることによって配分競争における説得力や交渉力を高めたいあらゆるひとびとにすすめる.その一方で,公理的方法への純粋な学問的関心を持って受講する学生の期待にも一定レベルで応えられる内容になっている.さらにおまけとして,英語の書籍から必要な情報を拾い出す作業をとおして,英文への抵抗感を和らげる機会も提供している.
前提科目・関連科目
この二科目は独立しているので,いずれか一方だけを取ることもできる. (2005年度以前の入学者もいずれの科目とも取れる.そのばあい,どちらも修了要件上の「応用科目群」にカウントされる.ただし,すでに「資源配分の公理的分析」で単位を得た学生は「資源配分の公平」の単位は取得できない.) この二科目にたいする厳密な意味での前提科目はない.ただし「ゲーム理論」「経済分析」「微分積分と線形代数」「オペレーションズリサーチ」などを通じて数理的思考力を鍛えておくことをすすめる.それらの科目の知識を再確認できる場面もいくつかある.たとえば Young 5 章では協力ゲーム理論で学ぶコアやシャプレイ値が,Young 8 章では非協力ゲーム理論で学ぶ展開形ゲームが,Young 9 章ではミクロ経済学で学ぶ競争均衡が登場する.講義内容を理解するためだけなら,数学の知識はほとんど必要ではない.「厚生」の演習問題のいちぶには,変数が2個のばあいの最大化問題を解けることを要求するものがある.2次元座標上にグラフを描ける程度の高校数学の知識は必要である (小暮「線形計画法の定式化と図式解法」が理解できればじゅうぶん).(テキストの Appendix [The Mathematical Theory of Equity] まで理解するなど,より高度な理解を目指すばあいは,集合と写像の理解が不可欠となる.Appendix の一部で,凸解析やトポロジーなど,大学院レベルのミクロ経済学で標準的な数学概念が用いられている.それらの詳細な議論には深入りしない予定.)
関連科目としては「地域科学の数理」「費用便益分析」「都市開発論」ほか,経済学専攻と経済学部の提供する経済理論やゲーム理論の科目がある.
講義の進め方・成績評価
一部「虫食い」(空白)にした講義ノート (pdf) をネットで配付し,Young のテキストに沿って講義形式ですすめる.受講者全員の積極的な質問やコメントを歓迎する.講師からも受講者に質問する.本文の例,主要概念,定理の意味の直感的理解を重視し,細かな証明や Appendix にある数理的一般理論の大部分は省略する.受講者は授業内容やテキストを参考にしながら与えられた演習問題を自習していく.毎回の講義の後には,講義内容を凝縮した QuickTime 音声ファイル (mov) とメモ (pdf) のネット配信を考えている.
単位認定は,中間試験・最終試験・宿題 (追加演習問題など)・授業への貢献度などにもとづく.最終試験のウエイトが高い.最終試験のほとんどの問題は演習問題あるいは中間試験の類題を予定.
必読文献・参考文献
1. 必読文献
- H. Peyton Young. Equity: In Theory and Practice. Princeton University Press, Princeton, 1994. 『公平: 理論と実際』のタイトルどおりの内容.次のノートで参照している部分 (図や表や用語の定義がほとんど) を拾い読みすればいい.
- Young 1994 notes.
三原による講義ノート (2章の見本;
この章がいちばん抽象度が高い; 他の章では集合の記号もほとんど出てこない).
アクセス方法は授業開始までに学生に連絡する.
(学外のアクセス希望者は三原に連絡を.教育関係者には tex ファイルも提供可.)
- Young 1994 注釈集. (教育関係者には tex ファイルも提供可.)
- Young 1994 視聴覚教材. 欠席者・自習者向けのメモと音声ファイル.授業に出席していればべつに「必読」ではない.音声ファイル利用法を参照のこと.アクセスは受講者に限定.
- Mihara, H. R. Young 1994 演習問題. 正解例は別途配布.
- 茨木俊秀. 情報学のための離散数学. 昭晃堂, 2004.
(1.1節 集合; 1.2節 写像 (関数); 1.3 節 関係; 1.5 節 命題と述語). 配布する.
- 小暮仁. 線形計画法 (Web 教材).
「線形計画法の定式化と図式解法」と「Excel ソルバーによる線形計画法の解法」を自習のこと.
- 船木由喜彦. エコノミックゲームセオリー: 協力ゲームの応用. SGCライブラリ11. サイエンス社, 2001.
第7章「男女のマッチングと家の割り当て: 貨幣のないケースのコア」特に 7.1 から 7.4 節.配布する.
2. 参考文献
2.0. 数学の補足:
- 永谷裕昭. 経済数学. 有斐閣, 1998, pp. 1-3, pp. 23-37 (第1章1節, 経済学と数学; 第2章1節, 集合, 関数, 直積; 第2章2節, 合成関数と逆関数). 茨木の一部と重なる.配付する.
- 三原麗珠. 権利論への数理的アプローチ: レクチャーノート, 1999, pp. 11-23. 永谷にもとづく.
- 柏木吉基. Excel で学ぶ意思決定論. オーム社, 2006. 第6章「最適化問題 (線形計画法: Linear Programming)」
特に 6-2, 6-3 節.小暮の Web 教材だけでは理解できなかったばあいに参照すればよい.6-2 節で整数制約条件が説明から抜け落ちているミスがあるので注意.配布する.オーム社のサイトから例題のファイルが入手できる.
2.1. 実際的な資源配分問題の公理的分析で,この二科目の関心にひじょうに近いもの:
2.1.1. 他大学の類似科目:
2.1.2. カバーする範囲の広いもの:
- 武藤滋夫. ゲーム理論入門. 日本経済新聞社, 2001. V, VI 章. あらかじめ目を通しておくといい.
- 船木由喜彦. エコノミックゲームセオリー: 協力ゲームの応用. SGCライブラリ11. サイエンス社, 2001. 副読本としてすすめる.
- 鈴木光男. 新ゲーム理論. 勁草書房, 1994. 第II部.
- 岡田章. ゲーム理論. 有斐閣, 1996. 8-11章.
- Herve Moulin. Fair Division and Collective Welfare. MIT Press, Cambridge, Massachusetts, 2003.
- Herve Moulin. Axioms of Cooperative Decision Making. Cambridge University Press, Cambridge, 1988.
- Herve Moulin. Cooperative Microeconomics: A Game-Theoretic Introduction. Princeton University Press, Princeton, 1995.
- William Thomson. The theory of fair allocation (forthcoming from Princeton UP?).
- William Thomson. Fair allocation rules. Chapter 27, Handbook of Social Choice and Welfare, volume 2, Elsevier, 2007?
2.1.3. 特に焦点を絞ったもの:
- 船木由喜彦. 「破産問題」をゲーム理論で解く. (中山幹夫, 武藤滋夫, 船木由喜彦(編). ゲーム理論で解く, 5章). 有斐閣, 2000. 入門的解説.
- 戸田学. 「恋愛・就職・結婚」をゲーム理論で解く. (中山幹夫, 武藤滋夫, 船木由喜彦(編). ゲーム理論で解く, 6章). 有斐閣, 2000. マッチングに関する入門的解説.戦略的側面からもアプローチ.
- H. P. Young. Cost Allocation. Chapter 34, Handbook of Game Theory with Economic Applications, Volume 2, Elsevier, 1994.
- Herve Moulin. Axiomatic cost and surplus sharing. Chapter 6, Handbook of Social Choice and Welfare, volume 1, Elsevier, 2002
- Alvin E. Roth and Marilda Sotomayor. Two-Sided Matching. Chapter 16, Handbook of Game Theory with Economic Applications, Volume 1, Elsevier, 1992.
2.2. 資源配分問題の分析で,この二科目とは重点がやや異なるもの:
- Steven J. Brams and Alan D. Taylor. Fair Division: From Cake-Cutting to Dispute Resolution. Cambridge University Press 1996.
- スティーブン・J・ブラムス, アラン・D・テイラー.
公平分割の法則: 誰もが満足する究極の交渉法. 宍戸栄徳監修, 宍戸律子訳. TBSブリタニカ, 2000.
- John E. Roemer. Theories of Distributive Justice. Harvard University Press, Cambridge, 1996. 公理的方法による.実際的というより哲学的関心が強い.
- William Thomson. On the axiomatic method and its recent applications to game theory and resource allocation. Social Choice and Welfare, Vol. 18, pp. 327-386, 2001.
公理的方法自体へのガイド.この分野の研究を目指す読者に,公理的方法の有効性と研究の指針を提示.
もし読むなら,この授業であつかうモデルやゲーム理論の知識を得た後にした方がいい.
2.3. 資源配分以外の公理的分析
公理的方法は資源配分問題以外にも,投票理論やゲーム理論に応用されている.三原の Web ページにある「合理選択政治理論(実証政治理論)の手引き」にあげた文献案内を参照のこと.
2.4. マーケット・デザイン
マッチング理論やメカニズム・デザインなど,公理的方法と非協力ゲーム理論的方法を応用して,コンピューター・ネットワークによる「市場」(配分ルール) を設計し分析するのが分野がマーケット・デザインである.経済理論の応用のなかでも,もっとも実際的な分野だろう.ここではマーケットデザインをあつかうコースのサイトを (経済学者によるものと,コンピュータ・サイエンティストによるものをふくめ) いくつか挙げる:
全国規模の配分ルールの例としては,日本臓器移植ネットワークの各種ポイント制や日本医師臨床研修マッチングプログラム のGale-Shapleyアルゴリズムがある.
授業計画
科目「資源配分の公平」では Young の Chapters 1, 2, 4, 5 と集合と写像を扱う.
科目「配分ルールと厚生」では Young の Chapters 7, 8, 9, 10 と船木 7 章を扱う.
これら二科目は独立しているが,強いていえば Overview は両科目にたいする導入といえる.
各トピックの該当章 (たとえば Y1 は Young の Chapter 1 を表す) や講義回数は以下の通り.
この他に Moulin (2003) などから例を追加することがある.
- Overview (Y1; 2 回): 配分問題とは何か.配分問題を解決するためにどういう基準を採用すればよいか.個人間比較を要しない無羨望 (no envy) 概念とその限界,優先原理,配分基準の整合性 (consistency),比例原理ではうまくいかない非分割財配分の例など.
- 集合,写像,関係,命題 (茨木 1.1, 1.2, 1.3, 1.5 節; 1 回): 最小限の抽象数学.
- Equity and Priority (Y2, 4 回): 移植のための臓器や条件のよいオフィスをどのような優先順位で要求者に配分するか.ある分割できない財を要求者ひとりにつきひとつだけ受け取ることができ,要求者全員に配分するには財が不足する状況.それぞれの要求者の必要性や貢献度などをどのように考慮するか.配分基準の不偏性や整合性.
- [Equity as Near as May Be (Y3, 扱わず): 比例代表制選挙で,各政党へどう議席を配分するか; 選挙区へどう定数を割り当てるか,獲得票数や有権者数に応じた比例配分が完全には成り立たない状況.どのような近似が比例配分にもっとも近いか.]
- Equity, Equality, Proportionality (Y4, 3 回): 破産した企業の資産を債権者にどう分配するか.財自体は完全に分割可能であり,それぞれの要求者の違いを共通の基準で計れる状況.単純な比例配分の原則にしたがうのがいつも公平といえるか.
- Cost Sharing (Y5, 3 回): 企業間の合弁事業で利益をどう分け合うか; いくつかの自治体が共同の配水施設をつくるときコストをどう分けるか.具体的な配分は関係者の直接交渉で決まり,関係者は自分が損をしてまで協力する必要はない状況.単純な等分や比例配分では関係者の協力がえられないときどうすればいいか.
- [Progressive Taxation (Y6, 扱わず): 企業の業績が悪くて社員の給与をカットするとき,高給を受け取る社員ほどカット率を高くすることは正当化できるか.累進課税の理論を参考にしながら考えてみる.]
- Fair Bargains (Y7, 4 回): 企業間の合弁事業でコストや利益をどう分け合うか.一般人の意見を完全に無視して決めてしまうのは問題が大きい臓器移植のようなケースとはちがって,関係者の直接交渉で決めてもさしつかえない状況.公平な交渉とはどのようなものか.
- Fair Process (Y8, 4 回; 小暮 Web 教材): 分割できる財(お金や土地)やできない財(食卓用銀製品や建物)そして均質の財(お金や食卓用銀製品)や非均質の財(土地や建物)をふくむ異なる種類の財産があって,要求者たちがそれらにたいしていろいろな分け前を主張するとき,それらをどのように分ければいいか.それぞれの要求者は一定の割合を受けとる権利を持っているが,財が分割不能であったり非均質であるため,その割合に応じた配分というものがはっきりしない状況.公平かつ効率的な配分はどのようなプロセスで達成できるか.
- Equity, Envy, and Efficiency (Y9, 4 回): 前章と同じ状況.ただし財は分割可能で均質とする.もしそれぞれの要求者の持つ権利の割合に応じた初期配分が可能である場合,だれの状態もその初期配分より悪くなることがないような,公平かつ効率的配分はどうなるか.
- Conclusion (Y10, 0 回): 「資源配分の公平」の意味するところは,具体的な状況ごとに異なる.それぞれの具体的配分問題におうじた適切な解決法を見いだすための指針として,7つの質問からなるリストを提示する.
- 男女のマッチングと家の割り当て: 貨幣のないケースのコア (船木第7章, 特に 7.1 から 7.4 節, 1 回): 男女カップルの
安定な組み合わせをみつけるアルゴリズムを提示.日本医師臨床研修マッチングプログラムの Gale-Shapleyアルゴリズム
と基本的に同じものである.
講義開始前のおしらせ
2006年3月
2005年度の対応科目の講義ページはこちら.
2004年度に学部夜間主演習でこの科目と同じ内容をたっぷり時間をかけて教えた.そのときの学生の感想がその講義ページに載っている.
2006年4月
メールにて学務関係の疑問に応え,文献入手方法を連絡した.
2006年6月
後期後半に提供する「配分ルールと厚生」の初回講義は,後期履修登録締切り後になります.しかし (前期の「四国経済事情」に見られたような) 追加履修登録を認める例外措置はないそうです.この科目を取るべきかどうか迷っている方は,後期前半「資源配分の公平」の初日クラス (二講義分) を聴講したうえで判断することをおすすめします.(「迷うようならば登録してしまえ」というのが正直なところだが.) 数学的には前半の「公平」のほうが抽象度が高く,非協力ゲーム理論やミクロ経済学の知識が役立つ度合いは後半の「厚生」のほうが高いです.数学にせよ,ゲーム理論やミクロ経済学にせよ,準備なしでもほとんど支障がないことは,シラバスに「厳密な意味での前提科目はない」とあるとおりです.
2006年9月27日
メール配信登録方法,文献入手方法,学務関係,発言の自由の確保などについて学生宛メール.以下はメール配信登録方法について:
次回以降の連絡メールは,第2回目の授業前の金曜日である10月13日までに希望者にのみ配信する予定です.配信希望者は,登録・聴講・その他の別を明記した上で10月13日までにお返事ください.メールを受け取れるアドレスなら何でも構いませんが,学籍番号とお名前は明記願います.配信希望で上記までにメールが届かなかったときはふたたびメールください.その際,「なに無視してんだよ,ボケ!」という題名の空メールを同時に4本から8本程度送ってもらえるとありがたいです.皆さんからのメール (特に初めてのもの) がスパムに分類されてしまって見失うことがありますから.
講義にたいする心構えなど,自分の考え方はこちらの意見に近い:
「ビジネススクールの授業で悩む」
課題
「Young 1994 演習問題」として配布する課題以外の情報をここに掲載する.
「公平」の課題
茨木 第1章 1.1, 1.2, 1.3, 1.5 節の本文中の例題は (特に外すもの以外) すべてマスターしておくこと.
その他,以下の演習問題を理解のこと.練習問題は解き方の分からないものや解答の書き方の分からないものがあるだろう.正解を理解すること.練習問題 3, 4a, 5, 6, 7, 8, 15. 演習問題 15 は真理値表によってしめせばよい.
1. Chapter 2 であつかったような非分割財の (優先順による) 配分ルールの具体例 (企業内で行われている例など,無名な例でよい) を挙げ,実行できるていどに記述せよ.そのルールの問題点を指摘し改善策をしめすか,そのルールで特に問題がないことを議論せよ.たとえば 2002年の冬期オリンピックのフギュアスケートで Sarah Hughes と Michelle Kwan の順位が Irina Slutskaya が滑る前後で入れ替わったルールについて議論してもいい.不偏性・整合性,その他の性質を考えるのもいいだろう.(1-4 枚程度?)
2. 他に Chapter 2 にかんする適当な問題を作り解答例を示せ.1 のように答がオープンな discussion question でもいいし,演習問題ふうのはっきりと答が定まる問題でもいい.
3. Young Chapter 4 で与えられた種類の問題にたいして比例配分以外のルールが現実に使われている例を挙げよ.現代の例でもいいし,日本の記紀や昔話に出て来る例でもいい.
4. Young Chapter 4 のルールにたいして要請すべき条件を考え,記述 (説明) せよ.アイディアが思い浮かばない人はたとえば上に挙げた Juan D. Moreno-Ternero's course on fair allocation の Chapter 7 を見ればいくつか載っている.条件はきちんと日本語で表現すること.
5. 他に Chapters 4-5 にかんする適当な問題を作り解答例を示せ.1 のように答がオープンな discussion question でもいいし,演習問題ふうのはっきりと答が定まる問題でもいい.
「厚生」の課題
Chapter 9, Section 3 の最後の段落の説明を数式と日本語でやる演習問題 (手書きでオーケー; 1月29日授業時締め切り).
Excel ソルバーを使った演習問題 (1月31日締め切り; メールで). 以下の問題の解答に現れる最大化問題をソルバーで解け.
Chapter 8 問題 2 (もし可能なら問題 3 も.このまま扱うのが不可能なら,パラメターにいくつか具体的な数値を与えて解いてみるといい).Chapter 9 (もし可能なら問題 4),問題 6.
期末試験と成績
「公平」試験2日前情報
配点など
- 当日は 18 時には入室できるようにする.直前の最終情報を 1840 ころに伝え,1900 から試験開始予定.60 分あればじゅうぶんできるはずだが,2時間は与える.
- 試験中参照用のメモを作成する時間を試験前に 20 分程度与える. メモは当日渡す試験情報用紙一枚 (A4) の 4分の3 ていどに限定.
- 演習問題を完璧に理解してくれればほぼ満点をとれる.配点は 100 点.
- 茨木1章の配点は 16点.例題 1.2 (2), 練習問題 5, 7b, 8, 15 を理解したらできる問題に限定.証明は穴埋めで.
- 2章問題 2, 3 は除く.
- 2章問題 4, 追加 1, 追加 2; 4章問題 5 を理解したらできる問題の配点は 30点.穴埋めなどを採用し,できるだけ答えやすくした.
- その他の演習問題を理解したらできる問題の配点は 54点.
- 前年度の試験問題をかなり再利用した.配点で半分に迫るていどなので,チェックは必須と考えたほうがいい.問題 2, 3, 4 がこの授業に該当.
リポート課題のあつかい
- リポートを二回 (chapter 2 関係と chapters 4-5 関係に分類) 提出した人はいまのところいない.一回提出という現状では,リポート点は「可」の65 点ていどと考えてくれればいい.リポート点が期末試験の点数より低い場合は,基本的に期末試験の成績が科目の成績になる (ただし「秀」はリポートも考慮した上で与える).逆にリポート点が期末試験点数より高い場合,リポート点に若干の重みを与えるのみ (このばあいでも期末試験の点数が重視されることに注意).
具体的なアドバイス
- シャープレイ値の計算表で総点の和は全体提携の自立費用の orderings 数倍になる.平均点 (シャープレイ配分) の和は全体提携の自立費用になる.この事実は解答のチェックに使える.
- テキストでは,辞書式順序で比較するベクトルはエントリが小さなものから並んでいた.しかし一般にはベクトルのエントリが小さなものから並んでいる必要はない.たとえば x=(1, 2) と y=(2, 1) を比較することはでき,このばあい(最初のエントリーから比較して行くという) 辞書式順序を使えば,y のほうが x よりも大きいことになる.
- 記号や用語は厳格に用いること.数学を使うのは言語の正確さを高めるためである.
- 集合 {{a}, {b}} は集合の集合である.これを集合 {a, b} や集合の列挙 {a}, {b} と混同しないこと.つまり要素に必要な括弧や全体の括弧を忘れてはならない.まったくちがう意味になるので,きちんと区別すること.
- ペア (a, b) は a, b とはちがう.
- F(x)={y} と F(x)=y はちがう.前者は F(x) の値が {y} であり,y が F(x) に属することになる.後者は y 自体が F(x) の値になっている.
- 「選択肢 A のボルダ・スコアが10点」というべきこころを「A=10」などと書くのはよくない.「Aのボルダ・スコア=10」ならオーケー.あるいはボルダスコアの表を作って A を行ラベルとして用いるのは可.
「公平」の結果
試験問題と正解例.
受験者 2 人.平均点 80 点,中央値 80 点だった.問題ごとの内訳は次の通り:
問題 |
配点 |
平均 |
中央値 |
平均 / 配点 |
得点分布 |
1 |
4 |
4 |
4 |
100% |
4, 4 |
2 |
6 |
6 |
6 |
100% |
6, 6 |
3 |
6 |
6 |
6 |
100% |
6, 6 |
4 |
14 |
14 |
14 |
100% |
14, 14 |
5 |
16 |
1.5 |
1.5 |
9% |
3, 0 |
6 |
20 |
20 |
20 |
100% |
20, 20 |
7 |
14 |
8.5 |
8.5 |
61% |
14, 3 |
8 |
16 |
16 |
16 |
100% |
16, 16 |
9 |
4 |
4 |
4 |
100% |
4, 4 |
合計 |
100 |
80 |
80 |
80% |
87, 73 |
- 最終成績は「優」1名,「良」1 名だった.
- 問題 1 (ii) で a, b あるいは x, y の文字が入るミスをふたりともしていた.試験中に注意したところふたりとも気づいた.あまりにも初歩的なミス.
- 問題 3 の ¬(p∧(¬q)) はド・モルガンの法則により ¬p∨q となる.一方 (¬q)⇒(¬p) は対偶を取れば p ⇒q になる.これは ¬p∨q のことだから,ふたつの命題式はとうぜん等価になる.
- 問題 5 は整合性の理解を問う抽象的な問題.問題文中に「もし F がペア整合的であれば」と入れたほうが正確.
答えやすくしたつもりだが,予想以上にできが悪かった.(i) は「個人1, 2, 3 がモノをそれぞれ 0, 1, 1 個だけ受け取りました.いま個人 3 が自分の受け取った 1 個を持って出て行きました.残された個人 1 と 2 は自分たちが受け取ったモノ (合計 1 個) を持ちよって再び配分することにしました.個人 1, 2 はそれぞれどれだけ受け取るでしょうか?」といった問題だ.もしルールが整合的ならば,個人 1, 2 はもとと同じくそれぞれ 0, 1 個を受け取るというのが (ひとつの) 答になる.これ以上分かりやすく説明するのはむずかしいのだが.これでも分かりにくいかな?
- 問題 7 は比較基準にもとづく公平性 (移転の正当化ができない配分) にかかわる問題.お手上げ状態だったので,試験時間中に若干コメントした.(i) のダメな例として ((2, 4), 3) を挙げた.(ii) については口頭で意味を伝えた.
- ルールを適用して配分を求める問題など,「計算問題」はよくできていた.ルールを適用できるのは理解の第一歩.この授業を受けたからにはルールの「分析」までできるようになって欲しいところだ.既存のルールにしたがって仕事を進められるようになるのが目標ではなく,ルール自体を設計したり修正したりできるようになることが目標だから.
「厚生」試験前情報
- 当日は 18 時には入室できるようにする.なるべく1830までに入室して欲しい.試験は90 分あれば十分だと思うが,2時間は与える.
- 試験中参照用のメモを作成する時間を試験前に 15 分程度与える. メモは当日渡す試験情報用紙一枚 (A4) に限定.ただし証明問題については,メモは原則禁止.(試験開始前にチェックしたとき,証明をそのまま書き写したようなメモがあったらその部分を切り取るので注意.相談のうえポイントだけメモするていどなら認めることもある.)
- いちぶ口頭試問を行う可能性がある.
- 演習問題以外に,昨年度の試験問題そして Chapter 9, Section 3 の例の証明問題も範囲とする (概念を定義できるように).証明問題については必要な記号はほぼ与えている.今回はひとりしかいない受講者のレベルを考慮して去年よりもレベルは高め.ただし証明問題 (30点分) 以外は去年と同レベル.
「厚生」の結果
試験問題と正解例
受講者一名.試しに途中で採点したが以下のようにケアレスミスがあった.
- 問題 2 のナッシュ解で (u, v) のペアではなく,(u, uv) のペアを求めてしまう.
- 問題 3 の効用関数を読み違う.
- 問題 4で戦略 sA を明示し忘れる.
その後しばらく粘ってもらい,最終点数は89点.評定は優 (A).最後の問題がやはりむずかしかったようだ.
授業記録
10/2/06 Class 1
1825-1840 (シラバス,9/27 メール), 1840-1950 (Sections 1-4), 2000-2130 (Sections 5-12), 2130-2150 (授業の進め方にかんする質問に答える).
1820 までに 5名,残りのふたりも1830 までに入室.計7名出席.3名は2030ごろ退出 (一名はインターンシップの説明があるとかの理由.)
Young Chapter 1, all sections.
- 今年の一年生は去年の一年生に比べて遅刻がだいぶ少ないと聞いていた.一回目の授業にしてそのちがいが現れた.今後もできるだけ遅刻なしでお願いしたい.また,欠席のときは連絡してもらえるとありがたい.
- こちらが質問したことに答えるのを除いては,授業中に発言する学生はなかった.講義が主軸になる授業ではあるが,発言に遠慮し過ぎる必要はない.質問とか感想とか身近な例とか出してくれていい.おバカな発言を連発するひとが今年も現れると楽しいんだが.
- 今週は扱う範囲から代表的なトピックを拾って行く感じ.公理的分析の醍醐味は次の次の週あたりから.
- 「Young 1994 注釈集」をアップロード.上記シラバスの「必読文献」からダウンロード可能.今回は Chapter 1 のみ.
- 「Young 1994 Chapter 1 メモ」と音声ファイルからなる「視聴覚教材」をアップロード.上記シラバスの「必読文献」からダウンロード可能 (べつに必読ではないけど).アクセス方法は受講生にメールで知らせる.
10/16/06 Class 2
1830-1955 (Young), 2000-2145 (茨木).
4 名出席, 1830 までに入室.Ny, F, T, Ns.
Young chapter 2, Sections 1 through 4, page 32, paragraph 2.
- まだテキストが届かない.
- Young はややゆったりしたペース.茨木はプロジェクタでテキストを提示しながら,かなり急いだ.
- 学生は相変わらず口数が少ない.クローズドな質問には答えるのだが.ただ,一時間目が終わったあと T が要するに待ち時間の点数のつけ方が問題ではと的確な指摘.
- F は法学部,それ以外は経済学部出身.いずれも数学は得意でないという.特にレベルを高くする必要はないだろう.
- Memo と音声ファイルからなる「視聴覚教材」のアップデートに関しては,こんごはここには書かない.受講生にメールで知らせる.
- Discussion Question (?) 形式の課題を出した.
10/23/06 Class 3
1830-1955 (Section 6, up to IIA), 2005-2025 (the rest of Section 6), 2025-2105 (Secton5),
2105-2130 (入試学科割当 or クラス編制問題のふたつの方法,関連科目の受講履歴などを尋ねた).
2名出席, 1825 までに T と Ny 入室.Ns と F は出張につき欠席.
Young Chapter 2, Sections 5-6.
- まだテキストが届かない.翌日朝届くとのことだった.以前と比べて出版社での値段が上がっている模様.
- 本日より三原研究室で行う.部屋が狭かったりこちらから指名が多かったりするためか,学生の発言は増えた.フォローしている状況が把握できやりやすくなった.
- 欠席が多かったので,ハードな Section 4 は来週にまわした.
- Borda socres を vote matrix から計算できると説明したら,「狐につままれた気分」というふたり.
- 二つ以上の属性を同時に考慮して決まる得点を導入した point system の拡張版をノートの改訂版に追加.
- T も Ny もボクが授業中に音声を録音して視聴覚教材を作っていたと考えていた模様.じっさいは家でひとりで作っている.これがかなり大変.以下の9種類のファイルを行ったり来たりしつつ同時進行で準備して適切なところにアップロードする必要があるから: 講義ノート,注釈集,講義 memos 画像,音声ファイル,音声ファイルの時間記録 (Excel),音声ファイル一覧 (log),講義ページ,通信 (メール),
受講者記録.さらには演習問題やその解答も加わるかもしれない.来年度以降も同様の科目を提供するのでなければ,まったく無駄な努力ということになる.
- T が研究室にある政治学の本の多さについて尋ねていた.ゲーム理論の応用分野として重要,社会選択とももちろん関係あることなどを説明.じつは現在は情報科学の本なども増えて来ているのだが,研究室にはほとんどない.
10/30/06 Class 4
1910-2035 (Young), 2045-2145 (茨木1章練習問題)
都合につき 1855 開始予定; Ns, T は1855までに入室,Ny, F は 1910.
Young Chapter 2, Section 4 (page 32, paragraph 3--).
茨木1章練習問題は 3, 4a, 5, 6, 7 まで.8, 15 は次回.
- テキストは先週火曜日に販売開始.3人が買ったが,1人持って来なかった.
- 先週より人数がふえたせいか,抽象的な理論をやったせいか,今週はやや反応が悪い.
- Remark on Impartiality (ふたつの定義の同値) の証明は今回は省略.Memos には載ってる.
- Original UNOS formula が consistent でない説明で,ノートの定義に基づくものも省略した.Memos 参照.
- 集合 A={a, b} の部分集合をすべて挙げる問題にだれも答えず多少がっくり.その後 A のベキ集合の部分集合 16 個をすべて挙げていたときに,抜けていたのを何人かが指摘してくれて救われる.
11/6/06 Class 5
1825-1840 (提出課題へのコメントなど); 1840-1900 (茨木 1章練習問題 8, 15); 1900-2020 (Sections 1-3);
2030-2140 (Sections 4-7).
Young Chapter 4, Sections 1-7.
- 今回はふたりがテキストを忘れる.研究室備えつけのを貸した.
- きょうのところは割合すんなり分かったのではないか.穴埋めもだいたい正しく答えていた.
- シャプレイ値によるタクシー代割り勘の例はゲーム理論の授業の試験で出たことを発見.この夏学生にこの授業の説明をした際,タクシーの例を使ったのは失敗だった.
- 来年度以降「公平」と「厚生」を隔年で交互に提供することになるかもしれない.その際,テキストが割高に思えるかもしれない.ひとつの科目では 4章か3章分しか使わないわけだから.
- 来年度以降テキストを必読文献から外すべきか尋ねた.家で拾い読みするのであったほうがいいと Ns.ノートだけで理解できるようにするには,けっきょくノート自体をテキスト並にすることになる.したがってテキストはノートとべつにあったほうがいいことにはだいたい理解がありそう.ただ,問題はテキストの値段だろう.今年は 4300 円くらいになっていた (生協に入荷直後に買ったひとりは 3600 円だったそうだが).買いたくない学生は各自の判断でコピーする方法はあるが,fair use を超えるかもしれない.Copyright Clearance Center を通じてコピーする権利を買うと,「公平」のばあい80ページはコピーが必要だから1500円くらいかかる.どうやってコピー代よりも高くなる額を実効的に徴収するかという問題がある.
- 時間的に苦しくなってきた.来年度以降は数学を授業時間にやるのはやめたほうがいいかもしれない.
課題 1 へのコメント.
Ns は代表的なオークション方式 3 つを挙げてくれた.お金を使う方法なので Chapter 2 の範囲外だが,まあいいだろう.ただ,入札・オークションはひじょうによく研究されている分野なのでオリジナリティという点からは物足りなかった.合理的な個人だったらどう行動するかを理論で理解した上で考え直すと,理論で捉えきれていないことも分かり,感想も洗練されたものになるのでは.将来機会があれば次の本でも参照するといい: 横尾真. オークション理論の基礎: ゲームと情報科学の先端領域. 東京電機大学出版局, 2006. ゲーム理論の初歩から解説した本で,本文140頁もない.情報科学者らしい観点もうかがえて興味深い.
Ns はこのほか,盗人のグループが処分しにくい盗品を盗んだときの配分と,1人の女性を獲得するための複数男性間の競争ルールとに触れていた.それらについては授業中コメントした.そのとき「無駄な闘いはしない」というアイディアが応用できるかもしれないと言った.そのアイディアに基づく配分法については,三原論文の解説記事を参照. 男が女を取り合う話じゃなくて,女が子供を取り合う話をあつかっている.
Ny は大学の成績評価での GPA (Grade Point Average) の問題点を指摘し,FIFAランキング (サッカーにおける国のA代表の強さを示すランキング) の変更について報告してくれた.どちらも具体的・特殊なランキングルールであり,リポートの題材としてはいいと思う.
GPA についてはひじょうによく理解できた.Ny はそれに批判的で,Average を取る前の GP (?) がいいという主張のようだ.GPA は質のみの指標であるから,量をふくんだ GP がいいという.ひとつの指標を採用するということにあくまでもこだわればむずかしいところだが,じっさいはGPA と取得単位数という具合に複数の指標が用いられている.質と量を混ぜた指標である GP より,それらを分けた GPAと取得単位数の併用のほうが分かりやすいとボクは思う.
なお Ny の記述に反して,GPA はじっさいのところあまり用いられていない.この大学では成績表にも載らないはずだ.むしろ成績表にも載せ,修了要件にも含めて,もっと利用した方がいいとボクは思う.GPA を載せた成績を発行できるようにしろ (オプションでいいから) とだいぶ前に言ったことがあるが,導入されてない模様だ.
ところで Ny は「特に学部においては『優でなければ不可にしてくれ』との申し出も少なくないと聞く」という.これには驚いた.学生がGPA を完全に誤解しているか,ほかの理由で行動していることを物語っている.GPA では不可の科目も登録単位数ふくまれることに注意.不可は零点として計算されるので GPA を下げてしまう.もし学生が合理的に行動しているとすれば,それは学外向けの成績表に GPA も不可の科目も載らないことが理由であり,GPA が使用されているためではない.成績表にそれらの両方を載せるなど,GPA をもっと利用するようにすれば消えてなくなるはずの行動だ.
FIFAランキングについては,細かいことはよく分からなかった.具体的に問題点を指摘してくれたのはいいのだが,こちらの知識不足あるいはルール自体がじゅうぶんオープンでない (?) ためか,その問題が起こるメカニズムはかならずしも明確でなかった.あと,リポートなので,権威ある情報ソース・信頼性の高い情報ソースを載せもらいたかった.読む側が必要に応じて確認できるようにするのがリポートのマナーである.問題の所在をしめしてくれた意義は認める.
ひとびとが選択肢について持っているランキングを集計するルールについては 2 章で学んだ.一方,選択肢同士が (スポーツチームにおける勝敗や,Web ページにおけるリンクなどの) ランキングとは異なる関係を持っているときに,それら選択肢をうまくランキングするルールは2章で学んだルールとは異なるものだ.前者のルールについてはボク自身過去取り組んで来た.後者のルールについては社会科学者の関心はあまり高いとはいえないが,個人的には少し関心を持っている.FIFAランキングは後者の一例としてあつかえるとおもう.
11/13/06 Class 6
1840-2000 (Chapter 4, Sections 8-10); 2010-2155 (Chapter 5, Sections 1-5).
1825 までに3人入室.Ns 1840 入室.
- 今回初めて全員がテキストを持って来た.
- Section 4, Section 8 の最後に出て来た,equal sactifice method に対応する図の説明が不十分だった.このグラフの全体は,原点からの45度線より上にある.現在額の組が点 (c1, c2) 付近 (課税前所得のペア) では,所得の大きい個人 2 から多くを取るため,グラフの傾きが急になっている.現在額の組が低くなるにつれて,(依然として個人2の額の方が大きいが) 額の格差が小さくなる.現在額の大きい個人2から依然として多くを取るが,とるべき額の差も縮小している.そのため,原点に近づくに連れて傾きがなだらかになる.
- ふぐのおいしい店を聞いたら,下関のなら知っているとふたり.いや,そんなに高級なところでなくていいのだ.で,この日はボクはけっきょく情熱ホルモンに行った.
11/18/06 Class 7 (補講)
1745-1950 (Chapter 5, Sections 6-8), 2000-2125 (Chapters 1-2 の演習問題).
これまで聴講していた T から今後欠席と連絡あり.
- 演習問題はこのていど時間をかければいいだろう.それでも抽象度が高い問題は学生には手応えあったようだが.
- 「数学というよりほとんど国語」(?) と 2 章の演習問題の感想を漏らす Ns. たしかに数字を操作する数学ではない.抽象概念を操作する数学であり,論理が中心となる.言い換えれば高校数学を忘れていても問題ないということ.数学科で言えば学部一年生のはじめの集合論レベル.
11/20/06 Class 8
1830-1930 (Chapter 4 の演習問題), 1930-2000 (Chapter 5 の演習問題), 2000-2055 (茨木1章の例題と練習問題をいくつかピックアップ).
Ns と F が都合悪くて欠席.きょうは Ny だけ.
- 演習問題はじゅうぶん時間をかけたと思う.来年度は Chapters 1-2 の演習で 1コマ,Chapters 4-5 の演習で 1 コマ取り,それを 13-4 回目としたほうがいい.15-6 回目は試験.
11/24/06 Class 8 の補講
1745-1915 (Chapters 4-5 の演習問題), 1915-2000 (茨木1章から).
約束していた Ns が出席.
- 「やっていることがひじょうに論理的で哲学みたい」と Ns. じじつ米国の大学院で哲学科に入ったら,みっちり論理学を叩き込まれる.様相論理など論理学自体を専門にするひともいるし,その他の哲学分野でも議論のステップをきちんと確かめられることは重要だから.ちなみにボク自身も哲学の大学院で論理学の授業を取っていたことがある.
「この研究室に並んでいる本を見ると,なんの専門か分からなくて妙な気分がする」と Ns. ゲーム理論の本が多くある一方で,政治学,論理学・数学の各分野の本もそれに劣らないくらいあるし,暗号などコンピュータ理論の本もあるなどと指摘.ほかにもミクロ経済学,公共経済学,社会選択,憲法学,リバタリアンものも多いし,倫理学や女性学や写真集なんかもあるし,マクロや企業その他の応用経済学もあるけどね.よく使う本は家に置いてあるという事情もある.研究の多くはジャーナルに発表されるだけで本には反映されない (そのため専門分野はジャーナル記事を読んで,専門外は本を読んで勉強するのが中心となり,蔵書としては専門外のものが多くなる) という事情もある.
確かに客観的にみれば,雑多な分野の本が特定分野に集中することなく並んでいるという印象はあるかも.経済学者は多かれ少なかれこういう傾向 (jack of all trades) があるけど,自分のばあいその度合いが大きい気がする.あと,異分野の方が数学的には近いことがあるため,勉強しやすいという事情もある.たとえば公理的方法など抽象数学を使って経済理論をやっている自分には,微分方程式など工学的数学を使う経済学分野よりは有限数学を使うコンピュータサイエンスの方がとっつきやすかったりする.じっさい抽象化してしまえば,異分野の理論でも互いに似た数学的構造を持つものが多い.抽象数学は概念の構築や明確化に絶対的に強みを持つ.そのため多くの分野で応用されているのだ.
もし自分の蔵書たちに統一テーマがあるとすれば,「規範」とか「数理」あたりだろうか.ただ,ビジネススクールに参加していることもあって,最近は大きなものから小さなものに関心がシフトしている感じがある.政治とか公共経済といった社会全体の問題から,個別組織内部の問題,コンピュータの内部で処理できるような問題などに関心が移って来たかもしれない.小さい頃アマチュア無線をやっていたし,高校時代は電子工学 (←当時人気が高かった) とかコンピュータ科学の専門家にでもなろうとか思っていたので,そちらに回帰しているのかも.
11/27/06 Exams
1820-1900 (自習), 1900-2050 (試験), 2050-2130 (採点,雑談,解説)
Ny と Ns が受験.
- 試験直前に流した情報は,「期末試験と成績」の「「公平」試験2日前情報」を参照.
- 正解や講評は「期末試験と成績」を参照.整合性や比較基準にかかわる抽象度の高い問題が予想以上に厳しいようだ.試験時間に多少説明を加えた.
12/4/06 Class 1
2110-2225 (Chapter 7, Sections 1-3).
F, Ny, Ns が出席.Ny 以外は聴講.
- TMO (中心市街地活性化にかかわる団体) と GSM 学生・教員とのミーテイングに三人が出席したため開始時間を延期.
おかげで図書館から要求されていた研究室所蔵図書のチェックがだいぶ進んだ.
- そういえばさいきん高松の中心市街地が再開発されて活気が出て来ているらしい.残念なことだ.寂れた街の方が自分は好きなのだ.
もともと中心市街地にひとが多すぎるということで政府は郊外化を進めたんじゃないのか.
(べつに政府が進めなくても自然と郊外に広がったと自分には思えるが.) それで郊外化の効果が強く出てくると,今度は中心地の活性化に政府が乗り出す.いい加減にしてくれ.高松市の市街地は寂れているとはいっても,犯罪の温床になるほど荒れてはない.社会問題でもなんでもない.単に過去の繁栄がなくなっただけだ.もっと寂れてちょうどいいんじゃないか.
一方でマンションなんかは増えている.店だって十分というより過剰にある.住民にとっては住みにくくはないのだ.住民が増える一方でいらない店が潰れてくれれば市街地は活性化できる.たとえ中心市街地が活性化しなくてもほかに住む場所も商売する場所もある.いずれにせよ問題はない.それらの動きを邪魔しなければよいのだ.
- [追記] 四国新聞の報道によると,「壱番街は、土地の所有と利用を分離して、地権者らでつくる「まちづくり会社」が地権者と定期借地権契約を結び、土地を取得しないことで事業費を抑えるという画期的な再開発手法を考案。また、商店街というコミュニティーが主体となって、商店街を管理・運営するタウンマネジメントプログラムに基づき、今後、小規模連鎖型のプロジェクトを通じて、街並みをリニューアルしながら、新しい商業空間を創出していくという。」ふむふむ.上を書いたときに想定していたありがちな状況と幾分違っている.どの程度「民間主導」と言えるかは不明だが,地権者間のある種の困難な配分問題は解決できたということだろう.行政など第三者が街を「マネジメントする」というのはひどい言葉の使い方だと思っていたが,所有者あるいはそのエージェントがやるならたしかに「マネジメント」で悪くない.ただ,報道で見る限りは発想が「商業空間」に偏っている感じはある.同時に「住空間」にするのはむずかしいんだろうか.ある程度裕福な高齢者が道路に出ることなく日常生活を送れるような空間を作るには悪い場所じゃないと思うのだが.
12/11/06 Class 2
1830-1850 (雑談); 1850-2000 (Chapter 7, Sections 6-8); 2000-2115 (Sections 4-5); 2115-2140 (クイズ).
Ny のみ.ほかのひとをしばらく待ったのだが,来なかったので簡単なセクションからはじめた.
- やはり Section 4 がハードだったと Ny.
- 2115 以降に授業とは直接関係ないクイズ.ひとつは勝者のわざわいにかんするもの.
もうひとつは誤認の海賊の宝石の分配.いずれも横尾『オークション理論の基礎』から拾ったおもしろい例.
- 雑談のなかにあった,どこに住むかという問題も重要な意思決定問題である.階層的意思決定法という方法を説明した例を読むと,
家賃,周辺環境,通勤時間,部屋環境などが評価基準として挙げられている.通勤について言えば,かならずしも会社に近い方がいいとはかぎらない.また,単なる距離だけでなく電車の乗り換えのスムーズさなんかもかなり重要なファクターだろう.ひとによっては寄り道できる街を通勤経路上に確保することを重視したりする.
12/18/06 Class 3
1830-1930 (Chapter 7 演習問題), 1940-2000 (雑談), 2000-2145 (船木7章).
Ny のみ出席.
- ややゆったりしたペースでやった.
- マッチングは今日盛んに研究されているホットなテーマでもある.Gale-Shapleyアルゴリズムは日本医師臨床研修マッチングプログラムでも扱われている.理論自体もおもしろい.だが残念ながら聴講の三人は当日欠席を連絡して来た.ぜひ「視聴覚教材」で自習して欲しい.
- 出席した Ny は普通の就職市場にも GS アルゴリズムが使えないかと言った.ふつうの就職はお金を使って「市場的に」解決してもらいたいところ.しかし公務員試験合格者を各省庁に割り当てたりするためなら,使ってもそれほど問題ないかもしれない.
1/15/07 Class 4
1835-1950 (Chapter 8, Sections 1-2), 2000-2130 (Chapter 8, Sections 3-7).
Ny のみ出席
- 本日はほかのひとが出席するとは想定せずにさっさと授業を始めた.欠席の連絡をしてきた Ns が,来週は出席できそうだと言って来た.
- 「資源配分と公平」のための授業評価アンケートの用紙が届く.特別な紙を使っているわけでもなく,科目名も印刷していない.これでは複製が簡単すぎる.また,教員が回収して提出しろという.こういうものは学生が回収して提出するものだろう.普通は授業中に記入してもらって回収するのだろうが,すでに終わった授業だ.小人数だと授業中記入するのもやりにくいだろう.ということで,授業時間外に記入してもらうことにした.(そのかわり,用紙に僕が科目名を記入し,サインも残しておいた.これで他科目への流用は防げるだろう.) しかし,それをどうやって回収するか.問題点を受講生と話し合っていた.授業のあと,教務委員 (評価委員?) に学生各自が提出できる箱を用意するように要望を伝えておいた.
- この授業とは直接関係ない話.同級生のプレゼンテーションを聞くのもいいが,たまにはプロのプレゼンテーションを見て分析するのもビジネススクールの学生としてやっておくべきことかもしれない.「Steve Jobs's Keynote Address はビジネススクール学生必見!」を参照.最低聞くべきは11分程度.
1/22/07 Class 5
1840-2005 (Chapter 8, Sections 8-9), 2015-2245 (Chapter 9, Sections 1-5).
Ny のみ出席.
- Egalitarian allocation a では 各人が自分の割当 ai と全体の一定割合 ra0とを同等に好むのだが,(ふたりだけがいて,そのふたりが同等の権利を持つ場合) その r が 1/2 を下回らないことは Ny もすぐ理解してくれた.
- Chapter 9, Section 5 の competitive allocation の定義の記号の説明が不十分だったので解説.ノートの改訂版に反映させた.
- 怠慢な評価委員に任せておいてもダメだということがまた判明したので,僕から学務に直接言って授業評価アンケートの回収箱を作ってもらった.ところが本日研究室に戻ったところ,アンケート用紙二枚がまだドアの箱に残っていた.一週間経ったのだが,大学に一度も来なかったんだろうか.早く提出してほしい.
- それにしても,あのアンケートは講義に偏っている.単位制度上,講義は自習時間の半分に過ぎないのに,全問が講義にかんする問いだった.あと,最短時間で最大の効果を挙げているかという問いもなかったような.
- 「Yahoo! ブリーフケースに行けなかったので,Chapter 9 の講義ノートを印刷できなかった」と Ny. その言葉に唖然とした.講義ノートは学期の初めに zip 圧縮形式で一括でダウンロードできるようにしている.(zip が開けない人のために,章ごとのファイルとしてダウンロードできるようにもしている.) その際,ダウンロードは一ヶ月だけ有効だと言ってある.当然その時点ですべてのファイルを印刷するか,少なくともファイルとして保存することを想定している.授業の当日になって慌てて印刷などということは本来あってはならないし (しかし実際は去年もそういう学生がいた),万一そうするにしても少なくともファイルは手許になければならない.リンクが無効になっているはずの Yahoo! ブリーフケースから授業当日ダウンロードしようなんてことは絶対あってはならない.話を聞くと,自分のパソコンを修理中だということだった.まあ,それなら仕方ない面もあるが,いずれにせよ当日になって慌てるというのは管理が甘すぎる.そんなんでは研究科をマネジメントできないマネジメント研究科の教授なみに成り下がってしまう.ちゃんとネット上なり USB メモリーなりにバックアップしておけば,そのバックアップ分を大学のパソコンで開くこともできるはずだし.さいわい受講者が限られているので,今回は研究室のプリンタで対応できたが.
1/29/07 Class 6
1710-1745 (Chapter 9, Section 3, last paragraph), 1745-1900 (Chapter 9, Sections 6-8),
1910-2010 (Chapter 9, Sections 9-10), 2020-2230 (演習問題 Chapters 8-9).
Ny のみ出席.
- きょうは予定を前倒しして二週分の授業をするため,早く始めた.
- Chapter 9, Section 3 最後の「等分を初期保有とする経済では,効率で egalitarian な配分は個人合理的 (acceptable) である」という命題がある.この証明を納得できるように日本語で書き直すことを宿題にしたところ,受講生は単なる和訳を提出した.それではダメだということで,まず最初にその証明を丁寧に解説.これは試験に出すつもり.
- いつもより積極的に質問を受ける.ほとんどが解き方を (ノートで明示するかわりに) 演習問題に回したものにかんする質問だった.そして演習問題については,同じようなパタンが繰り返し現れるのに気づいたと思う.この授業のいいところは,疑問点がほぼ百パーセント解決できることかもしれない.なにも疑問を百パーセント解決してしまうような授業がいいとはかぎらないが,容易に予想できる疑問にさえ答えられない授業では価値がない.そこで予想できる疑問についてはあらかじめこちらでも対策している.こちらが予想しなかったような疑問をあげられるかどうか,そこが受講者の腕の見せどころかもしれない.
2/5/07 Exams
1840-2120. Ny 出席.
- 1800 ころ Ny 入室.しばらく自習.
- 1840 に試験開始.2020 の時点で一度採点.A をとるには75点を要求することを伝え,ヒントを与えて少し復習してもらう.
- 途中75点に到達していないものとかんちがいしたため,必要以上に粘ってもらった.
三原麗珠