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資源配分の公平

シラバス

香川大学大学院地域マネジメント研究科2007年度
資源配分の公平 (Equity in Resource Allocation)
応用科目; 2単位; 第2学期前半; 水曜日 6-7 校時 (1820-2130); 三原研究室
三原麗珠

効率的な資源配分方法としてもっとも優れたものは価格 (市場) メカニズムだろう.しかし私的機関や公的機関が,価格メカニズム以外のやり方で「だれがなにを受け取るか」を決める場面は意外と多い.ひとつだけある腎臓をどの患者に人工移植するか? コンピュータ・ネットワーク上でサーバに送られて来るジョブをどういう順番で処理すべきか? 都市,住居,コンピュータのそれぞれをつないで (道路,上下水道,ケーブルなどの) ネットワークをつくるとき,どのように費用を分担すべきか? 企業間の合弁事業で利益をどう分け合うか? 公共施設をどう立地すべきか? 会社内でデスク (あるいはオフィス) やアシスタントそして勤務セクションを社員にどう割り当てるか? こういった日常起こる具体的な問題は,「公平」の確保という理由により価格メカニズム以外の決め方で解決されることが多い.

では「公平」とは何か? この科目ではさまざまな具体的なケースをとりあげ,それぞれのケースで資源配分の「公平」の意味するところを体系的分析によってあきらかにする.とくに「公平」を構成する基準をひとつひとつ明確に定式化し,複数の基準が互いに矛盾することなくどこまで同時に成立しうるかをあきらかにする.その分析の背後にあるのは,《公理的方法》とよばれる強力な現代的手法であり,社会選択や協力ゲーム理論といった分野で広く用いられている.それぞれの公理は,たとえば「ある配分 x 以外に実現可能な配分 y があって全員が x より y の方が望ましいと思うならば, x は採用すべきではない」といった,配分ルールにかんする要請を表現している.

この科目は,組織内のさまざまなものごとの「決め方」を見直したり設計したりしたい民間企業人はもちろん,つねに「公平」を意識しつつ仕事をすすめていかなければならない公共部門関係者,そして論理的思考力を鍛えることによって配分競争における説得力や交渉力を高めたいあらゆるひとびとにすすめる.その一方で,公理的方法への純粋な学問的関心を持って受講する学生の期待にも一定レベルで応えられる内容になっている.さらにおまけとして,英語の書籍から必要な情報を拾い出す作業をとおして,英文への抵抗感を和らげる機会も提供している.

前提科目・関連科目

この科目にたいする前提科目はない.余裕があれば「ゲーム理論」「経済分析」「微分積分と線形代数」などを通じて数理的思考力を鍛えておくとよい.それらの科目の知識を再確認できる場面も少しある.たとえば Young 5 章では協力ゲーム理論で学ぶコアやシャプレイ値が登場する.講義内容を理解するためだけなら,数学の知識はほとんど必要ではない.(理解を深めたいひとは,あらかじめ茨木 (2004) などで集合と写像を勉強しておくことをすすめる.使われる数学は抽象的なものであり,日常言語そのものを記号化した感じ.そのため,ふつうの数式とちがって意味を取るのはひじょうに簡単.)

関連科目を関心対象で分類すると,おおよそ以下のようになる.ゲーム理論や経済学は各主体レベルの最適化を前提として,その帰結を分析・評価する (「ゲーム理論」「経済分析」「費用便益分析」「都市開発論」などの主関心).あるいは主体レベルの最適化の帰結が社会的に望ましいものになるような制度を設計する (「資源配分の公平」「配分ルールと厚生」の主関心).そこでは個々の主体レベルでの最適化は主体がどう行動すべきかをしめすものではなく,あくまで分析のための単純化と考えられる.一方,意思決定論は最適化自体に関心を持ち,そのための方法を追求する (「意思決定分析」や「オペレーションズ・リサーチ」).そこでは主体がどう行動すべきかをしめすことを重視する.

密接に関連する科目は「配分ルールと厚生」(隔年開講予定) である.この科目「資源配分の公平」では主として単一財の配分問題をあつかう.個人がその財をより多く好むか,より少なく好むか,のどちらかの場合を考えるので,とりたてて選好を導入しない.科目「配分ルールと厚生」では主として複数財の配分問題をあつかうため,選好あるいは効用の概念が重要になる.これら二科目をマスターすれば,組織内外のルールづくりにたいして建設的・批判的な視点を持てるようになるだろう.(たとえばルールの欠陥やルールがカバーできていないケースを容易に見つけられるようになり,ルールを適用されるひとびとの潜在的な不満をあらかじめ削減できる.)

講義の進め方・成績評価

一部「虫食い」(空白)にした講義ノート (pdf) をネットで配付し,Young のテキストに沿って講義形式ですすめる.受講者全員の積極的な質問やコメントを歓迎する.(互いに発言の自由を尊重してもらう.詳しくは別掲のガイドラインを参照.) 講師からも受講者に質問する.本文の例,主要概念,定理の意味の直感的理解を重視し,細かな証明や Appendix にある数理的一般理論の大部分は省略する.受講者は授業内容やテキストを参考にしながら与えられた演習問題を自習していく.自習用に講義内容を凝縮した QuickTime 音声ファイル (mov) とメモ (pdf) をインタネット配信する.ブロードバンド接続環境ならば学外でも利用できる.再生速度も好みに応じて調節できる.

単位認定は,中間試験・最終試験・宿題 (追加演習問題など)・授業への貢献度などにもとづく.最終試験のウエイトが高い.最終試験のほとんどの問題は演習問題あるいは中間試験の類題を予定.

必読文献・参考文献

1. 必読文献

2. 参考文献

2.0. 数学の補足:

2.1. 実際的な資源配分問題の公理的分析で,この二科目の関心にひじょうに近いもの:

2.1.1. 他大学の類似科目:

2.1.2. カバーする範囲の広いもの:

2.1.3. 特に焦点を絞ったもの:

2.2. 資源配分以外の公理的分析

公理的方法は資源配分問題以外にも,投票理論やゲーム理論に応用されている.三原の Web ページにある「合理選択政治理論(実証政治理論)の手引き」にあげた文献案内を参照のこと.

授業計画

各トピックの該当章 (たとえば Y1 は Young の Chapter 1 を表す) や講義回数は以下の通り.この他に Moulin (2003) などから例を追加することがある.


講義開始前のおしらせ

2007年4月

メールにて学務関係の疑問に応え,文献入手方法を連絡.

2007年9月25日

文献入手方法などについて学生宛メール.以下はメール配信登録方法について:

次回以降の連絡メールは,受講者と希望者にのみ配信予定です.初回の講義を欠席した配信希望者は,登録・聴講・その他の別を明記した上で10月10日までにお返事ください.メールを受け取れるアドレスなら何でも構いませんが,学籍番号とお名前は明記願います.

課題

「Young 1994 演習問題」として配布する課題以外の情報をここに掲載する.

集合と論理にかんする小問3題 (平成19年度秋期 基本情報技術者午前問題 問 8, 9, 17) を渡した.スマートな解法を考えよ.

選択肢にかんする個人のランキングを社会ランキング (コンセンサス) に集計するルールを考える.いま,選択肢集合と個人の集合は同じとする.(たとえば web サイトの検索エンジンはこの種のルールを基礎にしていることがある.個人と選択肢をそれぞれ web サイトとし,あるサイトから別サイトへのリンクを前者のランキングで後者がトップにあるとみなす.複数のトップを許し,かつ個人ランキングの全体ではなくトップのみを考慮する方式.) このようなルールはどういう性質を満たすといいだろうか.思いつくだけ挙げよ.具体的なルールを提示してもいい.

Maimonoides' rule で全体量 a0 から均等レベル x を求める式は方程式で表されていた.x を a0 から直接計算する式をしめせ.人数4人で要求量は c1, c2, c3, c4 の順に増える (等しい場合も) とする.

要求問題のフレームワークで所得税問題を表現せよ.a0, ci, ai はなににあたるか.

Moulin 2003 Excercise 4.4b (除くべき選択肢は指定) and Example 4.4.

試験と成績

「11/14/07 Class 7 (試験)」の記録を参照.受講生には「秀」を与えた.

受講生の感想

講師から

「感想を送ってくれれば講義ページに載せる.過去の講義ページにある感想が参考になるかもしれない」と受講生に伝えたところ,次項の返事が返ってきた.2005年の講義ページにある質問例を参考にしたようだ.いちぶ現状に合わない項目もあるが,そのまま掲載し,講師のコメントを添えておく.

受講生の感想とそれにたいする講師からのコメント

「本講義に対する満足度は非常に高いです。ありがとうございました」という受講生の感想:

○ 履修済み科目及びその成績
・ゲーム理論    (担当教官:宍戸先生) 秀
・微分積分と線形代数(担当教官:曽先生)  秀
・経済分析     (担当教官:曽先生)  今期受講 
・OR       (担当教官:三原先生) 今期受講
・配分ルールと厚生 (担当教官:三原先生) 隔年開講の未受講

[講師コメント] この受講生に欲しい成績をたずねたところ「秀」と答えた.なるほどほかの科目も
よくできている.「秀」を希望すると表明された以上,こちらも口頭試問や筆記試験を徹底的にやる
ことになったわけだ.

○ 必要な前提知識
資源配分の公平については特に前提知識は必要ないと思う。先生から受講生への一方
的な講義でなく受講生の理解に重点をおいた講義であり、受講生がわかったふりをし
なければ講義の場で疑問点も解決できる。
テキストや講義ノートは英語であるが、親切丁寧な講義および視聴覚教材の配布もあ
るため英語に不安のある人も心配ない(わかりにくい日本語のテキストや魅力ない日
本語の講義のほうがよほど問題ではなかろうか)。

[講師コメント] わかったつもりだったのに講師に突っ込まれてしまい,「わかった」レベルが
不十分であることに気づいたこともあったはずだ.

○ この講義の単位数
この講義の単位数をどう感じるかは受講生次第といえる(私自身は2単位で問題ない
と思います)。
先生は講義開始時に、「予習はしなくていいから。」と話しており、単位取得のみが
目的なら、試験前に先生が教えてくれるポイントのみ復習すればよく(シラバスにも
書いてあるが最終試験のウエイトが高い!)、非常に楽な科目になるであろう(講義
ノートの虫食い部分は、講義内で十分理解できる)。もちろん、深く追求したければ
十分に時間をかけて楽しむことも可能である。

[講師コメント] 現状の二科目4単位分を以前は一科目2単位で教えていた.この項目
はその時代ならではのものだ.なお,この受講生自身はこの科目にかなり時間
を割いたようだ.週に二時間授業があるので,週一時間の科目よりは自習時間も
多くなるはずだ.それを考慮した上で「かなり時間を割いた」ということかは不明.

○ 演習問題について
講義内容を確認し、知識の定着を図るには演習問題は必要不可欠と考える。問題と解
答を同時に配布して講義の時間に解説を行う現在の方法でいいのではないだろうか。
問題ごとに受講生を講師役に任命して解説させる方法も非常に面白いと思う。
私自身は、問題を解いて答えを確認し、理解できない部分を講義での説明・解説時に
確認を行った。

[講師コメント] 「問題ごとに受講生を講師役に任命して解説させる方法」は少人数
だったら可能かもしれない.今回採用したのは,受講者がひとりだったので,それを
やることにより全般にわたっての口頭試問にもなるためだった.

○ 印象に残った内容
腎臓配分問題において、私が考えた配分順位がテキストのアンケート結果表に掲載さ
れていなかったこと(このアンケートにおいて誰も選択していないものを選択した自
分の感性にびっくり!!)。
公平と聞くと、唯一の方法があると勝手に思っていたが、いろいろな考えがあること
は新鮮であった。自分に有利な公平の手段をいかにうまく活用すべきかを考えなくて
はいけないと認識させられた。

[講師コメント] 最後の一文はややひっかかるひともいるだろう.公平というのは自分の
有利不利の問題とは独立だからだ.しかし現状よりも自分に有利なやり方がたまたま
公平の観点からも説得力を持つことはありうる.だれも望まないやり方が慣習になって
しまっていることもあるからだ.そういう場面その他いろんな交渉の場では,
公平のさまざまな構成法を知っておくことはプラスになるはずだ.

○ この科目に関するプロジェクト研究
講義時間中にもお話ししましたが、80歳の人と20歳の人の選挙の1票が同じ扱い
でいいのだろうかということを研究することができないでしょうか。現在の人口構成
から考えると団塊世代の数の影響力が今後しばらく続く可能性が高く、それによって
もたらされる結果が本当に公平といえるのか、はなはだ疑問を感じることが理由です。

[講師コメント] ううむ,ラディカルだ.法制度を大きく変えなきゃならんじゃないか.
ぜんぜんビジネススクールらしくないからボツだ (笑).
票の重みの操作は恣意的になるので,あきらめたほうがいいと自分は思う.
(選挙区を地域だけでなく年齢で分ける方法も可能だが,そのばあいでも高年齢層を
じっさいよりも低くカウントするのは無茶だろう.たとえ現状では選挙区ごとに票の重みが
大きく異なっているにせよ,その事実をもって正当化するのはむずかしい.)
香川大学と香川医科大学が統合して学長選挙をしたときなんか,
両大学の重みが同一になるように調整したけど,あくまでも一組織の内部での話だ.
Young にも,page 8 に
Parity means that the claimants are treated equally, either because
they actually are equal or becasuse there is no clear way to distinguish among them.
とある.ひとびとをはっきり区別する理由がないときは便宜上同等にあつかうしかないのだ.
現実的には「敵を分割する」つまり,政治家が多数派を割るような争点を設定する
ことで対応することもできることもある.
ちなみに社会選択理論は望ましい意思決定の可能性をいろいろと追求したが,その結果はかなりネガティブだ.
それを受けて,望ましいルールの設計というよりも,ひとびとはどういう戦略的行動をとり,
その結果がどうなるのかを研究する実証政治理論が最近は盛んになっている.

授業記録

10/5/07 Class 1

1825-1845 (9/25 メール,シラバス), 1845-1950 (Sections 1-4), 2005-2200 (Sections 5-12).
出席は 1 年生の S ひとり.
Young Chapter 1, all sections.

10/10/07 Class 2

1820-1835 (茨木,真理値表にかんする質問に答える), 1835-2000 (Chapter 2, Section 1-4, up to page 32, second paragraph [page 5 of the notes]), 2010-2140 (the rest of Section 4).
Young chapter 2, Sections 1-4.

10/17/07 Class 3

1830-2050 (Sections 5-6; メカニズム・デザインのノーベル賞受賞について 20 分ていど), 2050-2130 (社会選択のその後とメカニズムデザイン).
Young Chapter 2, Sections 5-6.

10/24/07 Class 4

1820-1840 (課題解説), 1840-2140 (Sections 1-8).
Young Chapter 4, Sections 1-8.

10/31/07 Class 5

1805-1815 (先週出した宿題の解説), 1815-1825 (今週出す宿題解説),1825-2000 (chapter 4),2010-2145 (chapter 5).
Young Chapter 4, Sections 9-10; Chaper 5, Sections 1-5.

11/7/07 Class 6

1815-1825 (先週出した宿題の解説),1825-2025 (chapter 5),2025-2130 (演習問題正解解説; かなり省略できた),2130-2200 (テスト).
Young Chapter 5, Sections 6-8. Chapters 1-2 の演習問題.

11/14/07 Class 7 (試験)

1755-2020 (事実上の口述試験),2020-2045 (自習),2045-2105 (筆記試験),2110-2120 (筆記試験続き).

11/21/07 Class 8 (休講)

繰り上げ実施した仮試験が完璧だったため本試験は中止.(前回の記録参照.)


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